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永遠の香り

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 高校時代までは背の小さな女の子ばかりしか意識したことがなかったので、急に二人で若い女の子が二人の職場で、相手は背が高いと思うと、違和感を感じないではいられなかった。
 おでこを少し出していて、その様子が大人っぽさを感じさせた。長い髪を後ろで結んでいて、その雰囲気が顔を小さく見えて。格好いいという雰囲気を感じさせるのだろう。小さくてちんちくりんだと思っている自分だったが、彼女と一緒にいるというだけで、何か誇れそうに思うのは、今までに感じたことのない思いだった。
――人と一緒にいることで自分が誇れるなんて――
 人は人、自分は自分だと思っていたあの感覚は何だったのかと思わないでもない。
 だが、彼女には最初から備わっている謙虚さのようなものがあった。それは自分はおろか、今まで自分のまわりにはまったくいなかった人種である。
「まったく違う人種」
 と言ってもいいくらいの存在だった。
「お年はいくつなの?」
 と聞かれて、
「今年高校を卒業したばかりの十八歳です」
 と答えると、
「私は今年で二十歳になったところ、この間、成人式だったんだけどね」
 と言って笑っていた。
――成人式というと、一月ではないか、私からすればかなり前のことのように思えるんだけど、詩織さんくらいの年になると、まるで昨日のことのように感じるくらいになるのかしら?
 と感じた。
 それは、高校時代までの毎日と、バイトとはいえ、職についてからの毎日との違いによるものなのだろうか?
 静香はそれを思うと、明日からの毎日と、昨日までの毎日を比較してみないではいられなかった。
 昨日までの毎日、といっても、高校時代の毎日のことであるが、考えてみれば、何もない毎日だったような気がする。大学受験をするわけではなく。
――あんな身を削るような努力私にはできないわ――
 と思っていたほどで、傍から見ているだけで、こっちの神経がすり減ってしまいそうに見えた。
 だからと言って、大学に行きたくないというわけではない。静香は女性としては珍しく、理数系の科目が得意だった。特に化学や物理などは興味を持って勉強していた。それに類して生物学にも造詣を深めたが、まさか花屋の店員さんになるなど思ってもみなかった。
 面接の際にはそのことは言わなかったけど、少しくらいの科学に関係のある花の種類や特徴くらいは分かっているつもりだった。
 今でも、家には、科学関係の本がいっぱいある。そこにこれから花に関しての本が揃っていくのだろうと思うと楽しみだった。
 花屋というと、赤い色がトレードマークというわけで、エプロンも赤いものを用意してきた。
「よく似合っているわ」
 と言われたが、
――お世辞かも知れない――
 と思ってしまうのは、静香の悪い癖でもあった。
 詩織のエプロンは紫色だった。
「珍しいですね」
 というと、
「私紫色って好きなのよ。コスモスやラベンダーなどの花が好きだったりするので、それで紫が好きになったのね。コスモスもラベンダーも畑のようになっているところで見ると本当に爽快よね、あれを見ると忘れられない色なのよ」
 と言って詩織さんはうっとりしている。
「そうですね、アジサイなどもそうですよね。そうやって考えると、それぞれの季節で紫を代表する花があるような気がしますね」
「ええ、その通りなの。それに私が紫を好きな理由はもう一つあるのよ」
「それはどういう理由なんですか?」
「赤、青、黄色って、これらの色は原色と言われているでしょう?
「ええ」
「これは私の私見でもあるんだけど、紫というのは、よく言われているのは、赤と青を混ぜて作るように言われているでしょう? でもね、原色にもいろいろあって、紫も原色として考えることもできるのよ。つまり、紫というのは、原色でもあって、原色同士を混ぜて作る色でもあるのね。それを考えると、紫って色は素晴らしいんだなって思うようになったの」
 静香はなるほどと思い、返事をするのも忘れて、感心していた。
 なるほど、科学的には彼女の言う通りであり、自分はそれを当たり前のことだとしてしか考えなかったであろう。
「見逃していたことも今までにたくさんあったのではないか」
 と感じさせてくれたことを思うと、
――詩織さんとは、お話が合う初めてのお友達になれそうだわ――
 と思った。
 詩織の雰囲気は実に活動的で、どちらかというと、引きこもりに見られがちの静香が、変わることができるとすれば、今ではないかと思えてきたのだ。
 紫色については、静香ももちろん嫌いな色ではなかった。元々原色が好きで、小さい頃は真っ赤が好きだったが、初潮を見てから、赤を嫌うようになった。その反動からか、青を気に入るようになって……、考えてみれば、紫はその赤と青の混合色でもあるではないか。
 そんな静香がここで真っ赤なエプロンというのは、おかしいと思われるかも知れないが、赤が嫌いになったわけではなく、
「赤には赤の似合うその環境がある」
 と思っているのだった。
「静香ちゃんは、赤が好きなのね?」
 と言われて、一瞬考えたが、
「ええ」
 と答えた。
「私は赤が前は好きだったんだけど、最近は落ち着いた色を好むようになったのよ。どうしてなのかしらね?」
 と言ってきたので、静香も少し考えたが、
「私も前は赤が本当に好きだったの。でも何か血の色って気がして、ちょっと避けるようになったんですよ」
 と、正直に言ってみた。
「そうなのね。私も色に対しては、いい面と悪い面の両方があると思っているの。それはどの色に対してもそうなんだけどね。だから、赤が好きだと言いながらも、あなたと同じように、真っ赤な血をイメージしている自分もいるのよ。でもね、赤い色ってどこにあっても目立つのよね。憧れとでも言えばいいのかしら? だから、嫌いな色として見たことがないわ。考えてみると、色の中で嫌いなイメージを感じさせない数少ない色が赤だって思っているくらいだわ」
 と、詩織さんは言った。
「じゃあ、詩織さんが好きだって言っていた紫はどうなんですか?」
「紫も実際には嫌いなところがあるのよ。例えば下着なんだけどね。私は紫色の下着ってどうしても好きになれないの。ブラウスとかドレスで紫色というのは好きなんだけどね。どうしてそうなのかって、自分でもよく分かってないわ」
 という。
「色って、私も今までにここまで真剣に考えたことはなかったと思うんだけど、でも考えてみると奥の深いものに思えてならないわ」
 と、静香がいうと、
「ええ、その通りなの。私は形から色を想像したり、色から形を想像することも多いのよ。それって発想としては結構面白いことだって思うんだけど、どうなのかしらね?」
 と詩織さんは言ったが、正直この言葉の意味は、静香にはいまいち分からなかった。
 色を想像するのは確かに形からもできるが、色から形を想像することはなかなかできない。その理由は、
「形には目で判断できる全体像があるけど、色にはそもそも形がないので、それを全体像として思い描くことは無理な気がする」
 というものだった。
 それを少し話すと。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次