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詐称の結末

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「こんな予言小説だか何だか知らないが、世間を騒がせるような話を書いて、どういうつもりなんだ。生きているならそれでもいい。こちらの批評に対して反論できるからな。しかしすでに作者は死んでいる。君は作者ではないのだから、いくら先生の代理として話を持ってきても、それは話にはならないというものだ。僕は言論の自由の元で批評しているんだ。これを卑怯だというのであれば、世間に照らして争ってもいい」
 とまで言い出した。
 さすがにそこまで覚悟しての批評であれば、無碍にするわけにもいかない。とりあえず様子を見るしかないと思った、
 それでも、先生の作品への読者の評価は素晴らしいものだった。一人の批評家の意見など、読者の反応から見れば、別に気にするほどのことではない。逆に一人で批評しているだけなので、先生のファンからすれば、敵視するだけの十分な相手だった。
「先生は、こんな批判を受けて、今あの世でどんな気持ちでいるんだろう?」
 と思ったが、俊六も世間一般の意見も考えると、これ以上騒ぎ立てることは正解ではないと思うようになり、その批評家の批評を無視することに決めた。
 その作家は俊六の作品も読んでいたが、こちらに対しては批評をすることを控えていた。何か言いたいような雰囲気もあるようだと編集者の人から聞いたが、何も言わないのは気持ち悪いと思いながらも、無視するしかなかったのだ。
 そのうちに俊六は自分の作品が徐々にファンもついてきて、一人前の作家として認められることがそう遠くない未来にあるように思えてウキウキしていた。
 実はこのことは、佐久間先生の遺作として最初に発表した作品であり、予言の最初でもあったのだ。
「これってただの偶然?」
 と俊六は思ったが、偶然というよりも、皮肉なことに思えてならなかった。
 その批評家というのは、高杉という男である。彼は批評家としては、ここ数年で出てきた人だが、それまでは何かの企業を起こしている青年実業家であった。なぜその彼が批評家に転じたのかは分からなかったが、青年実業家になるまでの学歴も素晴らしく、勉強に関しては、大学でも天才児という異名を取っていたという話であった。
 元々高杉という男は、医者を目指して医学部で勉強し、医者としての免許も持っている。ただ、実際に医者として勤務したのは、最初の一年ほどで、すぐに実業家に転身し、ある程度の成功を収めたという。
 医学を目指しながら、経営学に関しても造詣が深かったようで、勉強もかなりしていたようだ。そうでもなければ実業家になどなれるはずもなかっただろう。話によると、発起人三人の中の一人として、あまり大きな会社ではなかったが、取締役として君臨していたのだった。

                    披露パーティ

 今年の梅雨は、梅雨入り自体が遅かったからなのか、あけるのも遅く、八月の声が近づいてきた頃にやっとあけたのだ。ここ最近の特徴でもある、梅雨明け寸前の集中豪雨が容赦なく全国各地に爪痕を残しながら、猛威を振るったのは、ついこの間のことだった。
 梅雨明け前から、早朝より、いちいち寝て居られなくなるほどのセミのやかましい声が聞こえていた。それを聞いただけでも、梅雨明けが間近なのは想像がついたというものだ。
「本当に、ミンミンうるさいよな」
 と言いながら、差からクーラーを入れていないとたまらない暑さに、連日の雨で湿気も半端ではなかっただけに、朝からの暑さはたまったものではなかった。
 暑さというものがここまでひどいと、人間の頭の中もまともに整理できなくなる。まだ梅雨だというのに、これでは夏本番が思いやられるというものだ。
 その日、出版社では、ある作家のデビュー作が発表されるということで、記者会見を開くため、朝からその準備に追われていた。
 その作家は女性で、恋愛小説でも純愛をテーマにした最近では珍しいと思われるジャンルを得意とするかのような作家だった。
 昨年、その出版社の主催する恋愛小説コンテストで大賞を受賞し、その受賞作がデビュー作として発行されるという記念すべき日となっていた。
 その記念パーティに招かれた評論家だったが、彼はその女性の作品を褒めちぎっていた。そもそも批判することが本職のような人だったので、褒めるにしても、少し辛口になりがちで、しかも恋愛小説などは自分のジャンルではないので、あまり批評することは控えていたのだが、彼女の作品に対してだけは、他の評論家も顔負けのべた褒めだった。
「高杉さんは、彼女の作品のどこがいいんですか?」
 と聞かれると、
「どこがいいも何も、そんなことは評論にちゃんと書いてあるから、それを読めばいい。あんたら記者のくせにそれくらいのこともできないのかね」
 とばかりに、下手にインタビューなどしようものならいつもの、
「高杉節」
 が飛んでくるわけである。
 高杉氏の言っていることは至極当然のことを言っているのだが、それだけに、言われた方は腹が立つ。わざと相手を怒らせようとでもしているのではないかと言わんばかりのその言い方に苛立ちを覚えるのだ。
 かしこい記者は、
「どうせ腹を立てても、あいつの術中に嵌ってしまうだけなので、適当に聞いていればいいんだ。ただ、彼の話の中にはたまに核心に迫る鋭い言葉が含まれているので、それを見逃さないことだ」
 と話していた。
「皆あなたのようにはいきませんよ。どうしてあんなにまわりを怒らせようとするのかね? 過去に何かあったんじゃないか?」
 と、彼の過去を疑う人もいるくらいだった。
 もっとも、高杉の過去について知っている人は業界でもそれほどいない。プライバシーに触れられることを高杉が極端に嫌うからだ。プライバシーの侵害を犯すことは記者にとって致命的であり、それが同業者に向けられることでも同じことだった。それだけに高杉の過去については、若い連中にとっては特にベールに包まれていて、ある意味興味深いことであった。
 先輩から聞き出そうとする人もいたが、彼の過去についてはある時期から喋ってはいけないという決まりのようなものが出てきて、そのせいで誰も彼について語ろうとはしなくなった。
「どこからか、圧力でもかかっているのかな?」
 というウワサもあったが、それは当たらずとも遠からじであり、やはりそれだけ彼の過去には大きな何かがあるのだろうと思われた。
 その日のパーティは盛況で、普段よりもたくさんの招待客がやってきていた。何しろ高杉氏がいるくらいなので、当然といえば当然だ。この場にまったくふさわしいとは思えない高杉氏の存在で、まわりは異様な雰囲気に包まれていた。よく見ると高杉氏のまわりには誰もおらず、一人でワインを?んでいる。他の人なら
「寂しそうにしているので、話しかけてみよう」
 と思うのだろうが、相手が高杉氏では、下手に話しかけでもしたら、何を言われるか分かったものではない。
 それでも、主催者側のスタッフが、社交辞令であろうが、何人か高杉氏に話しかけに行った。
「こんばんは、これはお珍しい方においでいただけて光栄です」
 と本音に近い形で皮肉を込めて言ったが、どんな言葉を使おうとも、その心境が社交辞令であることに違いない。
 それであれば、
作品名:詐称の結末 作家名:森本晃次