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メデゥーサの血

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「我々はあくまでも宗教的な救済を目的としている」
 ということの宣伝の意味でつけられているということであった。
 ということは、
「反政府的勢力が、魔術を持って、宗教的な弾圧からの救済を目的としている」
 という意味のことであり、魔術というのは少し気になるが。それ以外は、一見筋の通っている名前に思える。
 軍という言葉は、当時の世相では敏感なものであったが、軍団という意味で考えれば、そこまで進駐軍も政府も必要以上に注意する必要はないと、タカをくくっていた。
 実際に当時の混乱した日本では、軍国主義復活を目指す団体、さらには共産主義化を目指そうとする団体がいくつもあり、警察公安部では、その対応に完全に追われていた。
 だから、赤魔術十字軍はその間になるべくことを荒立てず、秘密裏に自分たちの土台を直実に積み上げていた。
 その徹底さが彼らの強みであり、そのうちに人脈を使って、警察はおろか、政府の事情までも知り得ることになるのだが、そこまでの団体がその時代に現れるとは、さすがに政府も警察も思っていなかったことだろう。
 彼らはまず徹底的に政府と警察、さらには法律について研究した。そういう研究チームを持っていたと言ってもいい。
 どうして彼らのような秘密結社ができるようになったのかというと、元々の幹部は、軍の官僚たちであった。戦犯にもかからず、その財産を何とか死守し、放っておけば、占領軍に没収されないようにするには、まず財産を隠匿する必要があり、その財産に手を付けることのできないような団体を作って、そこで自衛の形を取るしかないと考えた彼らは、財産の一部を持ち寄って、団体を結成した。
 日本の警察はもちろん、進駐軍にも募集されないようにするには、それだけ強力な団体ができるまで、徹底した秘密主義である必要があった。
 部下には完全な緘口令を敷き、徹底した戒律を課すことで、秘密漏洩を防ぐ。今の時代の個人情報保護などという生易しいものではなく、漏洩すればたちまち彼らの存続は水泡に帰すとばかりに、まるで封建時代、築城の際に、完成したおり、その秘密を知る人間を、完成の記念祝賀会と称し、酒にご馳走でもてなした際、実は毒入りを食べさせ、すべてを暗躍のうちに抹殺してしまったという歴史を証明したようなものである。
 何とも冷酷無残なやり方であるが、そうでもしないと自分たちが生き残っていけないということであった。生き残るためには手段を択ばないことは決して仕方がない時代だったのである。
 そんな結成までのやり方が、それぞれの人間をより冷酷にしたのかも知れない。
「こうしなければ生き残れない」
 という口実の元であれば、何をやっても仕方がない。
 中には下剋上の発想で行われたこともあっただろう。黎明期というものはそんな宿命を背負った時代だということの証のようなものではないだろうか。
 それが、次第に、
「稀代の殺人軍団」
 と呼ばれる組織に、成長していったのである。
 彼らの資金源は、半分は宗教団体であり、半分は反社会的勢力にありがちなやり方で、その形式がそのままこの軍団の体勢を表していた。
 宗教団体としてのやり方は、いわゆる布教活動に伴って、「お布施」を取ったり、信者に奉仕という形で仕事をさせたり、あるいは怪しげなものを信者に限らず一般に売りつけたりするものだった。そのために、占い師であったり、手品師などのいかがわしいと思えるような連中を仲間に引き入れ、彼らに世間を欺き、信じ込ませる役目を負わせていた。それによって入ってくる収入もバカにはならなかったが、それ以上に、反社会的勢力には限りがなかった。
 前述の「みかじめ料」を皮切りに、同時の朝鮮戦争の特需にあやかって、鉄を集めたりしていた。当時はやり始めたパチンコなどの玉の交換に先んじて手を出し、莫大な収入を得ることにも成功し、さらに密輸にも手を出して、いわゆる「白い粉」での商売が、莫大な利益を生み、そこで進駐軍などとパイプを持つことにより、密輸したものを「捌く」ことにかけて、事欠かない。
 そうやって当時できる限りのありとあらゆる方法を使って金儲けすることで、次第に軍団の底力を手に入れていったのだ。
 金さえ手に入れば、あとは人脈によって、自分たちを守ってくれる手配をし、さらに自分たちで自衛軍を組織することもできるようになる。そしてさらに商売を広げていくという方法で、宗教団体として、反社会的勢力として、それぞれで成長していくのであった。
 また彼らが法律を逃れることができたのは、この半分半分の体勢がうまく機能していたと言ってもいいだろう。
「宗教団体」
 と見られていれば、反社会的勢力からは、別の団体だと思われ、逆に、
「反社会的勢力」
 と見られていれば、宗教団体からも、別の括りだと思われる。
 それは、
「獣に出会ったら、自分は鳥だといい、鳥に出会ったら、自分は獣だと言って逃げ回っているコウモリに似ている」
 と言えるのではないだろうか。
 最初はこのコウモリ的な発想はなく、金銭面の獲得から、宗教団体と反社会的勢力の二方向から出来上がっていったが、自衛という意味でもこの体制がうまくいくというのは、彼らにとっては、
「棚からボタ餅」
 という意味で幸せだったのかも知れない。
 こんな軍団が本当に目指したのが何だったのか、実は途中でいくつも変換していったようだ。
 時代的にも激動の時代なので、何を目指すべきか、どんどん変わっていっても無理のないことであり。逆にそれだけ社会順応性が高くないと、激動の時代では生きていくことができない。
 この時代は、すり抜けるように世の中を渡っていく人が、案外生き残っていけるのかも知れないが、それはあくまでも個人であって。やはり団体ともなると、すり抜けるような生易しいやり方で切り抜けていけるほど、甘いものではなかった。
 さらにこの軍団が線形の明があったというのは、女性の軍団員が結構いたということである。
 しかも、その中には幹部になる人もいて、
「才能があれば、男女関係なく上に上がれる」
 というのも、この軍団の特徴であった。
 組織体制も先見の明と言ってもいいのだろうが、当時の時代背景から見られる会社組織などとは少し違っていて、後年に見られるような会社組織に近かった。
 秘密結社なので、ハッキリと公言しているわけではないが。その構成は平成の世の中でも十分に通用する者であった。
 女性があるグループの頂点にいると、実際にうまく機能するグループが結構目立った。それを見て、女性に目をつけたのが、宗教団体としての組織の方だった。
「教祖ともいうべき人を女性にすればいい」
 という考え方であるが、その女性が本当に力がなくてもいい。
 一種のお飾りであってもいいと思っている人もいたくらいで、女性の言葉が男性にはよく効くということが分かっていて、
「洗脳するには、女性からの力に頼るのがいい」
 という考えが宿ってきたのだった。

                預言者
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次