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正悪の生殺与奪

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「答えは一つではないかも知れない。だから、見つける方法もたくさんあっていいのではないか?」
 と思っている。
 そんな考えの一番の理解者が鎌倉探偵であり、そして受け継いでくれるかも知れないと感じるのが、その時の彼女だった。
 ストーカー問題も先生の機転でその時はしっかり解決したが、それからの彼女は、すっかり何かを目指して勉強を始めた。何を目指しているのか分からなかったが、喜ばしいことであった。
――あの時のせんせい、どうしているんだろうな?
 と、いうのを今思い出したのは、きっと何かの虫の知らせだったのかも知れない。
「門倉君? 門倉君でしょう?」
 という声が後ろから掛かった。
――なんだ、この既視感は?
 と感じて、聞き覚えのある特徴のあるその小エビビックリして振り返ったのだ。
 低音であるが、まわりに重みをもってひびくわけではなく、高音のようにどちらかとおうと通りやすい声をしているとその特徴は、まさしく、今思い出していた先生の声だった。
「久保先生?」
 門倉は振り返りながら、すでに確信したかのように、そう叫んで振り返った。
 そこには背広を着て、少し薄くなった髪の毛を無駄足させて見える、見覚えのある顔があった。
「やっぱり門倉君だね」
「ええ、久保先生こそお元気で」
 と、涙が出そうに懐かしい気持ちを堪えて満面の笑みを浮かべた。
「門倉君が卒業してからどれくらいが経つのかな?」
 門倉の方は自分ではわかるのだが、先生のように毎年同じルーティーンを繰り返していると、どれだけ昔のことだったかなど分かるはずもないだろう。
「そうですね。あれから二十年くらいは経ちますかね>」
 というと、
「そうか、二十年か、私が年を取るのも仕方がないか」
 と言って、頭を手で撫でまわしていた。
――先生は一体いくつになったのだろう? 確か僕が学生の頃は四十歳くらいだったので、今は定年間際くらいではないか?
 と思った。
「先生もまだまだお若いじゃないですか?」
 と聞くと、
「いやあ、もうすぐ定年さ」
 と言っている。
 やはり想像していた通りであろうか。
「でも、どうしたんですか? 先生がこの学校に赴任していらしたのは知りませんでした」
 というと、先生はこの言葉の意味を一瞬にして理解したのか。
「門倉君は、この学校の誰かとお知り合いなのかな?」
 と言われて、ドキッとした。
――そうだ、先生には昔からこの鋭さがあったんだ。ただこの鋭さはなぜか僕にだけ通用するもので、他の人に対して、そこまでの鋭さはないような気がするんだよな――
 という感じはあった。
「ええ、安斎留美子さんとは、以前からの知り合いですね」
 別に隠すことでもないので、正直に話した。
「ああ、じゃあ、あのコンビニの時の刑事さんというのは君のことか?」
「ええ、そうですね」
「それにしても、君は立派な刑事さんになったものだ。高校時代を知っている私としては、正直ビックリしているよ」
 と言われたが、
「いやあ、それを言われるとお恥ずかしいです。でも、それもこれも先生を後ろから見ていて、それが僕の教科書のようなものだったんですよ」
 というと、
「そう言ってくれると嬉しいよ。確かに私は感情に任せるというよりも、理論的なことを重視する気持ちが強いから、警察の地道な捜査という意味では似ているかも知れないな」
 と言っている。
「先生は警察関係者に他にお知り合いでも?」
 と聞くと、
「君のところの署長さんは、昔の私の教え子でね。もっとも、君を教えた学校とは違うところだったんだけどね」
「ああ、それで今日の講習会が実現したんでしょうか?」
「まあ、そういうことだ」
 先生の話を聞いていると、先生はどうやら、今までにいくつもの学校を転々としているようだ。少なくとも、署長の学校、そして自分が卒業した学校、そして今の学校と、三つは経験していることになる。学校の先生って、そんなにいくつも経験するのが普通なのだろうか?
 それにしても、ここで久保先生と再会できるなど思ってもみなかった。しかも、さっき本当に久しぶりの思い出した先生が、二十年の時を経て、目の前に現れた。これは偶然と言えるのだろうか?
 そもそも、先生が教鞭をとった学校に、自分と関係のある人が通っている、あるいは通っていたなどというだけでも本当にただの偶然かどうかを疑ってみたくなるくらいである。それを思うと、実におかしな感覚になる門倉だった。

              出題者と回答者

 門倉が久しぶりに恩師に出会っているその時、後ろから留美子が声を掛けてきた。
「門倉さん」
 と言って、近寄ってきたが、そのそばに立っている久保先生に気付いたのか、無言で先生に頭を下げた。
 そしてすぐに門倉の方を見返して、
「今日の講演とっても格好良かったですよ」
 と言って、先生の前だというのに、悪びれる様子もなく、そういった。
 そもそも最初からそういうつもりだったのであれば、途中で変えたりすることのできない性格であることは門倉が一番知っている。それだけ正直者だということなのだろうが、先生であれば、それくらいのことも分かるだろうと、門倉は思った。
 だが、久保先生という人は、少し変わった先生であるのは、在学中からかんじていた。生徒によって、何でも分かる生徒と、まったく分からない生徒の差が歴然としていたのだ。
 門倉を相手にしている時は、なんでも見透かされているという感覚が強くあったのに、隣の席の生徒のことはまったく分かっていなかった。
――先生は生徒を贔屓していたんだろうか?
 とも勘ぐったくらいだったが、先生を見ている限りそんなことはなさそうだ。
 そもそも、よく分かる相手がいる方が特殊であって、
「先生は、よほど人の心を分かろうといつも考えているんだろうな」
 と思っていた。
 そんな先生が今では、留美子の学校の先生をしている。二十年という時間がこれほど長いものだったなんてと、先生の髪の毛を見ていると感じさせられた。
「門倉君も立派になったものだね」
 と言われて、
「いえいえ、そんなことはありませんよ。昔と変わってないのは、先生が一番ご存じなのでは?」
 というと、
「そうだったね。君は昔から正義の味方だったからね」
 と言われて、門倉は一瞬、違和感を抱いてしまった。
――あれ? 先生はこんな皮肉っぽい表現をする人だったのかな?
 と感じた。
「正義の味方」
 という言葉を、皮肉に取ってしまったのがいけないのだろう。
 ただ考えてみれば、正義の味方という言葉は、謙虚な意味にも取れるのであって。自分を決して正義の権化のように言い表すわけではなく、味方という言葉をつけて、あくまでも、
「正義のエージェント」
 とでもいう表現にとどめるにはちょうどいいのだろう。
 警察というところは、正義感をもっていないと務まらない。それを自分の糧にしないと、命を懸けているわけだから、いざという時、思い切った行動を取ることも、肝心な時に瞬時の判断を鈍らせることになるかも知れない。
 それを思うと門倉は、
「俺は、正義に対していつも忠実な気持ちでいないといけないんだろうな」
 と思うようになっていた。
作品名:正悪の生殺与奪 作家名:森本晃次