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永遠の香り

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 ハッキリとそうだと言える証拠もないので、それをいいことに自分の中で打ち消してきただけのことだった。
 身体を這う指に反応し、ビクッと身体が震えたのを感じた。それは詩織さんの指でも感じられたことだろう。
「フフフ」
 詩織さんは、そう言っているようだった。
 目を瞑っているので顔を見ることができないが、その表情を想像することもできる気がした。
「詩織さん」
 と目を瞑ったまま、初めて一言口にすることができた。
「なぁに、静香ちゃん。あなたは私にとっての可愛い子ネコちゃん。ご不満かしら?」
「いいえ、そんなことはありません。お姉さま」
 と、思わず出てしまったのがお姉さまという言葉、それを聞いて詩織さんは機嫌がよくなり、
「お姉さまにお任せなさい。あなたは、これからお姉さまと一緒に極楽に参りましょう」
 と言った、
「極楽?」
「ええ、そうよ、でもあなたはすでに極楽を知っているものね。この世の天国も、あの世の天国も同時に知ることができるなんて幸せなことかも知れないわね。でもね、あの時お姉さんは本当に寂しかったのよ。ある日突然に私の前から消えてしまったのだからね」
 それを聞いて、ふっと感じた思いがあった。
 確か、詩織さんは、中学の頃、近所のお姫様のようなお姉さんと一緒にいる時間があって、そのお姉さんがある日突然いなくなったという。ひょっとすると、そのお姉さんが亡くなっているということを詩織さんは知っていて、そのお姉さんは歳を取ることもなく、永遠に変わらぬ若さを持っていて、すでにお姉さんの年齢を通り越している詩織さんは、あのお姉さんを探し続けているのではないかという思いである。
 すでに亡くなった痕でも、生きている人間に影響を及ぼし続けるというのも、これも一つのトラウマのようなものではないだろうか。静香は今持っている詩織さんのトラウマがいいものなのか悪いものなのかの判断がついていなかった。そのため、自分に襲い掛かっている心地よさに身を委ねるしかないと思うのだった。
 その時のお姉さんと、静香とでは年齢的には違っているが、幼く見える静香に対して感じている年齢というのは、お姉さんの存命時代の面影であろう。しかも、存命時代のお姉さんは年上だったので、実際の年齢よりもきっと大人びて感じられただろうし、今はその年齢も通り越して静香のような高校卒業したての女の子を見れば、それは存命時のお姉さんと被ったとしても、それは仕方のないことである。
「詩織さんは、どうして私を選んだんですか?」
 静香は、もう目を開けていた。
 目を開けてその目前にいる詩織さんを見ていると、何かを話しかけなければいけないような気がしたのだ。
 そう思うと、目を開けてしまったことを少し後悔した。ずっと話し続けなければならないわけではないという根拠はどこにもないのに、どうしてそう思ったのか、そして、話し続ければならない自分に後悔する気分がどこから来るのか、まったく分からなかった。
 詩織さんは少し考えてから、
「静香ちゃんには、私にはない何かを感じたのよ。そして、それは中学時代に一時期一緒にいたお姉さんにもない何かなんだけど、それを知りたくて、静香ちゃんには悪いと思ったけど、こんなことをさせてもらっているのよ」
 理屈だけを聞いていれば、何とも身勝手な話であるが、静香もまんざらでもない気持ちになっていることで、今後悔した思いが何だったのかというくらいに落ち着きを取り戻した気がした。
 落ち着きを取り戻した原因が、目を開けたことにあるのか、それとも詩織さんに話しかけたことにあるのか、どっちなのか自分でもよく分からなかった。
 だが、詩織さんから褒められていると思うと自然と顔が赤くなっていくのが分かる。その表情を自分でも見てみたい気がしたが、この状態ではどうにもならない。しかし、今までに、
「自分の顔を見てみたい」
 などと思ったことはなかったのを思い出した。
 逆に。
「自分の顔なんか見たくもない」
 と何度思ったことか。
 それは自分の顔を見ることへの恐怖から来ているのだろうが、自分の顔を見て、何を恐怖に感じるというのか、静香はよく分かっていなかった。
 ただ、それも自分で覚えていないだけで、自分の顔を見てみたいと思ったことがなかったとどうして言えるだろう。
――記憶に残っていないから?
 そんなものはたくさんあるではないか。
 むしろ記憶に封印してしまったことの方がどれほど多いか、思い出したくないと言って封印したこと、そのすべてが、何かをしたくないという思いだったとどうして言い切れるというのか、静香はそれを思うと、自分が何を考えているのか、迷走していることを感じるのだった。
 詩織さんが、
「私にはない何かを感じた」
 と言ったが、それは何であろうか?
 逆はよく感じていたが、まさか自分にしかないいい部分があるなど思ってもみなかったので、意外だった、ただ、それも普通であれば考えようとはしないことではないだろうか?
 尊敬している相手がいて、自分よりも優れているところを探して、自分との位置関係や距離を測ろうとするのは、無意識のことかも知れないが、潜在意識がさせることなのかも知れない。
 詩織さんは自分にはないと言ったことを、実は詩織さんが誤解していて、そのことを詩織さんの中に静香は感じているのかも知れない。
 いや、それこそが静香の誤解であり、詩織さんの思っていることが正しいのかも知れない。
 その結果、事実によって、二人が考えていることがまったくの正反対を示すとすれば、これは不可思議な幾何学模様を描いているかのように見えるが、力学的には辻褄のあったことだとも言えるだろう。
 目に見えている事実と、目に見えない事実との間で、芸術的な模様と、さらに力学的なものがまったく違った様相を呈していると考えると、静香はこの世界へいざなった詩織さんのアロマがまるで手品か魔法のように思えてならなかった。
――やっぱり詩織さんは、私なんかの想像をはるかに超える何かを持っているのかも知れない――
 と感じた。
 詩織さんは、静香の考えていることをしてくれると思っていた。身体が欲していることを的確に捉えてくれるはずで、ピンポイントな攻撃はきっと以前、お姉さんから教えられたものであろう。
 静香はそのつもりで身構えていたが、なかなか触れてこない詩織さんに少し苛立ちを覚えていた。
 心地よさというのは、身体だけに与えるものではなく、心にも与えるものだと思う。触れそうで降れない感覚はまさにその通りであり、想像力が妄想を掻き立てるのではないかと感じるのだった。
 自分で自分の身体を撫でても、ここまでの快感を得ることはできない。自分のことを、
「不感症なんじゃないか?」
 と思ったこともあった。
 自慰行為というものがどういうものなのか、本やネットの知識で得ることができたが、実際に触って感じられるものでもない。彼氏がいて、彼氏に触られればまた違うのだろうが、それには静香の中にあるトラウマを解消させなければそれを得ることはできないのである。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次