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昭和から未来へ向けて

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 とそんな風に思っていた自分が、まさか二十歳前後になって、そんな状態になるなどと思ってもみなかった。
 だが、よく考えてみると、こんな気分にいつかはなるのではないかという予感めいたものがあったことから、
「これって、人生に一度は誰もが陥る時期なんじゃないのかな?」
 と感じた。
「人生には、一度は誰もが陥る状態というのがいくつかある」
 という思いは、それまでにも抱いていた。
 しかし、それがいくつあって、どれほど感情の中に占められたものなのかということは想像もつかなかった。そもそも、自分の感情の全体が把握できていないのだから、占められた部分というのもないものだ。それを思うと、久則は、その時の自分が今どのような感情の中にいるのかすら分かっていない。
 それが分かっているくらいなら、このような有頂天にはならないだろう。
「何をやっていても、それ以上の楽しいことはない」
 と平気で思える時期。
 そんな感覚が本当に存在するなどとは思ってもみなかった。
 本当に理解しがたい時期だったことであろう。
 子供の頃に比べて、自分が飽きっぽくなっているということを知らなかったことが、最初の頃付き合っていた女性には気づかれていたようだったというのを、それから少しして、以前付き合っていた女性と偶然再会して言われたことがあった。
「最初、付き合った時はね。本当にいい人だと思ったの。ううん、いい人という括りでいえば、その言葉に間違いはないんだけど、あなたの場合、その優しさが仇になってしまうことがあったのよ」
 というではないか。
「どういうことなんだい?」
 と訊いてみると、
「私は、正直それまで、少し男性を信じられないと思うようなことがあったんだけど、あなたと一緒にいると、それまでの嫌なことを忘れることができたの。私があなたといる時、本当の自分を出せる気がするって言ったのを覚えていない?」
 と訊かれて、確かにその言葉に覚えがあったので、
「うん、覚えているよ。それを言われた時、本当に嬉しかったもん」
 というと、彼女は苦笑いをして、
「そう、あの時あなたも、今と同じ顔をしたのよ。何というのか、どこか他人事のようなね。本人はそんなつもりはなかったんでしょうけど、それを見た時、この人は飽きっぽい人なのかな? って思ったの。要するに、毎回表情が違うのよ。もし他に彼女がいて、浮気をしているのだとすれば、もっと気を付けた顔をするんだろうけど、そんな素振りはまったくない。意識をしない人にはそれがあなたの誠実さなんだろうと思うでしょうね。でも、私は違った。飽きっぽいところが無意識に出てきたんだって思った。だから、少しずつ距離を置くように心がけていたのよ」
 と言われて、
「そうなんだ。僕にはそこまでは分からなかった。付き合っているうちに、急に態度が変わったような気になったので、ビックリしたんだけど、もうその時は取り付く島もない様子で、それまで、一番話しやすいと思った相手が、一番話しにくい相手になってしまったような気がして、どうしていいか分からなくなったのを覚えている」
「そうね、あなたは、その思いがあったんでしょうね。だから、あんなに慌てふためいて、どうしていいのか分からなくなって、パニックになったようだわ。でも、その時、思ったんじゃない? どうして自分はいつも同じ轍を踏むことになるんだろうって。それは見ている私には分かったのよ。そして、その時のあなたには分かるわけはないとね。それが分かるくらいなら、私があなたのことを怪しい目で見たりはしないはずなので、最初からそんなことは起こらなかったはずなのよ」
 と彼女は言った。
「じゃあ、どうすればよかったというのかって考えるんだけど、結局同じなんだよ。何度も同じことを繰り返して、まるでデジャブのように思えてしまう」
「あなたは、デジャブを無限にループさせるかも知れないわね」
 という彼女の言葉を聞いて、急に怖くなった。
 的を得ているというよりも、自分のすべてを見られているようで、全裸になってたくさんの人に見られるよりも、彼女一人に気持ちの中を抉られる方が恥ずかしく、気持ちの悪いものはない。
 この時ほど、
「無限」
 という言葉を恐ろしいと思ったことはなかった。
 きっと、
「ループ」
 という言葉が一緒になっているから感じることなのではないかと思うのだった。
「あなたは飽きっぽいの。それは、忘却という感覚に似ているような気がするの。飽きっぽいというのは、忘れてしまった感覚なんだけど、前にも同じような感覚を味わった時、よかったという意識はあっても、どこが良かったのかなどということがわかっていないから、飽きっぽいという思いに至ってしまう。それをあなた自身が分かっていないということ。それが一番のあなたの悪いところ」
 とズバリ言われて、考えれば考えるほど、またしてもループに入り込む。
 なぜかというと、大概のことは分かっているつもりでいるのに、肝心なところを忘れてしまっているということで、意識としては、肝心なところが抜けている。そのため、飽きっぽいという意識に落ちつけようとするのだが、そこが強引であることが分かっているので、また今度は違う理屈を考えようとする。
 それが無限のループを作り出してしまうのだろう。
 それを思うと、飽きっぽさは悪いことであるのだろうが、直接的なものではなく、無限ループに陥るためには、他にも原因があるような気がしてならなかった。
 風俗の馴染みの女性からも言われたことがある。
「あなたは飽きっぽい性格のようね」
 といきなり言われた。
「どうしてだい? 飽きっぽいのなら、他の女の子を指名するんじゃないのかな?」
 というと、
「そうじゃないのよ。それとこれとは別なの、もっとも、同じだと思っているあなたのその発想が、その理屈を分からなくさせているのかも知れないわね。というのはね、あなたが私以外を指名しないのは、単純に怖がりなだけだからじゃないの? だって、他の子を指名して後悔したくないという思いがあなたの中にあるのよ。自分でも分かっているでしょう?」
 と言われて、思い出したのが、前に彼女と電車の中に乗っていて、謂れのない因縁を吹っ掛けられ、その場を大人の対応でやり過ごしたことで、自分が精神的に耐えられなくなったことで、しなくてもいい後悔をして、さらにそれがトラウマになってしまったことを言った。
「そうでしょうね。その時のトラウマがあるから、あなたは、他の子を指名できない。でも、それがあなたのいいところでもあるのよ。正直なんだって思うわ。あくまでも、自分に正直なのね。でもこれって私は大切だって思うの。何に対して正直なのがいいのかということになると、私は自分に対して正直なのが大前提だと思うのね。つまりは、自分に正直でなければまわりに正直になんかなれないでしょう? あなたはその時にトラウマになったと思っているかも知れないけど、ポジティブに考えればいいことだと私は思うんだけどね」
 と言ってくれた。
作品名:昭和から未来へ向けて 作家名:森本晃次