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メデゥーサの血

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 その大義名分がなくなってしまうと、彼らがついてくるかどうか難しい。いくら洗脳したと言っても、これだけの人数だ、少しでも歯向かうやつが出てくると、次第に膨れ上がってしまう懸念がある。
 その意味でも、宗教団体が衰退してくるのと時を同じくしていることから、その二つを同時に解決する方法が必要だった。
 それが、
「世間を騒がせる殺人集団の形成」
 だったのだ。
 これは、秘密裏に行ってはいけない。秘密裏に行わなければいけないのは準備段階だけで、実際の行動は派手にしなければいけない。
 犯行声明を出したり、予告状を送りつけたりなどのデモンストレーションが必要だったのだ。
 それを行った中心が、宗教団体だ。
 本当であれば、反社会的勢力の出番なのだろうが、窮しているのは宗教団体の方だった。
 しかも、警察や公安の方が、この活動を反社会的勢力による犯行だと思うだろうから、裏をかけるという意味でもよかった。
 いくら宗教団体の方だと言っても、その上層部は元々軍人で、しかも将校以上の人なので、作戦や行動指針を示すことには長けていた。
 一種のレンジャー部隊としての要素も兼ね備えていたと言ってもいいだろう。
 そんな彼らは次第に、
「殺人集団」
 としての地位を築いていった。
 世間がその力を思い知ることになるまで、それほどの時間は掛からなかった。あっという間に世間を一番騒がせる極悪犯罪として、世間を震え上がらせることになるのだ。

                  犯行声明

 彼ら殺人集団は、ありとあらゆる殺人をやってのけ、それを預言することで、信者を少しずつ増やしていった。
 犯罪が非道であればあるほど、信者の数はゆっくりであるが、本当に信仰心の強い人が集まってくる。それが人間の心理とでもいうべきであろうか。そのことを教祖も分かっている。きっと団体に入る前は、心理学についての研究をしている学者か何かだったのだろう。
 その予想は間違っていない。そもそも、この団体を結成する主旨として、
「その道の専門家」
 を集めることだった。
 そして、彼らの研究や経験がどのようなポジションであれば、適材適所なのかを、幹部が考え、教祖として君臨することが心理学を生かせる一番だと考えた。
 それは一般市民に対してもそうだが、下級の構成員に対しても大切なことだった。マインドコントロールがどれほど大切なことなのかは、戦時中の情報統制で嫌というほど分かっていることだった。
 軍国主義に凝り固まった人々を、いかに民主国家の一員として洗脳しなおすかというのがm占領軍にとっての大きな問題であったが、それをいかに食い止めて、再軍備という旗印の元、結束させるかというもの、重要な問題だった。
 白羽の矢が当たった教祖には、野蛮な部分が隠されていた。幹部が彼女をマインドコントロールに使おうと考えた時、彼女の中にある残虐性が分かっていたのかどうか分からないが、次第にその残虐性が露呈してきたことで、
「よし、これなら使える」
 と考えたに違いない。
 残虐性と言っても、ただむごいというだけではいけない。何かを殺害することを芸術のように考えていないとダメだと幹部は思っていた。
 残虐性の中に美学があり、美学の中に残虐性がある、それは普通の人には決して見えないものであり、ふとした時に現れる。見る人が見れば一目瞭然だが、その瞬間というのは、恐ろしく短い。そこまで幹部は分かっていた。
 実際にそこまで分かるというカリスマ性がなければ、これほど大規模な軍団を作ることはできないだろう。
 しかも、世間体としては、つかみどころのないものでなければいけない。決して表に出てはいけないのだ。
 幹部にも上下関係がある、教祖は幹部の中でも下部に位置しているだろう。そんな下部に位置する幹部であっても、同じような考えでなければいけない。そういう意味で教祖は幹部に向いていたのかも知れない。決して焦ることなく、心理的な力を駆使して、まわりを従わせる。それを単純なマインドコントロールと言っていいのかは難しいところであるが、心理学においてのマインドコントロールは熟知しているつもりだった。
 そして、そのマインドコントロールを駆使できるのは自分しかいないと自負していた。
 この団体において、自信過剰は大罪であったが、彼女の場合は、そうではなかった。自信過剰になることで、マインドコントロールの制度が増すというのも事実であり、できるだけ自惚れさせる方がいいことを、幹部では分かっていた。
 それでも、教祖として君臨し、自分も幹部の一人だと自負していたこともあって、自分が監視されているということは分かっていたが、そこまで重要視してこなかったのは、実に彼女らしくなかった。
 それだけ自由にやらせてもらっていたということであろうが、そこが彼女の自信過剰すらも利用しようとする組織の恐ろしさであった。
 本当の恐ろしさは、見えないところにある。幹部を舐めているわけではなかったはずなのに、ここまで自分をコントロールされていることに気付かなかったことで、宗教団体が傾き始めた時、彼女の中で何かが弾けたのだろう。冷静沈着だったはずの自分に、彼女自身で疑問を感じたのだ。
「私に、これから考えようとする大量殺戮計画を指揮することなんてできるかしら?」
 と思った。
 一瞬であったが、そう思ったことで、自分に弱い部分があることを垣間見た気がした。しかし、その弱い部分を自分で捉えることはできない。弱さを知ることが己を知ることだと分かっているはずなのに、それを認めたくないのだった。
 彼らの犯罪は、個人的な攻撃もあれば、企業に対してのものもあった。
 個人的なものとしては、殺人はもとより、強姦、強盗、放火、詐欺、さまざまであった。被害に遭った人も別に関係があるわけではなく、
「無差別犯罪」
 であった。
 犯行が限られているわけでも、場所が特定されているわけでもないことから、防ぎようがない。
「犯人は被害者を監視しているはずなので、誰か怪しい人がまわりにいれば、必ず警察に通報すること」
 という警察からの通達があったが、怪しい人と言ってもどれほどのものなのか、例えば尾行されていると感じたとして、その人がどれくらいの時間、あるいは、どれくらいの距離後ろにいれば、それを尾行というのかという指標がまったくなかった。
 警察もハッキリと示さない。それは当然のことで、まったく新たな凶悪犯罪グループの出現なので、前例もないのだ。
 さすがに最初は、そのすべてが単独犯だと思っていたので、警察も個々に捜査を行っていた。犯行現場も被害者もまったく共通性に欠けているので、結び付けて考える方がどうかしている。
 それぞれの犯罪を追いかける捜査員は、他の事件の詳しい情報など知らないのだから、結び付ける方がおかしいくらいだ。しかも警察には管轄というしがらみがある。そのしがらみがある以上、もし、連続凶悪犯懺ではないかと思っても、口に出すことは誰もしないだろう。
 犯罪組織は、そんな警察の間抜けさを、さぞや笑っていたことだろう。
「そんな今までと変わりない捜査なんかしたって、絶対に分かりっこない差」
 と思っていた。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次