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永遠の香り

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 彼には、ウワサだけではあったが、
「人殺しのような重大なことはしていないが、それ以外の少々の犯罪くらいであれば、そのすべてをしているかも知れないと思うくらい、普段から怪しかった」
 と、
「本当は死んだ人を悪く言うのは憚るべきなんでしょうが」
 という前置きを置いて、ほとんどの人がそれくらいのことを口にするほど、彼はまわりから嫌われていた。
 しかし、そんな中で(彼を嫌っている一人であるが)
「彼は死んだ方が幸せだったのかも知れないな」
 という人もいた。
 実際に彼が生前、彼の味方は誰もいなかった。確かに彼の家族は彼の味方だったかも知れないが、彼にとっての本当の意味での敵が家族であった。家族の存在が彼を犯罪の道に進ませる一つの力になったことは否めない。
 彼は家族のみんなから考え方や、行動その他、そのほとんどを全否定されていた。何を言っても信じてもらえない。親の方では、
「自分たちの納得のいく回答でないと理解などできるはずなどない」
 というほどに徹底したスパルタとも言える教育方針であった。
 前に進むことも後ろに下がることもできない彼としては、成長するにしたがって身に着けていくはずの、
「四面楚歌になった時、どうすればいいか?」
 という回答を、まったく一番安直な方法を選ぶということを身に着けてしまった。
 相手を傷つけられるほどの勇気もない小心者だ。そうなると最後に待っている結末は容易に想像がつくというものだ。
 しかし、自殺とするというのはどういう心境だろう?
「自殺をするのは、自分の責任から逃げるための卑怯なやり方だ」
 などと辛らつな言い方をする人もいる。
 なづほど、被害者のあることで、被害者、あるいは、その遺族などからすれば、その心境も分からなくはない。本当は、
「八つ裂きにしても許さない」
 というほどの恨みを持っているかも知れないが、そんな人でも、警察なりに逮捕されれば、キチンと法律の力で裁きを与えてほしいと思うだろう。
「極刑にしてくれないと気が収まれない」
 という人もいるだろう。
 要するに死刑を願う人である。それでも、キチンと裁判に掛けられて、法の裁きを受けるのだから、少なくとも本人が自分の勝手な判断で自分に裁きを課すとというのは、ルール違反だと思う。
 今の世の中仇討ちや、復讐が認められていないので、そのような方法しかないだろう。
 しかし、世の中というのは、どこまで理不尽にできているのか分からないもので、
「加害者側にも権利が」
 などという考えもある。被告に対しても弁護士がついて、その弁護士の仕事は、
「依頼人の利益を守る」
 というもので、いくら依頼人が犯人であるということが決定的になっていても、少しでも減刑するために努力を怠らない。
 情状酌量に訴えて、少しでも執行猶予を得ようとしたり、検察側の求刑をいかに軽く収めようとするかが彼らの仕事である。何も有罪のものをすべて何もなかったことにするなどできるはずもなく、いくら百人が百人悪者だと思っても、加害者にも権利があるのだ。
 もう一つ難しいのは、加害者の身内の問題である。
「身内に犯罪者がいる」
 というだけで、それまでどんなに聖人君子のような生活をしている人であったり、自分の地位や立場を築くために、あらゆる努力を惜しまずに、ここまで築き上げたというものを持っている人でも、自分に関係のない身内が勝手にやったこと一つで、それまでの信用は地に落ちてしまうことだってある。
 誹謗中傷のあらしに遭い、客観的に見れば、彼らこそ被害者ではないかと言えるのではないか。
「何もしていないのに、ある日突然、まわりから攻撃されたりする
 というのが、被害者という言葉の概念だとすれば、加害者家族はまさにその通りではないだろうか。
 しかし、加害者家族に対しては、一般的に見えている被害者やその家族のように同情されることはない。逆に、
「そんな家族を生んだのと同じ環境にいたり、家族がそんな悪魔のような犯罪者を生んだのではないか」
 などと言われるのでは、完全にやり切れない気持ちになるだろう。
「被害者の場合は、被害者の家族にしてみれば、溜まったものではない」
 と言われるが、誹謗中傷を受ける加害者の家族はどうなのだろう?
 これこそ、今の世の中の理不尽さを捉えていると言っても過言ではないのではないだろうか。
 今回、自殺した家族としてはどうだったのだろう?
 遺書もなく、自殺の原因がハッキリとしない。警察の捜査で出てきたことは、自殺した青年の悪口ばかりだ。
「自殺もありえることだ」
 であったり、
「自殺したとしても、別に悲しむ人はいない」
 などという勝手な言い分もあった。
 それだけ嫌われていたということであろうが、家族としては、いきなり自殺をされ、しかもどうして自殺をしたのかを調べていると、聞きたくもない話が、いたるところから噴出するのである。こちらもたまったものではないだろう。
 静香は、自分を襲った男がそんなことになっていたなんて知る由もなかった。しかし、静香にだってトラウマが残ったのも事実だ。
「多分、一生消えることのないトラウマ」
 と自分で思っているだけに、どうすればいいのか、考えどころであった。
 詩織さんが実際に知らないと言った。お姫様のようなお姉さんの結末であるが、やはりお姉さんも不治の病に侵されていて、最後は誰もが分かっていることだった。
 詩織さんは自分の病気が何なのか、まわりから一切教えられていなかった。本当は子供心に、
「どうして誰も教えてくれないの」
 という本当に理不尽な気持ちだった。
 自分のことを自分で知らないということがこれほどやり切れない思いなのか、いくらまわりが自分のためを思って黙ってくれているということを分かってはいるつもりなのに、
「自分の人生なのに」
 と思うと、やはりやり切れない気持ちになる。
「ちゃんと分かっていたら、やり残すことはない」
 と言いたいのだろうが、もし本当のことを知ってしまうと、頭の中がそれどころではないくなるかも知れないとまわりは思っているのだろう。
 よほどしっかりとした考えを持っていない限り、やり残したことをどうのこうのいう前に、何も考えられない状況に陥るのではないか、それを恐れるあまり、大人たちは何も言わないのだろう。
 どちらにも苦渋の選択と、その選択によって苦しまなければいけない運命が待っている。言う言わないどちらを選択したとしても、その悩みに大差はないのではないかと思う。
 そこに大差を感じるのであれば、その狭い範囲だけを抜粋して抜き出すことで、比較対象の分からないものを比較しているかのような気がしてくるに違いない。
 詩織さんはお姉さんがどう感じていたのか分からない。それよりも今から思い返してみると、執事の人があれだけ冷静でいられたのも分かる気がした。
「少々のことではビクともしない」
 そんな人でなければ、お姉さんと二人の性格の中で、ずっと冷静でいられるのは無理なことであろう。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次