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伏線相違の連鎖

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「それはちょっと放ってはおけないね。実は今刑事課で捜査をしている事件に、毒殺による殺人未遂事件というのがあったんだけど、それに使われた薬品が青酸化合物だというんだ。どこから誰が入手したのかということも含めて、捜査が開始されたばかりなんだけど、今の話を訊くと、そのなくなった青酸カリが使われたということも言えるのではないだろうか? つまり、あまりにもタイミングが良すぎるということだね。ひょっとすると、小名木の事件に関係があるかも知れない。私の方から、それとなく、門倉警部に話しておくよ」
 と、清水警部補は相談にきた捜索願受理者にそういったのだ。
 清水警部補は、K警察署では、刑事時代には、門倉刑事と双璧の第一線の中心人物だった。門倉刑事が、警部補、警部と異例ともいえるスピードで出生していったことで、自分も一年発起し、警部補試験を受け、見事昇進したのだった。
 ひょっとすると、警部に昇進できるだけの実力があるのかも知れないが、それは見送ろうと考えていた。
「門倉警部と肩を並べるというのがおこがましい」
 と言っていたが、刑事課のカリスマとしての門倉警部の立場を作り上げて、自分はナンバーツーでいることが、一番だと考えているのであった。
「門倉さんは本当に素晴らしい人出、第一線にできるだけとどまって自分が捜査するという意気込みは尋常ではなかった。おかげでどれほどの事件が解決に導かれたのかということを考えると、その彼の功績は大きい」
 と清水は言っていたのだ。
「あくまでも、門倉警部の背中を見ながら進んでいくのが、自分の刑事スタイル」
 ということも言っていた。
 そんな清水警部補は、今回の殺人未遂事件には、ほとんど関わっていない。なぜなら、そちらにすべての力を注いでしまうと、それ以降何か別の事件が勃発すれば、対応できないということで、新たな事件が起こった時のために、捜査責任者になりうる人物として、清水警部補を身動きのとりやすい位置に置いていたというわけだ。
 捜査員も数人余剰を持っておいたのも、そのためである、
 今回の話を、門倉警部に持っていった清水警部補だったが、
「そうか、これはちょっと興味深い話だな。ありがとう、教えてくれて。分かったよ、こっちも事を荒立てないように捜査するようにしよう。どちらにしても、青酸カリの出所を調べるという捜査はしっかりしているので、そのうちにその病院にも捜査が及ぶのは間違いない。その時に、病院の責任者がどういう態度を取るか、興味深いものだね」
 と門倉警部は言った。
 今回の事件は、殺人未遂ということもあって、プレス発表はおろか、マスコミにはほとんど漏れていないと言ってもいいだろう。
 知っているマスコミがあっても、彼らがこの件に関して何かを言ってくるということはないだろう。
 一応捜査本部は立ち上がっているので、殺人未遂事件ということなので、情報も少なければ、記事にするほどのことではないと思っているのか、ほとんどこの事件を取り上げた新聞はなかった。
 一部の新聞が書いていたが、地元社会面の、しかもほとんど目立たない部分に、二、三行という程度の記事が書かれているという程度であった。
 そもそも、青酸カリの出所の捜査は行われていて、ただ、その中で病院からなくなった可能性は低いと勝手に考えていた。少なくとも厳重な病院であり、劇薬、毒薬に関しての管理がお粗末であrい、それが犯罪に利用されたなどとなると、どんなに大きな病院であっても、いや大きければ大きいほど、その想像を絶するような影響は計り知れないことになるのではないか?」
 と言われた。
 そんな厳重なところから青酸カリを盗みだすだけの行為をしておきながら、やったことが殺人未遂だというのは、あまりにもリスクが高すぎると思うのだった。
 その病院は、それなりに大きな病院であった。K市の中でも双璧をなすと言ってもいいくらいの総合病院で、入院患者も結構いるようなところなので、一人の看護婦がいなくなったくらいで、大騒ぎすることはないのかも知れない。
 病院が大きくなればなるほど、忙しさも増えていき、一人一人の状況を把握するのは難しいのだろう。
 ただ、それでも、彼女の所属する部署では、そろそろ問題になりかけていた
 さすがに無断欠勤が何日も続けば、問題になるのは当たり前で、
「捜索願くらい出した方がいいのではないか?」
 とナースセンターの方で聞こえてきたので。
「捜索願は、私たちの方で出しておきました。すみません、勝手なことをしました」
 と言って、数人が、看護婦長に断りを入れた。
 普通なら、
「何を勝手なことをしているの、あなたたちのしていることは、食味規定違反になりかねないのよ」
 という叱責を受けてしかるべきだと思っていた。
 叱責を受けた場合はしょうがないから、必死に謝るしかないと覚悟をしていたが、実際には、そこまで叱られることもなく、
「それはしょうがないわね。今回は、無理もないこととして、私の方で片づけておくわ」
 と婦長は言ったが、それを聞いて、
「やっぱり、病院の方で彼女がいなくなったことでの余計な騒ぎにしたくないという何かがあるんでしょうね」
 と彼女たちは話していた。
「やっぱりあの青酸カリがなくなったというウワサは本当だったのかしら?」
 という人がいて、
「それは本当のようよ。だって、普段は冷静さを保っているように見えるけど、薬物保管関係の人たちの顔を見ていると、明らかに顔色が悪くて、何かを必死に隠しているかのように見えるのがその証拠よ。やっぱり毒薬がなくなっているということは、その人たちだけの問題ではなく、病院の存続にも関わることなのかも知れないわね」
 ということをいう人もいた。
「とにかく、彼女が見つからないことにはどうなることでもないので、後は警察に任せるしかないわね。私たちも警察に通報していることを公開したんだから、もう後ろめたい気持ちを持つ必要があるので、ここから先は仕事に邁進していきましょう」
 ということで結論づいたのだった。
 警察が捜査のために、この病院にやってきたのは、それから二日してのことだった。
 病院内、特に醸造部と薬品保管の責任者あたりは、かなりビクビクしていた。警察に一度は挨拶しなければいけないと思うと、それだけで、汗が滲んでくるのが分かる。
 病院という特殊な場所であることもあり、なるべく警察とは関わりたくないと思っている。したがって、警察に対しては、普段から敏感な感情を持っているので、中には、
「警察アレルギー」
 となっている人もいるだろう。
「とにかく、毅然とした態度で臨もう」
 と言って、警察を迎えたのだった。
 だが、警察がやってくる前に病院側で新たな事実が見つかった。なくなったはずの青酸カリが見つかったのだ。もし、監査に入られても、大丈夫であった、実際に見つかったものは戸棚に置かれ、施錠して厳重に保管されている。
「どこにあったんだい?」
 と病院側の責任者がいうと、
「すみません。未使用の戸棚の奥の方にありました。一度探したので、二度と探すつもりはなかったのですが、そこで見つかったんです。最初も厳重に探したつもりだったんですが」
 というと、
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次