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正悪の生殺与奪

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 あの事件は、後ろに反社会的勢力がついていて、事件を解決できたことで、この組織を一網打尽にすることができたという意味で大きな成果のあった事件でもある。きっと高校生にも反響のある興味深い事件だと思ってくれるのではないかと門倉刑事は考えていたのだ。
 今度の事件で、門倉刑事がどんな役回りだったのかというと、重要なところの役ではあったが、お世辞にも格好のいいという出番ではなかった。そのあたりはうまく色を付けるかのようにして話をするのがいいと考えた。
 この事件における捜査のやり方は、実際にはギリギリの部分もあった。モラルという意味でも法律ギリギリのところもあったので、その部分もうまくボカシていかなければいけなかった。そういう意味では、この事件を持ち出して講義をするというのは、本当ならあまり得策ではないだろう。
 そういう意味で、どういう話をしようか悩んだものだった。いろいろ考えたが、やはり最終的には、この間の事件しかないと思い、得策ではないと思われたが、敢えてこの話をすることにした。 
 そのためには、最初に気分転換に興味深い話をしようと思い、鎌倉探偵の話をすることにした。鎌倉探偵が元は小説家で、そこから探偵になったいきさつ(これも、少し微妙なので、うまくぼかしを入れる必要があるが)であったり、今まで一緒になって解決してきた話などを織り交ぜるように考えた。だが、一番彼らの心を惹きそうなのは、たまに鎌倉探偵との間で繰り広げられる、
「探偵談義」
 などがいいかも知れないだろう。
 鎌倉探偵は、理論で詰めてくるので、最初は冷静であった。しかし、いつの間にか自分の理論の話に持っていくのがうまく、その路線に入り込めば、後はマシンガンのように集中的に攻撃してくる。それもピンポイントな話になるので、門倉刑事は時々タジタジになってしまう自分を感じる。
「やっぱり、こういう論議の話をしなければ、鎌倉探偵との仲を説明しようというのも難しいだろうな」
 と思った。
 それに今回鎌倉探偵の話をするのは、今までしていなかった留美子に、自分たちの仲に入り込みやすくしようというのも目的の一つだった。
 これまで鎌倉探偵の話をしようと何度か思ったが、彼女の方が、自分との二人の時間を大切にしたいという思いから、門倉の話の中に他人が出てくるというのを極端に嫌っていた。
――本当は鎌倉探偵のことも紹介したいのに――
 という気持ちがあり、
「どうすれば違和感なく紹介できるだろう?」
 といつも考えていたことと、今回の署長からの立っての願いに薄日つくというのは、ある意味怪我の功名だった。
「たまには、署長の顔を立ててあげるのも、いいことなのかも知れないな」
 と思ったが、まさにその通りだったのだ。
――警察学校を卒業してから、学校というところに足を踏み入れたことがあっただろうか?
 と思い出してみたが、確か事件でかつてあったような気がした。
 あの頃はまだ駆け出しの刑事の頃だったので、本当に焦ってばかりいて、まわりがハッキリと見えていなかった。
 だから、事件現場が学校だという意識はあったが、意識として思っていただけで、どんな学校だったのかという記憶にはまったくと言っていいほど残っていない。
 今こうやって思い出したのも、事実として残っているものを思い出しただけで、決して記憶から思い出されたわけではない。そんな記憶ともいえない学校がそんなところだったかなど、思い出せるわけもなかったのだ。
――初めてのようなものだな――
 あの頃に比べれば、自分も大人になったようなものだと感じた。
 今の自分が高校生くらいだとすれば、あの頃はまだ小学生にもなっていないくらいだったのではないだろうか。中学生も高校生もまったく意識にない、遠い存在だったということだけが意識として残っているだけだ。
 あの頃に比べれば、どれだけ大人になったと言えるだろうか?
 先輩の刑事は若手の刑事など、ただの道具としてしか見ていない。いくらでもこき使って、少しでもトロければ、非業のあらしである。何を言われても逆らうことのできない部課とすれば、今では、パワハラと言われても仕方のない状態でも耐えるしかなかった。
 もっとも、そのおかげで今は立派な刑事になれているのだし、あの頃に顎で使っていた先輩刑事も、今では自分たちのことを一人前のように見てくれている。やはり何事もある程度まで伝統というものが大切なことだとも教えてくれたような気もする。
 ただ、今ではその伝統という言葉が、パワハラの代名詞のようになってきているということもあり、気を付けなければいけなくなっている。コンプライアンスと言われる言葉が流行り出してからというもの、上下関係もどの世界でも問題視されているが、特に警察などの組織は余計に顕著だろう。何しろ国家公務員であり、社会に対しての影響も大きく、昔の悪しき黒歴史までついてくることになれば、問題は単純なものではないだろう。
 特にドラマで扱われやすいジャンルということもあり、庶民の警察官への目は、良くも悪くも、いろいろ問題なのだ。昔からいわれる、体育会系などという言葉は、今ではコンプライアンスの敵なのかも知れない。

                  再会

 当日も、計画通り無事、防犯教室は進行していき、実技では、ちょっとしたギャグを交えながら、観衆の笑いを誘っていた。このあたりは、広報の中に、大学時代演劇部の人がいて、演出や脚本の経験がある人の指導の元、なかなかいいものができていた。
 本当は、毎回違うところでの講習なので、別に同じ内容でもいいのだろうが、ご丁寧に毎回新しいものを作って、上演している。さすがといえばそれまでだが、役者を演じる署員の人も大変かと思ったが、
「いやいや、結構楽しいですよ。これが僕たちの仕事ですからね」
 と、言って本当に楽しそうだった。
 考えてみれば、彼らは自分たち現場の人間と違い
「縁の下の力持ち」
 であり、命を張っての仕事というわけではないが、同じ警察官でもこれほど違うのかと思うほど、パフォーマンス性が豊かだった。
「僕たちは現場の皆さんのように、正義感を前面に出しての仕事というわけではありませんが、これでも一応、世の中の人のためにいかにしてなれるかということを日夜考えているので、そういう意味で、こうやって市民の皆さんにえぴーるできるのは嬉しいんですよ」
 と言っていた。
「この中の何人か、僕も含めてですけど、実際に大学の演劇部出身なんです。きっと警察の面談で、その話が出た時、即行で配置先が決まったんじゃないでしょうか? もっとも僕たちも希望したかった部署だったので、反論は一歳なかったですけどね」
 ということだった。
「そうですね。公務員と言ってもたくさんの職業があるように、その中の警察組織にもたくさんの部署が存在するのも当たり前のことですよね。そういう意味では、広報の方の仕事というのも、大切なんだって思います。だから、僕はただの縁の下の力持ちなだけではないと思いますよ」
作品名:正悪の生殺与奪 作家名:森本晃次