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昭和から未来へ向けて

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 確かに宗教団体であることに間違いはないようだが、他の宗教団体とはどこかが違うと思うことで興味が湧いてこないわけではない。
 まさか、それが彼らの狙いで、こちらに他とは違うと思わせることが目的だとすれば、少しイラっときてしまうこともあるのだが、逆に相手が、
「自分たちは、他とは違うのだ」
 と言いたいのであれば、湧いてきた興味を自分が素直に感じたことだとして受け止めることができるような気がしていた。
 この、
「他の人と自分は違うんだ」
 という考えは、いつも久則が考えていることであり、その思いが自分をその時間、その場の雰囲気にのまれていたとしても、それは悪いことではない気がした。
 正直、話の内容に、何ら興味もない。どちらかというと、
「そんなことはいわれるまでもなく、自分でも考えていることさ」
 と言いたいくらいであったが、自分がそれを今まで口に出して誰かに話したのかと言われると、
「一度もなかった」
 としか答えられない。
 目の前にいる女の子は、自分よりも年下で、しかも、女の子ということを考えると、いくら人と話をする場をセッティングしてもらっているとはいえ、人前で話すというのは、かなりの度胸がいる。だから、説得しているわけではないということがすぐに分かり、彼女とすれば、自分の思いを相手にぶつけることに必死なのだろう。
 実際にはこちらに伝わっているとはいいがたいが、自分の気持ちを表に出そうとしている気持ちはひしひしと伝わってくる。
 しかし、こちらもその気になっていなければ、その思いは伝わらない。
 相手に伝えるよりも発信の方に力を入れていると、相手は普通であれば、
「話にならない」
 と思うことだろう。
 ひょっとすると、彼女は今までにも何度となく、相手にそう思われた経験があるような気がする。それでも、相手に伝えるよりも、自分の意見をいうことに力を入れている方が、自分には力が発揮できるのではないかと彼女が考えているのだとすれば、その効果は表れているように思えた。
 その感覚で彼女を見ていると、久則は自分がその団体に興味を持っていることを感じていた。
 そもそも、大学生活をしながら、
「友達を増やしすぎた」
 と感じるようになった。
 挨拶だけの友達ばかりが増えてしまったが、自分では友達だと思っていても、相手は別に何も感じていないかも知れない。元々自分がそんなタイプだったくせに、それを思い出さなければいけないところに来ていたと思うと、この紹介はタイミングとしては悪くなかったような気がする。
「もし、相手が宗教団体だとしても、それをこちらが利用するくらいの気持ちになれば、それでいいんじゃないか」
 というくらいにまで思っていた。
 今度、行ってみることにしたと言って話をしてから、三日後くらいに友達から声を掛けられ、
「今度の土曜日の午後から会場に行こうと思うんだが、お前の方の予定はどうだい?」
 ということだった。
 久則としても、別に予定があるわけではなかったので、
「ああ、いいよ。じゃあ、一緒に行ってみようじゃないか」
 と言って、土曜日の午後からいよいよ行ってみることにした。
 一つ気になったのが、友達が、
「会場」
 と言ったことだった。
 さすがに、
「道場」
 と言われてしまうと、警戒に値すると思っているのか、確かに宗教団体というと、修行という言葉があり、それに伴った場所として、道場と言われると勘ぐってしまうだろう。
 宗教団体というと、どうしても修行という発想が常にあり、
「宗教団体には違和感はないが、修行は嫌だ」
 と思っている人もいるかも知れない。
 ただそれよりも、
「修行があろうがなかろうが、宗教団体というものが、いかにも胡散臭いものである」
 という意識を持ってしまっているとすれば、それは避けたいことに違いないだろう。
 阪急電車で大阪梅田に向かっていくつ目かの駅で降りたが、初めて降りる駅だった。効果になった駅を降りると、駅前には商店街が広がっていた。
「こじんまりとした街なんだな」
 と思わせたが、友達が連れて行ってくれるその「会場」は、商店街を抜けてから、少々歩くところにあったのだ。
 駅から歩いて約十五分、散歩だと思えばちょうどいい距離にあり、少し気になったのは、その少し先に工場がいくつか連なっていて、それなりに臭いもすれば、音も激しいところだった。
 住宅街のようなところを想像していたのだが、まったく違ったところであり、民家もそんなにあるというわけでもなかった。
 ただ、近くには小学校があり、
「いかにも、大阪市に隣接しているようなところなんだな」
 という場所であった。
 歩いて行く限り、どのあたりに目的地があるのか分からなかったが、急に友達が、
「ここだよ」
 と言って立ち止まった。
「ここ?」
 と思わず見上げたその場所は、民家というよりも、二階建てのアパート、つまりは、工場に勤務している人が住んでいるようなところの一角にある場所で立ち止まったことが、まず不思議だった。
「ここだよ」
 と言われて振り返ったその場所が、普通にボロ旅館の玄関先のようになっていることだった。
 その奥には何やら円柱を縦割りにして、それを横にしたような、そう、ロールケーキのような形の建物だった。
 現在ではほとんど見ることのできないものだが、昔の体育館などにはそういう建て方があった。
 人によっては、
「まるで、戦闘機の格納庫のようだな」
 というミリタリーファンは感じていたことだろう。
 表から見る限り、この間友達が言った言葉の、
「会場」
 という意味が分かったような気がした。
 どこかのビルのようなものを想像していたから、会場と言われた時に違和感があったのだが、なるほど、このような外観であれば、見た瞬間に、
「これぞ会場」
 と言えるのではないかと思うのだった。
 工場の臭いと喧騒たる音が、このあたりの雰囲気を代弁しているかのようで、いつの間にか、その場所を以前から知っていたかのような錯覚に陥ってしまっていた。
 そういえば、小学生の頃に住んでいたところは、河原の向こうに工場を見ながらの通学だった。絶えず煙が噴き出していて。煙の向こうには、日差しがほとんど見えた記憶はなかった。いわゆる輪環となった皆既日食を思わせ、たまに差し込んでくる光がまるで毒を振り払うかのように思えたのだが、一瞬のことで、気のせいだったかのように思うほどだった。
 河原と言っても、たいして大きな川でもないので、草が生い茂っているところで、河原に下りて遊ぼうという人もいなかった。遊べるだけの広さもなかったし、どす黒く汚れた川に落ちてしまうと、死んでしまうとまで言われるほど汚染した川であった。
 少々のことでは信用しない子供がいたとしても、その川の色にはさすがに逆らうことはできないようで、近づく子供もいなかった。しかも、ある日、河川横の道を歩いていて、車が通りすぎるところを自転車に乗っていた人がバランスを崩して、そのまま川に転落したことがあった。
作品名:昭和から未来へ向けて 作家名:森本晃次