小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

詐称の結末

INDEX|21ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「まあ、そんな世界を僕も生きてきたわけだから、分からなくもないが」
 と言って、少し昔を振り返っているように見えた鎌倉探偵だった。
「それでですね。その恩師の人が僕に訊ねたんです。『坂上俊六という作家がいるけど、たしか彼は佐久間先生の弟子だったと思いが、今もそうなのかね』っですね」
「確かそうだったよね?」
「ええ、だから、そうだと答えました。そうすると、恩師の先生は少し考え込んでしまって、『坂上君というのは、どんな小説家なんだろう?』とボソッと呟くように言ったんです」
「私も知らなかったので、何とも言えなかったんですが、恩師の人が坂上という作家の特徴を教えてくれました」
「どんな風に言っていたんだい?」
「彼の作品には、限りなく可能性は低いが、ゼロではないというところがあるというんです。それをいわゆる『微レ存』という言葉で表すようなんですが、彼がもし、佐久間先生のような予言小説を書いているというウワサが立つようなら、そのあたりが起因しているのではないかとですね。でも、佐久間先生が予言小説だと言われている理由は、この微レ存にあるわけではない。彼らは同じように予言小説を書いたとしても、そこに何んら結びつきはないという考えのようでした」
「実に面白いことをいうね。確かに弟子と師匠だと言っても、その発想が違っていれば、それが恩本的な違いであれば、似たような作風だと言われても、今度はそのプロセスが違っていることになる」
 と鎌倉探偵がいうと、
「そういうことなんでしょうね」
「微レ存という言葉をよく分からないので何とも言えないがね」
「微レ存というのは、微粒子レベルの存在感というところから、その言葉がついてきているようで、言葉自体が何か曖昧な感じだよね」
「その通りですね。説明されてもよく分からなそうな言葉ですよね」
「今どきの言葉なんてそんなものではないだろうか」
「彼の小説は、そんな微粒子レベルの存在感がたくさんあって、それが一見まったく関係ないように見えるのだけれど、それが融合して一つになっていくことで、距離が縮まり大きくなる。それで全体が見えてくるようなそんな作風らしいです」
「ますます分からない」
 そういって鎌倉探偵は苦笑いをしたが、まさにその通りであろう。
「ミステリーなんかは、まさにそんな感じなんじゃないですか? まったく関係のないような話が点在していて、それを一本に結び付けていくというような謎解きの醍醐味、微レ存であればあるほど、本格小説と言えるのも分かる気がしますよ」
 と門倉刑事は言った。
「私が昔目指していたような方向性に感じるよ」
 と、今度は鎌倉探偵が言った。
「それにしても、この言葉自体、ネットで生まれた言葉で、実際にどこまで浸透しているか分からないんですが、そういう意味では、ここでいう浸透というのも、ある意味微レ存なんじゃないかって思いますね」
「本当にうまいことをいう。でもね、このように微粒子レベルのことでも継続してたくさん存在すれば、一つの線になる、アリの大群が餌を運ぶ姿に似ているような気がするんだけどね」
「なろほど、確かにそうですね。でも、その線も蠢いて見えていると、だんだんと立体的に見えてくるんじゃないですか?」
「門倉君は、じっと見ていて、それが動くものでなかったら、それは大きくなっていく方に感じる? それとも小さくなる? それとも変わらない?」
「基本的には変わりませんが、たまに小さく見えることもあります。もちろん、ずっと集中して見ていればですね」
「それは一過性の調節痙攣かも知れないね。医学的な根拠についてはよく分からないけど」
「何かの辻褄合わせという感覚は、人間の中に絶えず持っているように思うんですが、いかがですか?」
「それと似た感覚なのかも知れないね。デジャブなども、一種の精神的な辻褄合わせのようなものだと言っている学者もいるようですからね」
「超常現象やオカルトなどの伝説に関しても、それは言えるかも知れません。まったく縁もゆかりもないところで、似たような伝説は残っていたり、ソックリな絵が保管されていたりするのは、そういうことなのかも知れませんね」
「特に人間は、自分の脳の一部しか使っていないというから、超常現象への可能性も微レ存かも知れないよ」
「鎌倉さんも微レ存という言葉がお気に入りなんですか?」
 と門倉刑事が笑いながらいうと、
「そうだね、嫌いではない。今回の事件でひょっとすると何かのヒントになるかも知れないよ」
 と鎌倉氏も乗ってきた。
「そうですか? 微レ存な気がしますが」
「君もなかなかうまく使うじゃないか」
「鎌倉さんの受け売りです」
 と言って、二人して笑ったが、さすがにこれ以上使うと収拾がつかなくなる気がしていた。
 その日の門倉刑事の訪問はそれくらいであった。別に鎌倉探偵から捜査へのヒントでももらおうという趣旨があったわけでもなさそうだ。とりあえず捜査の状況とそれによって、何か話をしているだけで得られるものがあればと思ったくらいだった。
 実際に会話の中にあったわけではなかったが、門倉は、
「訪ねてよかった」
 と思った。
 その理由は、鎌倉探偵の前職が作家だったということからだった。
 ただ、さすがにかなり前のことだったので、最近の文芸界の事情や裏の話に精通しているわけではなかったが、元作家としての意見は真摯に受け入れるだけのものがあったような気がした。とにかく、今までもそうだったが、収穫が身に見えていなくても、門倉刑事は鎌倉探偵を訪れて、損をすることなどないと思っている、今は分からなくとも、いずれヒントになることが隠されているのではないかと思うからだ。
 そんなことを門倉刑事が感じていることを知ってか知らずか、鎌倉探偵のところに、まるで、
「飛んで火にいる夏の虫」
 とでもいうべきか、この事件の渦中の人である、坂上俊六が鎌倉探偵を訪ねてきた。
 彼は大久保さんが教えてくれたと前置きをして、眞覚ら探偵の前に出てきた。
「ああ、大久保君ですね。彼は元気でしたか?」
「鎌倉先生は、大久保さんをご存じでしたか?」
「ええ、私の作品を批評してくれたことがありましてね。何度か一緒に食事をしたりした仲だったんですよ」
 俊六は鎌倉探偵が元作家だという情報を得てはいなかった。
「そうだったんですね。今までまったく知りませんでした」
 と、大久保氏から、何も聞かされていないことをいうと、
「なるほど、大久保君らしいですね」
 と言って苦笑した。
「ところで、今日はどうして私をお訪ねくださったのですか?」
「この間の出版社主催パーティで、殺人事件があったのは、府ご存じでしょうか?」
「ええ、高杉さんが殺害された事件ですよね。私も元は文芸関係でしたので、高杉さんは少しだけですが知っていました。やはり少しだけとはいえ、知人であったことには変わりありませんから、多くなショックではありますね」
 と言って、鎌倉探偵は、その視線を俊六に向けた。
 俊六はそれにはノーリアクションで、
作品名:詐称の結末 作家名:森本晃次