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永遠の香り

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 これほど気持ちの悪いものはなく、好き嫌い以前の問題で、聞いているだけで呼吸困難になるほどの胸糞悪さを感じていた。
 これは、また下品な言葉を使ったものだ。それほど自分の言葉に気付かぬほど、何度も聞かされた口調だったのかも知れない。
 特に相手が孫だと思うと、
「目に入れても痛くない」
 と言っているほどで、その気持ちに変わりはないだろう。
 だが、それがゆえに、
「自分の血を引いている」
 という意識が強く、その分、自分の気持ちは何でも分かるという錯覚に陥っているのではないだろうか。
 もしそうだとすれば、大人というものがどういうものなのか、自分が分かる時が来ると、絶対に自分の子供には、
「今自分が感じている思いをさせたくない」
 と思うに違いない。
 静香という女の子はそういう小学生だったのだ。
 そんな四年生の時、初めての経験をした。相手は女性だった。自分よりも少し年上、制服を着ていたことから近所の中学生のお姉さんだったようだ。
「お嬢ちゃん、いらっしゃい」
 そう言って、静香を怪しく誘う。
 その日の夕方の公園、いや、もう日が暮れかけていただろうか。静香の手を引っ張るように、どこかに連れて行こうというのだ。
 彼女は静香の手を引っ張りながら、掌を弄んでいた。指で掌の諮問をツーっと触っている。
「ああ」
 思わず漏れそうになる声を静香は堪えた。
「どこに行くんですか?」
 と訊ねるが、教えてはくれない。
 どうやら、近所のマンションのようだった。そこの扉をカギを使って開けた。どうやら彼女のマンションのようである。
「お邪魔します」
 と、言って部屋の中を見ると、静香の部屋とあまり変わりないような大きさであったが、家具の数は思ったよりも多く、自分よりも裕福なことは分かった。
 まずは、リビングに座らせてくれて、
「喉が渇いたでしょう? 何か飲む?」
 と言われたので、
「お茶でもあれば」
 というと、彼女は冷蔵庫からペットボトルを取り出し、水屋の扉を開け、そこから取り出したグラスに注ぎ、
「さあ、どうぞ」
 と言って、進めてくれた。
「ありがとう」
 と言って、一口飲むと、思ったよりもおいしかった。
 おいしそうに飲む静香を横目に見ながら、いつの間にか自分もウーロン茶を注いでいて、一緒に飲んでいた。
「お嬢ちゃんは、いつもあの公園で一人のようだけど、お友達がいないのかしら?」
 と聞かれたので、
「ええ、私は一人でいる方が気が楽なので」
 というと、
「そうなのね。そんな感じがしたわ」
「どうして?」
「だって、あなたを見ていると、私、自分を見ているような気がしてくるから」
 と言って、静香を見つめた。
 すでにその視線は目がトロンとしていて、その視線が静香の身体を舐めるように見ているのが分かると、少し怖いというよりも気持ち悪かった。だが、逃げ出したくなる感覚ではなく、どちらかというと、気持ち悪さの中に心地よさがあった。気持ち悪いと言っても、滑っとした感覚があっただけで、気のせいと思うくらいうっすらとしたものだった。だが、心地よさはまるでハンモックの上に乗っているかのような揺れをともなうもので、公園のブランコのように揺れを伴うものは、心地よいのだとずっと思っていたので、まるで今それを証明しているかのようだった。
 そう思っていると、次第に身体が左右に揺れてくるような気がした。今のウーロン茶に何かが入っていたわけではないのだろうが、身体の力が抜けていくような感覚だ。
「あら? 大丈夫?」
 と、言って私の身体を支えてくれたお姉さんに、
「ええ、大丈夫です」
 というまでが、自分の意志だったような気がする。
 そこから先は、お姉さんのするがままだった。静香の小さな身体を抱きかかえるようにして、彼女はベッドのある部屋に連れていってくれた。その部屋には、アニメのポスターなどが貼ってあり、お姉さんの部屋であることは、ボンヤリとした感覚が捉えていた。
「大丈夫よ」
 と耳元で囁きながら、静香の身体をゆっくりと触っていた。
 服を脱がせるようなことまではしなかったが、身体を触る指がまるで虫のように這っていたのだが、嫌な気がしなかった。ただ、じっと身を委ねていると、呼吸が荒くなってきて、きっと声も漏れていたかも知れない。
 呼吸が荒くなると、鼻が敏感になるのだろうか、さっきまでは気付かなかったが、何か甘い香りがする。
 最初は彼女が香水でもつけているかと思ったが、その部屋に漂っている匂いのようだった。その香りが何かは分からなかったが、静香の身体が反応を始めた時、今度は鼻を突くツンとした臭いを感じた。その臭いが汗であることに気付くまで少し時間が掛かった。その臭いが自分の身体から発せられるものだと思うと恥ずかしく、恥ずかしいという思いがさらに恥じらいを持たせた。
 お姉さんは、相変わらずニッコリと微笑んで、静香を見下ろしている。部屋の中はまるで空気が薄くなったかのように、何も音がしていないが、耳鳴りのようなが聞こえてきた。それは薄い空気の中で必死に息をしようとしている証拠だったように思う。意識が薄れているのも、この空気の薄さが原因のように思えた。
 しかし、同じ世界で、一か所だけ空気が薄いなど、あり得ることではない。どこかの研究所でもあるまいし、そんなことありえないはずだ。
 となると、彼女の何かの術にでもかかっているというのか、それとも、自分が欲していたものが、目の前にあり、そして自分が想像している通りのストーリーが展開されているかのようで、
――今だったら、これを小説にでも書けそうだわ――
 と思うくらいに、先が読めている自分を不思議に感じていた。
 この状況で恐怖を感じないのは。自分が想像した通りに目の前のことが経過していってるからではないだろうか。それを思うと、静香はゆっくりと頭をもたげてきた妄想に、身体を委ねることが必然に思えた。
――これほどの快感なんてないんだわ――
 と思った。
 もちろん、こんなことが永久に続くわけもないし、身体がもつとも思えない。いずれどこかで終わりが来る。その前に、自分の気持ちが何に正直になっているのかを突き止めたいと思うのだったが、思考回路を働かせるには、あまりにも身体がいうことを聞かなかった。
 もっとも、思考回路が働いていれば、こんなにも快感が得られることはなかったと思うのだが、それが実に皮肉なことなのかと思うと、思わず笑ってしまうのを感じた。
「何かおかしい?」
 と彼女は言ったが、自分の今の心境が正直に顔に出ているようだった。
「いいえ」
 すぐに顔を元に戻して、静香は答えた。
 静香にとって、この時間は今までに感じたこともない時間で、心地よさに酔いしれている中で、香水の香りがしたことを気にしていた。
 香水の香りに汗の匂いが交り合い、本当は嫌いなはずの汗の匂いが妖艶な雰囲気とも相まって、ここまで不思議な感覚にするとは思わなかった。まったく違った種類の匂いが交り合えば、基本的には気持ちの悪いものという認識だった。それなのに、ここで感じた匂いはそれぞれに想像以上の効果をもたらしていた。汗の匂いも決して嫌ではない。感覚がマヒしてしまっているのかも知れない。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次