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メデゥーサの血

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 しかし、こんな裏の団体で、しかも世間から暗黒の団体と目され、まるで国家反逆罪に匹敵すると言われている団体を守るための行動に、何の、どこから栄誉などがあろうことか、せめて釈放されて戻ってくれば、団体内で特進できるかも知れないが、それも確約されたわけではない。少し傾きかけ、時代に翻弄されかかっている団体である。しかも数年前までは国家もその実態すら掴めないという天下無敵と目された団体が、ちょっとした時代の変化でここまで脆くも時代という見えない力に飲み込まれそうになっている中、自分たちだけが人柱になることで、どこまで助かるというのだろう。
 やっていることは、今でいえば、完全にマスコミによる、
「やらせ行為」
 である。
 団体が隆盛を極めている時であれば、世の中を欺くことは、世間への嘲笑となり、自分たちの力を見せつけることで、やりがいもあったが、今のように負のスパイラルを背負ってしまうと、下手をすると、
「何か行動を起こすことが余計に自分たちの首を絞めることになるかも知れない」
 という懸念を持っている人は実は下っ端に多く、本来であれば持たなければいけないはずの幹部連中には見えていないという最悪の状態になっているのかも知れない。
 この団体の中には、元軍部にいた人が幹部として君臨している人も少なくない。彼らにはそのことが分かっていないのだろうか。
 彼らの目的は、
「とにかく、預言ができるところまで持って行って、どんどん会員を増やさなければならない」
 というところにあった。
 いわゆる宗教団体の方は、経営でいうところの、
「自転車操業」
 なのだった。
 自転車操業をするには、会員制の商売であれば、会員を増やさなければ、そこで終わってしまう。会員を増やすには、宣伝や広告で募集するのが一番だ。今であれば、新聞広告などの折り込みチラシ、テレビCM、さらにネットでの広告などになるのであろう。
 しかし、彼らのような宗教団体に、新聞広告などの広告が打てるはずもない。そうなると、いわゆる「実演販売」つまりマネキンさんがスーパーの角で試食サービスなどを行うようなやり方だ。
 それが、この団体でいえば、
「預言を行い、それを的中させること」
 でしかない。
 そのために、今その預言的中という今まではそんなに苦もなかったことが、今はできなくなっているという状況を打破するしかなかったのだ。
 そのためには何をするか、答えは簡単である。もちろん、それは一番安易な発想でしかないが、他に妙案があるとも思えない。つまりは、自分たちで犯罪を起こして、それを預言して見せるという、
「自作自演」
 という一種の茶番でしかないのだ。
 ここまでしなければいけないわけだが、さすがに見つかってしまうと、すべてが気泡に帰するだけではなく。団体自体の存続が危なくなるという、本末転倒の結果になってしまうのだ。
 何かをするとしても、建前は、
「教祖は何も知らぬこと」
 として、済まされてしまう。
 実際に行動するのは、部隊があって、彼らはそれなりのエキスパートで形成されているのだが、そこをさらに訓練する。元々は軍隊出身で、気持ちとしては、再軍備を目指している連中なので、テロやクーデターは望むべき考えを持っている連中であった、
 そんな彼らを雇うには、実際に直接交渉する場合もあるし、どこかのやくざな団体に所属していれば、お金で交渉し雇い入れることもあり、さらもひどい時には、人知れず誘拐してくることもあった。身代金を要求するわけではないので、営利誘拐ではない。まるで人身御供のようなものだった。
 彼らの本部は、どこかの島にあるらしい。一つの島がまるで要塞のようになっていて、この時代ならばこそできることだった。
 しかし、支部は都会のいたるところにあり、
「まさか、こんなところに」
 と思うような場所にある。
 しかも、根拠となる場所をちょくちょく変えるので、同じ犯罪を捜査されているとしても、捜査をかく乱させることができる。いくら警察といえど、今までいた連中が入れ替わっていたとしても、入れ替わった相手も同じ集団で、別の事件を画策しているなど、夢にも思っていないだろう。
 それが彼らの狙いであった。この狙いは功を奏して、今まで行った犯罪が露呈したことはなかった。
 ここまで厳重な彼らであったが、一番の懸念は、内部告発だった。
 この組織のことをある程度知っている人間が、クーデターを起こしたり、警察に内部情報を漏らすなどあってしまっては、せっかくここまでの体制と取っているのに、まったくの無駄になってしまう。
 彼らは内部で、自分と同等のクラスの人間を監視する役目も帯びていた。行動監視はもちろん、行動計画までしっかりと本部に報告していたのだ。そして彼らの役目の中での優先順位としても高い位置にあったことで、彼らがどれほど組織運営に対して神経質になっているかが分かるというものである。
 もし、なニア怪しいことが判明すれば、一応の弁明は聞くとしても、最終的には処刑される。弁明を聞くのは、クーデターを起こそうとする人間の心理や、バレた時にどのような申し開きをするかで、その度合いで真剣さを図ろうとしているだけであった。決して相手を許すなどという気持ちは欠片もなかったのである。
 まるで血も涙もない連中だけに、人を殺すなど、何とも思っていない。軍淳出身者が多く、下部組織の兵隊と呼ばれている連中は、そのほとんどが復員兵で、復員兵への差別や誹謗中傷に耐えられなくなった連中が、自ら組織に入ってくることも珍しくはなかった。
 そう考えると、彼らがこの世界に飛び込んできて、工作員として世の中に災いをもたらすのは、世間からしても、自業自得と言えるのではないだろうか。いくら世の中が混乱期であるとはいえ、本人たちは天皇、国民、自分たちの家族のために一度は命を捨てたのだから、それも当然であろう。
 それなのに、復員してくると、
「どうして生きて帰ってきたんだ? 戦死した仲間に申し訳ないと思わないのか?」
 などと言った誹謗中傷を浴びせられ、
「そうか、俺は死ななければいけなかったんだ」
 と思いこみ、かといっていまさら死ぬこともできない。
 そんな状態は、これほど中途半端なことはない。前に進みこともできず、後ろに戻ることもできない。さらにその場にとどまってもいけない。では一体どうすればいいというのだろう?
 そんなことを思っていると、戦場が懐かしくなるのではないだろうか。いつ死ぬか分からない。
「今日は生き残った。じゃあ、明日では?」
 そんな思いを毎日抱いていたのが、何と懐かしく感じられるのだ。
 あの頃思っていたのは、
「どうせ俺は死ぬんだ。でも死ぬなら立派に相手を撃滅して、華々しう散り、そして残った家族は、息子は天皇陛下のために立派に死んでくれたと言って、墓前でこの俺を褒めてくれるだろう。それが一番の望みであり、生まれてきた甲斐があったというものだ」
 ということだった。
 それがずっと頭にあっただけに、日本が戦争に負けるなど、まずそこから信じられない。すべてがそこで狂ってしまったのだ。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次