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詐称の結末

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「思っていることを口にすればいい」
 と言わんばかりに口を開いた。
 高杉氏は、鬱陶しそうにそのスタッフを睨みつけていたが、さすがに百戦錬磨とでもいおうか、動じる様子はなかった。
「しょせん、檻に入れられたトラかライオンのようだ」
 としか思っていないのだろう。
「ところで、今回は珍しく、受賞者に対して、手放しでの褒めよう。あれはどうしたことなんだい?」
 と切り出すと、
「どうしたも何も、いいものはいいと言っているだけだ。私だって、いつも批評だけしかしないわけではない。私にいいと言わせる作品がなかなかないというだけだ。本当に出版業界も地に落ちたのではないかと思うくらいだよ」
 と、高杉氏は完全に嘆いていた。
「でも、少なくとも私が知る限りでは君の酷評は本当に見るに堪えないものもあるんだよ。例えば、亡くなった佐久間先生の作品に対しての君の酷評はまるで別の恨みでも籠っているかのように感じたくらいだ」
 というと、高杉氏はギクッと何かに覚えた様子で、
「そんなことはない。やつの作品こそ、欺瞞に満ちたもので、あいつの人間としての尊厳の欠片もない作品には、いつも反吐が出るくらいのものだからな」
 と、これ以上ないというくらいの酷評であった。
 ここまでくれば、評論どころか批評でもない。完全な個人攻撃である。確かに他の作家に対しても酷評は多いが、佐久間先生に関しては、人間的な憎悪を抱いているかのようだった。
――個人的に何かあるんじゃないのか?
 と主催者側のスタッフは感じ、佐久間先生の生前を思い出していた。
――どこといって、おかしなところはなかったがな――
 としか思えない。
 このパーティには俊六も招かれていた。
「やあ、坂上君。最近はどうだね?」
 俊六に話しかけてきたのは、高杉氏だった。
「ああ、高杉さんですか。まあ相変わらずの毎日ですよ」
 俊六としては、あまり高杉とは話をしたくないという思いがあった。
 今回パーティに参加したのも、
――高杉はこういうパーティに参加しないはずだ――
 という思いがあったからで、もちろん、参加の優先順位としては低い要素ではあったが、まさか彼がこのパーティの中に「含まれて」いるとは、想像もしていなかった。
「坂上君が作家になれたのも、佐久間先生のおかげなんだろうね」
 といきなりの口激だった。
「それはどういう意味でしょう?」
 彼の言いたいことは分かっていたので、こちらも攻撃的になってしまった。
「だって、彼は予言作家なんだろう? 君のデビューも予言されていたではないか」
 と、思っていたことを言ってきた。
 俊六も負けていない。
「そうですね。僕は先生から作家にしてもらったようなものですからね」
 というと、今度は高杉の方がへりくだってきた。
「まあ、そういいなさんな。君の実力は私が認めるからね。そうだなあ、君の作品には重みがあるんだよ。佐久間先生のような曖昧な作品ではなくてね。だから彼の作品が少しでも的中すれば、話題が大きいんだ。それだけ内容が軽くて曖昧だということを示しているんじゃないかな?」
 と言ってきた。
「僕は、小説をなるべく分かりやすく書こうと思っているだけなんですよ。読んでくれる人がいる。その人たちがどう感じるんだろうってですね。そればかりを考えて書いています」
「そういう作品を僕は好きなんだ。今回受賞した女の子の作品も、そういう作品に感じたんだ。ノンフィクションではないけど、どこにでもありそうな話なのに、読んでいて感動する。僕はそんな作品が好きなんだよ」
 最後には念を押すように言った。
「僕の作品は、いつも頭に描いているようなことを文章にしているだけなんです。だから時々書いていて、ちゃんと繋がっているのかな? って感じるんですが、それは自分が絶えず思い描いていることだから継続して書けたんだって思います。小説というのは、継続が大切だと思うんですよ。いろいろな作品を書き続けるだけの意味ではなく、一つの作品の中で、貫かれる信念のようなものが感じられるようなですね」
「そういう作品が、人の心を打つんですよ。僕は自分で小説を書いたことがないのでよくは分かりませんが、作家というものは、人に読んでもらいたいと思って書いているんじゃないんですかね?」
 今までにこんな話を作家の人に話したことなどなかった高杉は自分の饒舌ぶりにビックリしていた。
 しかも、今日は新人ともいうべき作家を相手に自分の考えを聞いてもらっているという立場だ。本当であれば、批評する相手に相談しているのである。何とも言えない状況に、高杉は戸惑っているように感じられた。
――案外、こいつは俺と同じような境遇なのかも知れないな――
 と高杉は感じていたが、その思いはまんざら間違っていなかった。
 ただ、読者諸君が今頭に描いたであろう境遇と、彼の感じた境遇とではかなりの違いがあるということだけはお伝えしておこう。
 その理由はまだ物語の進行度合いとしては、明かすことはできない。どんな理由が存在しているのかは、徐々に分かってくることだが、まだ、この物語では、何も事件らしいものが起こっていないからだ。
 しかし、その事件というのが起こるのは間もなくのことで、ここまでの伏線を踏まえて今後を読んでいただけると嬉しい限りである。
 高杉は、その日、思ったよりも酔いのまわりが早かった。いつもは一人でチビリチビリとやるのだが、その日は俊六という話し相手があり、しかも、自分が思っていたよりも会話という者が結構楽しいと気付いたことで、酔いも早く回ったのだろう。
「こんな気持ちのいい酒は久しぶりだ」
 と口から洩れたのだが、これを本音だと俊六は気付いただろうか。
「酒というのは、いつも一人で飲むものだって思っていたよ」
 というと、
「人と呑むのもいいでしょう?」
「そうだね」
 高杉が嬉しかったのは、俊六の言葉が、ことごとく高杉の考えていることの的を得ていたことだった。
 俊六には相手の裏を読むという力があるわけではない、それが証拠としていわゆる高杉のいう、
「重たい作品」
 という言葉がそのことを表していた。
「坂上君の作品には、裏表がない、そこがいいんだ」
 というと、
「僕は今まで高杉さんを誤解していたようです。いつもうらの部分ばかりを表に出しているように思っていたけど、高杉さんには裏なんてないんですよね。裏だと思っていたのは、一回転した表だったわけですよね」
 というと、
「なかなかそれを分かってくれる人もいなくてね」
 と言った。
「じゃあ、そろそろ僕は失敬しよう」
 と言って、いきなり高杉はその場から急に離れた。
――おかしいな?
 と思って、後ろを振り向くと、そこには一人の編集者がいた。
「珍しいものを見せてもらったよ。まさか高杉君が、誰かと楽しそうに話をしているところなど、本当に久しぶりに見た」
 と言って笑った。
 この編集者はベテランの域に入る人で、もう四十歳近いのではないだろうか。一度編集長も歴任したことがあるようだが、今は一介の編集者として地道に活動している。どうして編集長迄やった人が一介の編集者に甘んじているのかというのを一度佐久間先生に聞いたことがあったが、
作品名:詐称の結末 作家名:森本晃次