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正悪の生殺与奪

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 最近は、少年のような気持ちを失ってしまっていることに懸念があったが、留美子のような前途ある学生を見ていると、自分もまだまだ、若い頃をしっかり思い出していけば、若い気持ちのまま、老練な刑事になれるのではないかと思えてきたのだった。
 そういう意味で、若い気持ちのまま、立派になられている人の代表が、署長なのではないかと門倉は思っていた。
 あの鎌倉探偵であっても、署長にだけは何があっても頭が上がらないような雰囲気だ。やはり所長にはそれだけのオーラが感じられるのだ。
「やあ、門倉君」
 と言って、またしても、門倉刑事は声を掛けられた。
――今日は、よく声を掛けられる日だ――
 と思い振り向いてみると、そこには鎌倉探偵が立っていた。
 またしても、頭に思い浮かべた人がそこに立っている。本当に偶然という言葉だけで片づけられないレベルに思えてきた。
「鎌倉さんじゃないですか」
 鎌倉探偵は、門倉刑事よりも少し年上ではないだろうか。
 今までに何度となく事件で一緒になり、意気投合したことから、プライベートでも結構な付き合いがある鎌倉探偵とは、最初から探偵だったわけではなく、元は小説家だった。有名小説家であれば、小説家の仕事を辞めてまで探偵事務所を開いたりはしないだろう。
 しかも、鎌倉氏の場合は、小説を書く傍らに探偵をしていたわけではなく、たまたま小説家の時に、事件に携わり、その解決に一役買ったことから始めた探偵業。当時の捜査員からも、まさか鎌倉氏が探偵として事務所を開くなどということは想像もできなかったことだろう。
 鎌倉探偵とは、彼が探偵になってからいくつ目かの事件で一緒になったのがきっかけだったが、どの事件だったかを門倉は忘れてはいないが、鎌倉探偵が果たして覚えているかは、疑問だった。
 事件関係以外のプライベートなことになると、結構鎌倉探偵は忘れっぽいところがある。それは門倉刑事以外の一緒に捜査に携わたtことのある人は分かっていることだろう。公然の秘密とでもいうべきか、鎌倉氏の中でも、一種おちゃめなところだと、門倉は認識していた。
「なかなか、上手だったよ」
「いやあ、お恥ずかしい。相手が子供だと思っても恥ずかしいのに、先生がいられると思うと、顔から火が出そうですよ」
 と門倉は言ったが、
「そうかい? 相手が子供という方が恥ずかしいんじゃないかい? 子供というのは、その視線は真剣そのもので、真剣であるがゆえに、恥ずかしいさも倍増するんじゃないかな? 私なんかよりもね」
 というのだが、確かにそれも一理あった。
「でも、楽しいという思いもあったんですよ。いつも胡散臭い連中ばかりを相手にしていますからね」
「それはそうだ。基本的には疑うのが警察の商売だからね。でも、中には一般市民に対しても事情を聴くことだって結構あるだろう? だから、そのあたりをうまく使い分けないと、警察って、本当に疑うのが商売だって思われてしまう」
「ええ、自覚している分にはいいんですが、一般市民にそれを感じられると、寂しいですよね」
「一般試飲だって、警察が疑うのを商売にしていることくらいは分かっているんだよ。だけど、それでも嫌な顔をしないのは、自分たち一般市民を邪険にはしない、守ってくれていると思っているからさ。その期待を裏切らないようにしないといけないんじゃないかな?」
「はい、その通りです」
「実は、この言葉はある人の受け入りでね」
「ほう、それは誰なんですか?」
「君のところの署長さんさ。あの署長さんとは、僕も結構話をするんだよ。表で話をするというよりも、署長室の中での談義が多いんだけど、僕がいくと署長さん喜んでくれるんだよ。署長というと、署員に対してのイメージからなのか、なかなか署員の一人一人と話をするということはないだろう? 事件にも出しゃばることはない。もっともドラマなどでは出しゃばる署長というのが、放送されることもあるけど、なかなかあんなことはない。警察という組織は縦社会だから、しょうがないんだろうけどね。でも、それだけに僕のような部外者で、それで事件解決に一役を買うような人間に対しては、オープンなんだね。でも大っぴらにはできないので、署長室でゆっくりtというわけさ」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「ああ、警察署の署員たちは、なかなか署長というと、顔もまともに見たことがない人も多いんじゃないか? 顔を見れば、自分の前を通り過ぎ李まで頭を下げて、上げようとはしないだろう。額に飾っている写真だったり、署内報などでしか知らない顔ということになっているんだろうが、どうも、それも寂しい気がするよな」
 そういえば、署長の顔を、まじまじと見たことがなかったことにいまさらながらに気が付いた。いつも署長室に閉じこもっているというイメージがあるため、それも仕方のないことなのだろう。
「それにしても、今日はどうしたんですか?」
「署長さんから、今日君が講習をすると聞いてね。ちょっと覗きにきたのさ」」
「そうだったんですね。でも、そう思うとまた恥ずかしくなってきましたよ」
「いやいや、そんなに謙遜することはないよ。なかなかいい講演だったと思うよ。自分の体験談や、今の高校生の気持ちを捉えている場面なんかもあったし、彼らには心に響くものがあったんじゃないかな?」
「何か一つでも届くものがあれば嬉しいですね」
「大丈夫だと思うよ」
「そう言っていただけると、嬉しいですね」
「ところで、門倉君は、久保先生とは懇意なのかね?」
 と、鎌倉氏に聞かれて、ふいを突かれた気がしたが、
「ええ、高校の時の恩師なんですよ。一度久保先生に助けてもらったこともあって、それに僕の警察官としての捜査方法なんか、久保先生の教えを踏襲しているところがあるんですよ。僕は特についつい熱くなってしまうところがあるので、頭を冷やしたい時など、先生の顔を思い出したりすると、落ち着きますね。そうじゃないと、すぐに中止力が散漫になるのか、肝心なことを忘れてしまったり、逆に普段なら閃くようなことが閃かなかったりするんですよ」
「それはね、君が頭で考えようとするからではないかな? 考えるのではなくて、感じることが大切だ」
「それは、鎌倉さんもよくおっしゃいますね」
「私が小説を書いていた頃の知恵だね。でも、これも今の探偵という仕事にも生かされるんだよ。探偵などをしていると、材料をたくさん集めてきて、その中で考えようとする。すると材料が多すぎても、その中ですべてを考えようとしてしまうんだ。だけど、その前に取捨選択をする必要がある。忘れてしまってはいけないんだけど、必要なことをまずまとめ上げて、一つの形にしてしまう。その中で事件を解決できればそれでいいんだけど、もし何かの材料が足らなければ、選択した時外したものをもう一度持ってくる。そういう作業を行う時、考えてしまうと、堂々巡りを繰り返してしまうことが往々にしてあるんだよ。だから私は、『考えるのではなく、感じることだ』と言っているんだよ」
 と鎌倉氏は言った。
作品名:正悪の生殺与奪 作家名:森本晃次