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詐称の結末

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 大久保氏は、殺されたであろう高杉氏が何を勘違いしていたというのだろう。今思い返してみれば、大久保さんの言葉の頭に、
「高杉さんが」
 というのがあったのかどうか、あるいは、あったとしても、順番が違ったのではないか。怪しいと思えた。
 この言葉があるのとないのと、あるいは、あったとしてその場所の違いが大きな違いになってくる。高杉氏が勘違いしていたのか、それとも話をしている大久保氏が、高杉氏のことで何か勘違いをしていたのか、俊六はいろいろと考えてみた。
 どちらにしても、鎌倉氏の指摘した通り、生前の佐久間先生の作品に何かの秘密があるに違いない。
 その秘密を高杉氏が知ってしまったとすれば、殺された理由として成り立つのかも知れない。
 ここでやっと動機に迫る何かを発見できたような気がして。俊六は少し安堵していたが、鎌倉探偵はそれでもまだ何かを障害と思って考えているようだった。
 果たして何かがあるとして、それを知っているのは誰なのだろう。まさか本人である佐久間先生や高杉以外に誰も知らないということはないだろう。ただ、大久保氏が何らかの形でかかわっていることは確かだろう。大久保氏の言葉がどのような事件の進展に影響を与えるか、興味深いことだった。

                  双璧

 鎌倉探偵は、前述の通り、門倉刑事から捜査についてのある程度の情報を得ていた。それは俊六の知らない、いや、敢えて伏せておくべき捜査上の秘密というか、それは警察関係者以外の誰にも話してはいけないこともあれば、俊六だけには知られてはいけないこともあった。
 ただそれは、俊六を警戒させないためであり、ひょっとすると、鎌倉探偵を訪れる気持ちになっていることを知って、わざと伏せられたことだったのかも知れない。そのあたりは当事者である門倉刑事と、鎌倉探偵の棟三寸、お互いの了承のうちであった。
 この日、鎌倉探偵がわざと俊六を挑発するような言い方をし、小説談義に持ち込んだのにももちろん意味があった。俊六の方としても、小説談義に持ち込まれたという意識はあり、小説家としての意地も手伝ってか、ムキになってしまった部分があったのは、しょうがないことなのかも知れない。
 鎌倉探偵とすれば、真相を突き止めるために行ったことであり、それも俊六が捜査依頼にやってくることを見越してのことであった。
 ではなぜそんなに簡単に、門倉刑事や鎌倉探偵が俊六が依頼にくるのを分かっていたのかというと、自分たちが先手を打って、依頼に来るように仕向けたからであった。以前からよく知っている大久保を使い、どちらかというと気が小さい(表向きは)と思われている俊六にプレッシャーをかけ、鎌倉探偵と頼るようにリードしたのだった。
「大久保という人はどういう人なんですか?」
 という門倉刑事の質問に、
「彼はある意味、利口な人です。ただ、その利口さを表に出すことはほとんどない。だからちょっとした知り合いというだけの間柄では、彼はほとんど目立つことはないので、性格的には地味で大人しく見えるんですよ。だからこの事件においても、ほとんど誰も彼に注視していない。もし何かがあった時、最初に疑われるのが彼ではないかと思うとすれば、それは殺された高杉さんではないかと思うんです。高杉さんという人は多分、今回の事件関係者の中でも群を抜いて勘の鋭い人間ではないかと僕は思っています。そしてこの高杉さんという人は、ウソがつけない性格でもあるんです。評論家としては、それがプラスにもなれば、マイナスにもなる、でも、評論家として一人くらいはいないと評論家という業界が成り立たないと言ってもいいくらいの存在なんです。彼は評論家界の必要悪だと言ってもいいのではないだろうか」
 鎌倉探偵は大久保だけのことを聞かれたが、高杉のことも答えてくれた。
 この二人はきっと、
――切っても切り離せない関係にあるんだな――
 ということを、門倉刑事は考えさせられた。
 そして、この二人が評論家界において、双璧をなしているのではないかと思い、高杉氏も大久保氏も、二人ともこの業界にいるべくしている人間なのだということを、改めて思い知ったような気がした。
 そういう意味では、
「この事件には、双璧と呼ばれるような人で成り立っているのではないだろうか」
 と考えさせらるような気がした。
 俊六には佐久間先生がいて、大久保氏には高杉氏がいる。そして、今ではその双璧と呼ばれている相手の片方はすでにこの世にはいない。
 大久保氏は頭の良さにかけては彼を知っている人であっても、その上限まで見たことがある人など、そうはいないと思える。それほどいつも端の方にいて、目立つことをしない。ただ、それはビクビクしているからではなく、自分の居心地のいい場所を把握しているからに他ならない。
 俊六にしてもそうだ。佐久間先生が亡くなって、弁護士から先生の遺作の処分を遺言で頼まれるほど、信頼されている。しかも、今では自分も小説家として十分にやっていっている。
 もし、自分の作品が売れなければ、佐久間先生の残した小説の印税がなければ、きっと鳴かず飛ばずのまま、中途半端な存在として宙ぶらりんだったかも知れない。先生の印税という金銭的補償があることで、成り立っていける小説業界。実はこの彼が自分の作品を世に出すことを奨励してくれたのは、高杉氏であった。最初は高杉氏のいうことなどまともに聞く気はしていなかった。
「詐欺に引っかかるようなやつだからな」
 と思っていたが、実はその詐欺に俊六が関わっていたことを、騙された高杉は知らないと思っていたが、実際には知っていた。
 どうして知ることになったのかというのは、謎であったが、騙された高杉が知っていたというのは、紛れもない事実だった。高杉が今回の事件で死んだことで、
――何とも不運なやつなんだ――
 と、同情を感じ得なかったのも無理もないことだった。
 元々実業家としての才覚もあった高杉氏は、大学で教鞭が取れるほどの真面目な性格、さらに素直な性格だったということで、実業家としての成功は、そんな彼の一面がいい方に進んだからではないかと言われた。だが、逆に詐欺にしてやられるほどの気の弱さを持ていて、木の弱さが表に出てきてしまうとせっかくの素直な性格が却ってあだにもなりやすい。そんな彼を海千山千の詐欺連中が見逃すはずもない。ちょうどその頃に暗躍していた詐欺師にコロッと引っかかったというのも仕方のないことかも知れない。
 その詐欺師も結局捕まったわけではない。数件の小さな詐欺を働いていたが、唯一の大きな事件としてのものがこの高杉に対してのものだった。ちまたのウワサでは、
「元々、大した詐欺師でもないくせに、大きなところに手を出してしまったため、墓穴を掘った」
 というものや、原因は同じであるが、
「他のグループから出る杭を打たれてしまった」
 というウワサもあった。
作品名:詐称の結末 作家名:森本晃次