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正悪の生殺与奪

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 その顔を見て、門倉も自分の顔が自然と赤く変わっていくのを感じたが、すぐに留美子の方から、
「いや、それでね。その時、正直怖かったのね。実際に門倉さんがすぐに飛び掛かって助けてくれなかったことにも苛立ちがあったし、このまま私は死ぬんじゃないかと思うと、一思いに殺してほしいとも思ったくらいなの。それだけ私は頭の中が混乱していたんだけど、その時、途中で死を覚悟したのね。そうすると、死んだらどうなるのかって思ってしまって、そう思うと、浮かんできたのが、生まれ変わりという発想だったの。生まれ変わると、何に生まれ変わるか分からないでしょう? だったら、死んでから生まれ変わるんじゃなくって。生き返ればいいのにとも思ったの。でも、そうすると、今のまま続くわけでしょう? その時、私はあまり自分の人生に喜びが感じられなかったので、生まれ変わりたいと思ったいたのよ。だから、生まれ変わりをさらに意識したんじゃないかって思ったのね」
 門倉はその話を聞いて、
――この子は、一瞬でいろいろなことを考えられる子なんだな――
 と思い、だからこそ、小説を書ける才能があるのだろうと思った。
「本当に、留美子ちゃんはいろいろな発想ができるんだね?」
 というと、
「そうじゃないわ、一つに纏められないのが、困るのよ。私から見れば、確固とした考え方を持った人を見ると羨ましく思う。そういう人が、いつも輪の中心にいるんだろうなって思うの」
 という留美子に対して、
「じゃあ留美子ちゃんは、いつも輪の中心にいたいと思っているの?」
「そんなことはないわ。逆に輪の中心になると、今度は身動きが取れなくなって、自由にできないでしょう? そんな状態からまわりを見るのって苦しいと思うの。人を羨ましく思う自分を見ているのが苦しいの」
 というではないか。
 そんな留美子を見て、
――なんていじらしいんだ――
 と感じた。
 いじらしさが女の子らしさだとするならば、女の子として留美子を好きになっている自分を感じた。だから、さっきから頬が紅潮しているのだし、恥ずかしいとは思いながらも嫌な感じがしなかった。
 一つには、最初に出会った時の、あのあどけなさの中に引きこもろうとする態度と、自分に対して、いや大人に対して子供としての怯えが感じられたにも関わらず、自分に馴染んでくれたおかげなのか、すっかり明るくなり、少なくとも自分には積極的に接してくれることが嬉しかった。
「留美子ちゃんは、学校ではどうなんだい?」
 と聞くと、
「えへへ」
 と言ってごまかし笑いを浮かべるが、正直、その実情は分からなかった。
 門倉刑事は、彼女のこんな表情に惹かれるのだということをいまさらながらに感じた。あどけない表情で、あざとさなるものが分かっているのか、それを思うと、出会ったあの時のことを思い出していた。
――あの子はどうして、あんなところでウロウロしていたのだろう?
 まわりに誰か友達がいたわけでもなかった。かといって、下を向いて考え込んでいる雰囲気でもなかった。それなのに、門倉は彼女が近づいていることに気付かなかった。本来ああいう場面が発生すれば、どうしても犯人に集中してしまうということで、なるべくまわりにも注意をひかなければまらないというのは、定石だった。
 そんなことは当然分かっているはずなのに、意識してい鳴ったはずもないだろうに、どうして彼女のことに気付かなかったのかというと、それだけ彼女の気配が消えていたということであろうか。
 もっとも、あっと思った瞬間には、彼女は羽谷苛めに遭っていた。しかも、あの男からは後ろにいるはずなのに、正面から見ている門倉が気付かなかったことを、あの男には気づいたということになる。
――まるで後ろに目があるかのようではないか――
 まさかそんなことがあるはずもなく、門倉もビックリしている。
 そう思うと、門倉は時々、留美子というこの女の子が急に怖く感じられることがあった。何が怖いのか、その正体が分かっているわけではないが、
――自分たちが思っているよりも、気配を消すのがうまいということだろうか?
 と感じた。
 しかし、それも彼女が自分から意識して気配を消そうとしているわけではないように思う。
「生まれ変わったら」
 と彼女がよく言っているが、その前世が何だったのか、知りたいと思うほどだった。
 もし、石ころのような存在で、誰にも意識されない妖怪のような存在だったら、今に因縁を引っ張っていることになる。刑事としてはそんなバカげたことを感じるのはおかしなことなのだろうが。彼女が。
「生まれ変わり」
 という言葉を口にするたびに、そのことを思い知らされる気がするのだ。
 彼女は最近、おかしなことを言い出した。
「生まれ変われるとしたら、一度死なないといけないのかしら?」
 というものだった。
「あの時あのまま死んでいれば、生まれ変われたかも知れないって思うんだけど、そんなことを思うと助けてくれた門倉さんに申し訳ないという思いと、ひょっとしたら、私が死んで悲しむ人がいるんじゃないかと思うと、そんなことは思っちゃいけないと感じるんだけど、どうしようもないのよね」
 留美子は、どうやら、自分が死んでも悲しんでくれる人は誰もいないと思い込んでいるようだ。
 普通なら、
「そんなことはないよ。君が死んだら悲しむ人はいっぱいいる」
 と言って慰めるのが本当なのだろうが、門倉にはそれができなかった。
 それはあくまでも口から出まかせのような気がして、そんなありきたりの説教のようなことを言っても、決して留美子の心に響くわけはなかった。
 門倉は大人として言わなければいけない言葉なのかどうかを考えていた。普通であれば言えるのだろうが、相手が彼女であれば、どうにも口を開く勇気がない。それは自分が彼女のことを気に入っていて、少なからず好まざる相手ではないということを自分で分かっているからではないだろうか。
「自分が好きな相手には、少々厳しくても、自分に正直でありたい」
 と、豪語していた門倉刑事は、
「こんなことを言っているから、ずっと独身なんでしょうね」
 と気心知れた人に話しては、苦笑していた。
 言われた方も、どうしようもなく同じように苦笑している。そうするしかないほど、門倉刑事というのは単純にできているのだった。
 それは彼の操作方法にも言えていた。
 彼は何事件解決には欠かすことのできない刑事であったが、海千山千の刑事たちの中でも実に素直だった。それだけに、思ったことに対しては厳しく、相手が上司であっても、食ってかかるところがあるくらいだ。そんな門倉刑事だが、なぜか警察内部では人気がある。
 それはきっと、警察内部組織のガチさに、ウンザリしている人が多いからであろう。そういう意味では門倉刑事は、警察内部でも完全に異色な存在だった。
 最近の門倉刑事は、それほど忙しいというわけでもなかった。
 この間、ちょっとややこしい事件があったが、いつも事件が発生した時に捜査協力をお願いしている鎌倉探偵に解決してもらい、それからは、さほど大きな事件も発生していない。
作品名:正悪の生殺与奪 作家名:森本晃次