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メデゥーサの血

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 赤魔術十字軍では、その頃、宗教団体としての力の方が強かった。そこにカリスマと言われる女性が誕生したからで、降天女帝と呼ばれていたという。もちろん本名などは誰も知らず、軍団の間、そして世間一般にもその名で呼ばれるようになった。
 彼女の名が世間一般で呼ばれるようになってから、彼女の名前の前置きとして、
「預言者」
 という言葉が付くようになった。
 彼女はいわゆる「預言者」であって、「予言者」ではない。この言葉の意味を自ら語ることで、彼女を崇拝する人間は増えていったという。つまり、
「『予言者』というのは、ただ、先のことを予知し、それを語るものであり。私のような『預言者』は、自己の思想やおもわくによらず、霊感により啓示された神意(託宣)を伝達し、あるいは解釈して神と人とを仲介する者です」
 と言っていた。
 つまりは、自分が預言したことは人間に対しての啓示であり、これからの未来を暗示させながら、正しい道へと導くお告げのようなものだというのである。
 普通の予言ではなく、神の名を出されると、この時代のように、神も仏もないと思われているくせに、実際には神や仏の到来を待ち望んでいるかということを示しているようなものであった。
 女帝と名乗っているのは、あくまでもその前の「降天」、つまり、
「天から降ってきた神の使いだ」
 と言いたいのだろう。
 今のように新興宗教の恐ろしさや、過去の犯罪が公になっていると、警戒する人も多いだろうが、まるで世紀末のような時代に、
「いまさらこれ以上悪くなることはない」
 と思っている人から見れば、頼りたくなる気持ちも分からなくもない。
 そんな彼女に目を付けたのが、赤魔術十字軍の、反社会集団の方だったというのは皮肉なことだった。
 どのようにして彼女を発見し、そして仲間に引き入れたのかそのあたりはよく分からないが、彼女の力、いわゆる預言とカリスマ性は信者に絶対の信頼があり、世間の人をも魅了していったことは事実だった。
 彼女は年齢的にまだ三十歳にも満たないくらいだったが、その容姿たるや、年配の男性から見れば、まだ幼い少女のような純潔さを見出していたが、逆に若い男たちから見れば、頼りがいのあるお姉さん、いや、崇拝する教祖様にしか見えなかったに違いない。
 さらに彼女には見られると、石になってしまうのではないかと思われるほどの目力があり、彼女こそ現在のギリシャ神話における「メドゥーサ」なのではないかと目されていたのだ。
 ギリシャ神話における「メドゥーサ」というと、頭髪がヘビになっている神話上の女性のことだが、見たものを石に変えてしまう力があったとされる。その血液は毒を持っていて、その頭をまともに掴むことはできないともされている。しかし、彼女の力は果てしないものであり、その証拠が、彼女の武器である見ると石に変えてしまう魔力は、彼女の死とは関係なく、殺された後でも、石に変えることができるという。もちろん、石に変えることができるのは人間だけではない。見たものすべてを石に変える。どんな大きな怪獣であってもそれは同じことだった。
 しかし、説としては、右側の血管から流れ落ちた血は。死者を蘇生させる力があるという。つまり人を殺す力を持っているのは、左側の血液ということになるのだが、なかなか知られていることではなかった。
 教祖である後天女帝は、そのことはもちろん知っていた。そして、それを巧みに使って、自分の信者を増やしていき、
「アメとムチ」
 のようなやり方で、秩序を守っていたのではないかと言われていた。
 もちろん、これは軍団内の話であり、世間一般には、世間を幸福に導く女神が君臨しているという宣伝をしていたのだ。
 彼女の言葉は一般的な予言ではないので、世の中を恐怖のどん底に陥れるようなものはあまりなかった。だが、時々世間があっと思うような預言をした。それはそれまでの甘いやり方に慣れている人々に刺激と驚愕を与え、より自分たちを印象付けるための演出であったことは言うまでもない。
 その預言が当たるか当たらないかというよりも、彼女がいつその預言をするかということの方が世間では関心を買っていた。
 実際に彼女が行っていた預言というのは、人が死ぬことへの預言であった。ただ、実際にはこれは預言ではなく、予言である。予知とも違う、予見でもなかった。
 彼女は統計学から割り出した内容で、実際に殺害されている人がいるのを確認してから予言をしていたからである。当時はどこで何が起こるか分からない時代であったが、中には犯罪者心理を知り尽くしていれば、次の殺人がどこでいつ行われるかというのは、ある程度まで予見することができるだろう。彼らの経済力を持ってすれば、その主要のところに見張りを置いておき、犯行が行われるのを実際にこの目で見させて、殺害が遂行されたのを見て、警察に通報する前に本部に知らせるのが役目だった。
 彼らには、人間としてのモラルも、そして正義感などまったくなかったと言ってもいい、それこそ、教祖のマインドコントロールによって、そのようにされていたのだ。殺害現場を平気で見られるようにするのだから、正義感やモラルのどというものを持っていると、邪魔になるだけだからだ。彼らは見たことを忠実に本部に連絡する、ただそれだけの役目だったのだ。
 それこそ、この軍団の一番恐ろしいところなのかも知れない。殺人が行われているところをまるでテレビドラマをお茶の間で見ているような感覚で見て、一番注意することは、自分たちが見つからないようにすることだけだった。
 そして、見たことで必要最小限の情報を教祖に送る。そして、教祖はまるで今自分が心理眼で見ているような芝居を打つ。それくらいは朝飯前のことだった。
 種を明かせば何ということのないトリックなのだが、何が恐ろしいと言って前述のように目の前で人殺しが行われているにも関わらず、それに対して何ら恐怖心も抱かず、正義感も持たずに、冷静に見ることのできる人間、そして、それを自分たちの利益のためだけに平然と使う、軍団のすべての人々。
 もちろん、その人々を洗脳しているのは、この教祖であるが、実は本当に恐ろしいのかここではない。
 本当に恐ろしいのは軍団の中でのことではないのだ。むしろ一般市民の方が恐ろしいと言える。
 なぜなら、こんなにあからさまな陳腐な手品の種を誰も看破する人がいないということだ。
 世間にはこれだけたくさんの人がいて、そのほとんどの人は、この軍団の全体像は知らなくても、この教祖と、教祖が所属している表向きの教団は知っている。そして、その教祖が恐るべき、預言をして、的中させているということをである。
 普通であれば、これだけたくさんの人がいるのだから、その半数近くは、
「こんな胡散臭いのは信用できない」
 と思ってしかるべきだろう。
 最初に出てきた頃は、世間でも批判的な意見も多かったはずだ。
「出る杭は打たれる」
 というではないか。
 それなのに、預言がどんどん的中し、教祖が、
「これは事実だけを語る予言ではなく、私が神から啓示された預言なのだ」
 と言えば、いかにもそのように聞こえてくるとしても、それは当然のことなのかも知れない。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次