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伏線相違の連鎖

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「自分を守るための抗体なんでしょう? だったら、二度目で死んでしまうというのは?」
 という隅田に、
「ここで出てくるのが、アナフィラキシーショックというものなのだが、もう一度スズメバチに刺されると、毒が侵入してきて、それに反応するのが、抗体なんだよ。その抗体はハチの毒性に過敏に反応してしまって、副作用のようなものを起こす。それがアナフィラキシーショックというものなんだ。これは、一種のアレルギーのようなもので、例えば、何かの食べ物にアレルギーを持っていると、それを食べると身体の中の抗体が反応してアナフィラキシーショックを引き起こす。下手をすれば死に至るので、アレルギーの有無は絶対に本人と、それを知っているまわりがしっかり監視する必要があるし、今は食べ物なんかにも、アレルゲン表記として、義務化されているというのは、そういうことがあるからなんだ」
 と、桜井刑事に教えてもらった。
「そういえば、アレルギーというのは食べ物だけではないですからね。ゴムや、金属でもアレルギーがありますよね?」
 と隅田がいうと、
「そうだな、ラテックスアレルギーであったり、金属アレルギーというものだな」
 と桜井刑事は言った。
「金属もそうだけど、ラテックスアレルギーも大変ですよね。コンドームでもダメなんでしょう?」
 と聞かれた桜井は、
「ああ、そうなんだよ、だから、今はラテックスアレルギーの人でも大丈夫なように、ポリウレタンであったり、イソプレンラバーでできているコンドームもあると聞いたことがあるそ」
 という。
「そうなんですね。男としてのエチケットですからね、それに、アレルギーというのは女性にだってあることなので、男性が初めてその子とセックスをする時って、基本的にアレルギーだとは知らないはずなので、男が用意していることはないですよね。そうなると、女性側が絶えず携帯していることになるから、男にまず、これを使ってと言わなければいけない。アレルギーだとちゃんと言えばいいけど、それを言わずに渡すと、相手の男性は、その子が日常的にコンドームを使用しているんじゃないかって勘ぐってしまうのも無理もないかも知れない。それを思うと、アレルギーというのは、一歩間違えると死に至ることもあるので、よほど気を付けておかなければいけないんですね」
 と隅田は言った。
「そうなんだ。特にさっきのスズメバチの話に戻るんだけど、二回目に刺されて毒が回ってきたところで抗体と反応し、そこで余計なアレルギーを引き起こすことになる。それがいわゆるアナフィラキシーショックと言われるものなんだ。つまりね、何が言いたいのかというと、ハチに二度目に刺された時に死ぬというのは、ハチの毒が直接死因になるわけではなくて、直接的にはアナフィラキシーショックが起こって、それが死に至らしめるということなんだ。そこのところをしっかりと理解しておかないと、救急で救命しないといけない時の判断を誤ってしまうことになるからね」
 と桜井は言った。
「警察官というものは、救急救命が不可欠ではないが、他の人よりも危険な仕事であることは誰もが認めるところであろう。下手をすると、自分の命は自分で守るというのが究極なのかも知れないが、できれば、一緒に行動している人が守ってあげることに繋がってくる。もしその人を守れないと、一生のトラウマになってしまうことも普通にあるから、その後の警察官人生がそこで終わってしまう可能性もある。だから、死というもの、救護というものに対しても、真摯に向き合う必要がある」
 と、よく刑事部長が言っていたが、まさにその通りだと、桜井も隅田も、そして他の刑事も皆肝に銘じていることだろう。
 ただ、事件はそんな刑事課の人たちの都合に合わせてくれない。ひとたび事件が起こると、勉強などをしている暇もないくらいになるのが刑事課だった。
 二十四時間体制での交代制による張り込み、さらに靴をすり減らしての聞き込みなどの、いわゆる
「昭和の警察」
 と言われるちからわざによる操作方法も、旧態依然として存在している。
 もっとも、それが捜査のイロハなのでしょうがないところもあるのだろうが、犯罪も多様化しているところから、徐々に警察でも部署が増えていき、昔はなかった、生活安全課での、テロ対策であったり、詐欺やネット犯罪、細かいところでは、ケイタイ、スマホなどによる盗撮や、ネットや、振り込め詐欺などの犯罪が多発しているのが現状である。
 だが、刑事課は昔からの殺人であったり、麻薬捜査、マルボーなどの反社会的勢力に対しての捜査など、相変わらずと言ったところであろうか。
 K警察も最近は、落ち着いてきて、凶悪犯と言われるようなものはあまり起こっていないので、
「平和な時期」
 と言っていいだろう。
 いよいよ梅雨が明けて、夏本番ともなると、各地で猛暑日が続いていた。一時期はゲリラ雷雨や、線状降水帯なるものの発生で、水害があちこちで起こっていたが、幸いなことに、K警察署を含むF県では、毎年どこかで水害が起こっているのだが、今年は水害に見舞われることはなかった。天気予報でも、
「今日の午後からの雷雨に見舞われるところがありますので、ご注意ください」
 と毎日のように、気象予報士が話しているのに、当たらなかったのだ。
 ただ、そうなると問題になるのは、真夏の期間の水不足であった。
 過去にさかのぼってみると、ちょうど、二十年に一度くらいは大渇水に見舞われてきた市域だった。昭和の時代の写真などを見ると、タンクローリーが、学校の校庭のようなところに集まってきて、そこに、かなりの人の列ができていて、プラスチックの容器に水をもらっているという、
「水の配給制」
 という光景を見ることができる。
 何しろ、水道を捻っても断水ということで、水が出ないのだ。コップ一杯の水で、歯を磨いて、顔を洗って、風呂も入れず、シャワーも出ない状態。
「風呂はどうしていたんだろ?」
 と思ったが、
「二十四時間の断水ではないので、水が出る時間に水道から水をためておくんじゃなかったかな?」
 と、話を訊いた人も、まだ子供だったということで、記憶が薄っすらしかなかったようだ。
 とにかく、今では信じられない状況だった。
 一番の原因として、水がめであるダムが全体的に不足していたのが問題だったようだ。
 何しろ、一家に一台もくらーが普及していない時代のことである。電車に乗っても、冷房が効く車両は一つだけだったりして、あとは、窓を開けるか扇風機などのそんな時代のことである。相当な苦労があっただろう。
 今では考えられないような時代と言ってもいいだろう。パソコンもなく、資料はすべて手書き、コピーやファックスはあっただろうから、それくらいしか文明の利器のようなものはない。
 計算をするのには、電卓があったが、それだけで、あとは、すべて手書きだったので、本当にペンだこができていた頃である。
 今はオフィスの自分の机の上に、パソコンがあるのは当たり前で、すべての書類はパソコンから、最近では、ペーパーレスが進んでいて、印鑑もパソコンでできる時代になったのだ。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次