小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

永遠の香り

INDEX|10ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 片っ端から誰かに相談しなければ気が済まない人もいるが、たいていは嫌われる。それを分かっていても、相談しないと気が済まない。
 何をどうしていいのか分からないという人のほとんどは、自分のことを分かっているのかも知れないが、出てくる答えが分かっているだけに、何もできずに終わってしまう。ただ、これは誰にでも言えることで、このような感覚になったことのある人は、実際には結構いるのではないかと思う。
 今や静香は冷静沈着な女の子にはなっていたが、パッと見は、他の女の子と遜色ないほどの普通である。
「何を持って普通というのか?」
 という問題もあるが、大人になるにつれて、次第に落ち着いてきたのも事実であろう。
 トラウマというのは、普段は忘れているものであるが、急に何かのはずみに思い出し、それが極度の恐怖として頭に思い描かれるものをいうのだろう。日本語にすれば、
「心的外傷」
 と呼ばれるもので、よく言われるものとして、
「児童虐待、強姦、戦争、犯罪、事故、いじめ、コンプライアンスとして言われる、XXハラスメント」
 などが、その代表例であろう。
 静香の場合は、強姦、暴行にまでは発展しなかったが、犯罪の色は限りなく黒に近い、精神的なショックは計り知れず、少なくとも意識喪失の恐怖は目の前にあったのだ。
 ビンタもいくつか受けたような気がする。家に帰って、顔の傷に築かれないように気をつけた気もするし、二日間ほど学校を休んだので、傷跡を他人が知ることはなかっただろう。
 そういう意味では母親がずっと表で仕事だったことはバレずに済んだという意味でも、学校を休んだことについても、あまり気にされなかったのはよかったのかも知れない。娘としては実に皮肉なことではあるが。
 ただ、あの頃から友達に変なことを言われるようになった。
「あなた、何か臭うわよ」
 と言われた。
「えっ? どんな臭いなの?」
 と聞いても、
「何か酸っぱいような臭いがすることがあるの。本当にたまになんだけど、さっきも感じたような気がして、言おうかどうしようか迷ったんだけどね」
 と言われ、要領を得なかった。
――さっきと言われても、自分ではよく分からないわ――
 と思ったが、精神的な何かが、臭いを発するのではないかと思うようになっていたので、そのさっきというのを思い出してみたが、何かの臭いを発するような考えを思い浮かべたという意識はなかった。
 かと思うと、今度はまた別の時、別の友達から。
「静香さん、今日は香水でもつけてきたの?」
 と言われて、またしても、
「えっ?」
 としか答えられなかった。
「だって、甘い匂いがしてくるから。これって何の香りなのかしらね?」
 またしても、自分の身体から何かの匂いがしている。
 この時もたった今言われたことなのに、その時の心境を思い出そうとするが、思い出すことはできなかった。
――たった今のことなのに――
 と感じたが、結局は自分が感じたことが無意識である時に、他人が自分の匂いを感じるのだということを知ったのである。
 確かに、ふと我に返って、
――今何かを考えていたわ――
 と感じることがあるが、それが何だったのか、ハッキリと分からないことも多い。
 特に我に返った時など、思い出せる方がどうかしていると感じるほどだった。
 それにしても、甘い匂いにしても、酸っぱい臭いにしても、まったく自分で感じることができないのは、残念な気がした。別に自分の身体から匂いが湧いてでてくることに不思議はなかった。人間誰にでも、体臭というのはあるものだ。だが、急に口に出してその人に聞いてみるくらいなので、その臭いがある種の特徴のあるものであるということは分かる気がした。
 友達と言っても、親友と言える人は一人もいないので、逆に気を遣って、相手が傷つくかも知れないようなことには触れないものであろう。
 それを敢えていうというのは、それだけ酸っぱい臭いがたまらないと思っているからであり、逆に甘い香りを感じた人は、その香りの元をどうしても知りたいと思うほど気になったものなのではないだろうか。
 聞かれたことに曖昧にしか答えなかった静香に対して皆はどう思っているだろう。
――しょせん、友達なんかじゃないから、その程度にしか見ていないのよ――
 と感じているのではないだろうか。
 それを思うと、寂しいという感情よりも、一人がいいという感覚を選んだことが間違っていなかったのだと感じてしまう。
「人と同じでは嫌だ」
 この感情は、いつまでも付きまとってくるが、これは万人が持っているもので、ただ、表に出すか出さないかだけの感覚ではないかと思えてならない。
 静香は高校を出て、近くの花屋さんでアルバイトを始めた。就職も考えたが、思ったような職もなく、そんな贅沢を言える立場ではないのだろうが、どうしても男が中心の普通の会社は嫌だった。ちょうど高校の時の知り合いが、家の近くの花屋さんが店員を募集していると教えてくれた。面接に行くと、相手も静香を気に入ってくれたらしく、二つ返事でオッケーしてくれた。ただ気になったのは、お花に対しての知識はほとんどないので、そのあたりが気になったが、
「大丈夫。前にいた子も最初はまったく知らなかったんだけど、その子もすぐに覚えて慣れてくれたわ。お花が好きならそれだけで十分、ちょうど今私以外は一人だけなので、配達に出てしまうと一人になるでしょう? しかも二人でやっていると、お休みもなかなか取れなくなるので、時間で知り合いを臨時にお願いしたりして、何とかもってきたの。そういうことなので、心配はいらないわ」
 と、女性の店主さんはそう言ってくれた。
 このお店は夫婦でやっているようで、奥さんが店主で、旦那さんが社長のような感じであった。
「俺は社長と言っても、仕入れとか配達の助手とかそんな感じだよ」
 というと、奥さんが横から、
「いえいえ、経理全般から広告や営業まで全部やってくれるので、本当に助かるわ。表には私が出て、裏の仕事は皆亭主がやってくれるという感じですね」
 と奥さんは言った。
――結構、うまく行っているんだ――
 と二人の雰囲気を見て、それだけで安心した静香だった。
「もう少ししたら、もう一人の女の子が来るわよ。彼女もあなたより少しだけ年上というだけなので、きっと仲良くできると思うわ」
 と、言っていると、それから十分もしないうちに、
「お疲れ様です」
 と一人の女の子が入ってきた。
 どうやらその子が、もう一人の女の子のようだ。
「店長、この子が新しい子ですか?」
 と彼女がいうと、
「ええ、仲良くしてあげてね」
 と二人の間ですでに話しは済んでいるようだった。
「初めまして、定岡詩織です。よろしくね」
 と言って握手を求めてくれた。
「朝倉静香です。これからよろしくお願いします」
 ニッコリと笑って握手をしたが、詩織と呼ばれた女の子は、静香が小柄なので特に大きく見える。
 実際にも結構背が高くてスリムなので、余計に背が高く見えた。
――羨ましい。やっぱり女性でも背が高いと恰好いいし、かしこく見えるものだわ――
 と思った。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次