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昭和から未来へ向けて

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 なるほど、この間の彼女であれば、確かにカリスマ性のようなものがあり、口数は少なかったが、いかにも迫力はあった。しかし、ぐいぐい来るタイプでもなく。勧誘という雰囲気を醸し出しているわけでもない。落ち着いて見えるが、暗いわけではない。そんな彼女なのに、妙に説得力がある、聞いている時はさりげない話に思えたのに、終わってみれば、会場に一度くらいは行ってみようかという気になるのだった。
 自分が一緒になった自分を含めて六人の集団の中に、一人高校の制服を着ている女の子がいた。
 その子は、何となくであるが、久則を意識しているように感じられた。
「ん?」
 と視線に気付いて目を少し見開いて驚いたような雰囲気で笑みを浮かべると、彼女も屈託のない笑顔を見せてくれる。
 隣なので、少し横を向かないと顔を合わせることができないので、まわりに変な気を遣わせなくないという思いから、視線を向けずに流し目風にしていたが、彼女は真正面から久則を見つめてくる。
 その様子は、好奇に満ちた目で、ワクワクしているように思えたが、
――これって、恋する娘の目というのか、興味津々でこちらを見てくるな――
 と感じさせた。
 久則もいつの間にかまわりの視線を意識することなく、彼女の顔を見つめていた。
 他の人は誰もそのことに触れずに、各々で話をしていた。そして、久則と彼女に向けて、声をかけてきたりはしないのだった。
「お兄さんは、初めてなの?」
 とお兄さんと言ってくれる割には、ため口だった。
 しかし、そのため口は何とも心地よいもので、今までの彼女ができたと思ったその時とは違ったドキドキであった。やはり、
「お兄さん」
 という言葉が気になって仕方がないのか、思わず、彼女の瞼に写る自分の姿を探そうなどという恥ずかしさをごまかそうとする態度を取っていた。
 久則は一人っ子だったので、兄弟が欲しかった。それも男兄弟ではなく、姉は妹が欲しかった。
「どちらがいいの?」
 と聞かれると、正直答えに迷ってしまった。
 姉は甘えさせてくれそうだし、妹だと頼りにされることで、今まで感じたことのない、そして憧れている慕われるという感情を抱くことができると感じたのだ。
 中学時代くらいまでだったら、迷わず、
「お姉ちゃん」
 と答えていただろう。
 しかし、高校生になった頃から、妹の存在も捨てがたいものとして意識されるようになり、どちらとも言えなくなった。
 どうして妹を意識するようになったのかというと、きっと思春期という意識が強くなったからではないだろうか。
 久則にとって彼女というと、
「妹のような存在」
 という意識が強かった。
 しかし、この意識は、実は思春期の久則の中で(思春期でなくても、本当は変わらないのだが)、矛盾をもたらすことになったのだった、
 なぜなら、どうしても彼女を作るとなると、同級生の女の子が意識される。もちろん、年下もありなのだが、まず知り合う機会がないというころで、最初からあきらめているという意識があるのだ、
 そうなってくると、思春期前から思春期に掛けてというと、成長は明らかに女性の方が早い。もちろん、個人差はあるのだろうが、同級生の女の子は、同い年というよりも、年上感覚の方が強いだろう。
 だから、性的欲求を抑えることができなくなるのであって、そんな性的欲求を恥ずかしいことだと思っていた久則だからこそ、
「妹もいいな」
 と思うようになったのではないだろうか。
「姉に対しての憧れというのは、あくまでも甘えされてくれる存在である」
 ということなので、性的欲求とは違うという意識を強く持つようにしていたが、妹に対しての意識は、自分のまわりで知り合える同級生に限られてくる。すると、成長のスピードが男よりも早いと思ってしまうと、皆お姉さんのように思えてくる。そんなところが気持ちと資格のアンバランスから、矛盾だと感じるのだった。
 久則が今まで、
「俺って、ロリコンではないか?」
 と思っていたが、その理由がよく分からなかった、
 だが、この時に、自分が一人っ子であることを、自己紹介つぃでに話をすると、
「じゃあ、お兄ちゃんは、お姉ちゃんか妹のどちらかがほしいと思っているんじゃない?」
 って聞かれて、心の底を読まれたようで、ドキッとしたが、
「うん、そうだね」
 と言われて、前述のようなことを考えた。
 その考えの結論が出たわけではないが、自分の中で考えていたことをズバリと突かれ、この場所にいることで、異様な雰囲気に包まれながら、いや、彼女のまっすぐな視線に見つめられながら考えていると、それまで感じなかった別の世界が開けてきた。
 最終的な結論が出たわけではないが、少なくとも、自分の中での疑問は解けて、一歩も二歩も先に進んだという気持ちになるのだった。
 それが嬉しくて、
――なるほど、ここにいればいるだけで、自分の潜在意識を引き出してくれるような力があるんだ。だから、特別な教えであったり、儀式のようなものは必要ない。人と人が一緒にいるだけで、お互いに相乗効果を生むというのは、前から思っていたことだが、それが実証された気がして、目からうろこが落ちるというのは、こういうことではないんだろうか?
 と、考えるようになった。
 だから、目の前にいる彼女は、自分よりも年下で、明らかに妹風なのに、考えていること、潜在している意識は、久則なんかよりも、よほど大人なものを持っているのではないだろうか。
 ただ、それは、
「相手が久則だから」
 という思いがあるのかも知れない。
 もし、他の人であれば、そこまで感じることはない。
 ただ、それはまだ、実際に見つめ合った相手がその女の子だったということであって、まだ他の人と話をしていないから何とも言えない。
 そう思ったのだが、
――待てよ――
 と考えた。
 そういえば、一番隙のない布陣というのは、将棋では、最初に並べたあの布陣だというではないか、一手差すごとにそこに隙が生まれる。そのことを、その瞬間に思い出すというのは、やはり最初に意識した人が自分にとって一番なのではないかと思わせたのだ。
 そう思うと、その子のことを妹として、彼女として、さらには姉としても見れるようになったような気がして仕方がなかった。すでに、彼女に対して気持ちを奪われていたということであろうか。
 その思いが、時間の感覚までマヒさせることになろうとは、その時には分からなかった。というのは、彼女に対しての思いが膨れ上がってくるまでに、時間が掛かったのか掛かっていないのかが、自分でもよく分からなかったからだ。
 その日に、会場を出た頃には彼女に対しての思いが強くなり、ただそれが妹としてなのか、彼女としてなのかが分からないままであった。
 しかし、帰りの時間というのが、それまでに感じたことのない、
「早く一人になりたい」
 という感情であった。
 その感情というのは、一人でいる時ほど、想像力が豊かになるものではないということを分かっていたからだった。それまでには、そうは思っても実際に経験したことはなかったはずなのに、どうしたことなのだろう。
作品名:昭和から未来へ向けて 作家名:森本晃次