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メデゥーサの血

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 それは日本国内の人口問題であった。当時の日本は今の人口の半分くらいしかいなかったが、これでもかというほどの不幸に見舞われた日本国で養いきれるものではなかった。当時東北地方の大不作などもあり、食糧問題は深刻などという言葉では言い表せないほどであった。何しろ田舎の農家は、娘を売るか、一家心中しかないと言われたほどだったからだ。
 日本は満州を手に入れると、世界各国からの批判もあり、世界的に孤立する道を選んで迄も、満州を死守しなければならなかった理由は、この待ったなしの状態での食糧問題を何とかしなければいけなかったからだ。
 世界を敵に回してでもという切実な理由がそこに存在した。今となっては。満州への侵略は無謀だったと言われるかも知れないが、それほど「満蒙問題」というのは、日本の生命線だったのだ。
 しかもその時の関東軍の動きが、政治に先行していたことから、日本の軍国主義が急速に発展したのであろう。憲法で定めるところの、
「統帥権」
 が、軍隊を政府から守り、軍部台頭に一役買ったのである。
 そんな時代に突入した日本は、世界から批判を浴び、特にアメリカとの関係は次第に悪化していく。中国での行動が大きな問題になったのだろう。
 ただ、アメリカが日本に対して譲歩してくれていたのも事実なので、どちらがいい悪いの問題ではなく、当時の社会体制がそういう時代だったと言えるだろう。自国の権益を守るために、戦争もありだった時代なのである。
 戦時体制に日本国が突入したのは、何も大東亜戦争が勃発した昭和十六年になってからではない。それ以前の、日華事変の頃から戦時体制になっていた。徴兵制にも、召集令状があり、いわゆる
「赤紙」
 が届くことで、大陸に軍人として出兵しなければいけない時代となり、市民生活も物資の不足から、次第に物が手に入らなくなり、配給制度へと移行していくのもこの頃だった。日華事変の勃発は大東亜戦争勃発の四年前なので、昭和十二年くらいのことであろうか。
 当時の暮らしとしては、今では聞いたこともないような言葉がたくさんあった。
「灯火管制」
「建物疎開」
「学徒勤労動員」
 など、他にもいろいろあるが、ここでいちいちそれを述べることは愚かなことだと思うので割愛する。
 今では信じられないかも知れないが、今のような恋愛結婚ではなく、いきなり結婚式を挙げるということもあったようだ、
 それも相手は結婚したい人ということではなく、本当にいきないrの結婚式だ。
 その家の青年に「赤紙」が来たことで、いきなり結婚させ、死ぬかも知れないで出征する男子に、この世の最後に
「男としての悦び」
 を味わせてやろうという何とも切実な考えだ。
 しかし、これは女性としても同じこと。好きでもない相手の女房になることで、結婚した相手が戻ってくればいいが、戻ってこなければ、結婚生活を一日たりとてしたことがないのに、すでに未亡人になっていて、亡き夫のために貞操を守らなければいけないというのは、女として生まれてきたことの悲劇であろう。
 しかも、当時の家族制度のしがらみで生きなければいけないということ、隣組としての奉仕、さらには配給に並んだりしなければいけない苦労。それら銃後の苦労を一身に背負うことになるのだ。
 そんな時代、次第に悪くなる戦局の中で、空からは雨あられと、爆弾や焼夷弾が降ってくる。焼夷弾などは、ちょっとやそっとでは消えない。水で消すことができず、対象物が燃え尽きるまで消えないという悪魔の兵器である。
 木造の日本家屋では、有効だった。一度燃え移ると、焦土と化さなければ消えることはない。いわゆる、
「業火の炎」
 だったのだ。
 昭和二十年に入り、本土空襲が本格化し、日本のジェット気流などの問題から、ピンポイント爆撃では効果がないと判断した米軍は、無差別爆撃、いわゆる絨毯爆撃に戦法を移行し、老若男女、すべてを殺戮するという悪魔の所業ともいうべき、パンドラの匣を開けてしまったのだった。
 さらに、原子爆弾の使用という人類史上、拭い去ることのできない大罪を犯してしまった。本来であれば、神のみにしか使えない手段を、人間が人間に使ってしまったのだ。
 確かにそれで大東亜戦争の終結は、そのまま世界大戦の終結に結び付いたわけだが、そこからの占領状態は、前述の通りである。
 そんな日本が、終戦後、五年しか経っていないのに、また戦争によっての特需を受け、次第に防共の防波堤となることで、経済復興を成し遂げることになったのだが、その時代に暗躍していた地下組織も数知れずあったことだろう。
「困った時の神頼み」
 ともいうが、そんな時代だったからこそ、誰か一人を教祖と仰いで、一大宗教団体を築いた組織もあったはずだ。
 そもそもカリスマがなければ、この時代を乗り切るだけの団体が形成されるはずもない。それは、第二次世界大戦の前にその前の大戦での敗戦国になったことで荒廃した国土に、さらに巨額で天文学的な数字の、絶対に返済できない額の賠償金を課せられたドイツに台頭してきた「ナチス」と似ている。
 総統であるアドルフ=ヒトラーがその話術で国民をマインドコントリールしたことからも分かることで、彼こそ、いわゆる、
「時代の寵児」
 そして、あたかも教祖として崇める状態にあったのは、世界情勢を鑑みた時の自国の情勢があまりにも悲惨であることが分かっていたからだろう。
「ドイツ民族の復興」
 それがスローガンであったからこそ、ヒトラーは台頭できたのではないだろうか。
 それを思うと、宗教団体が、時代の節目節目で暗躍してきた歴史があるというのも分からないでもない。何しろ、歴史に残った戦争のどれほどに宗教が絡んでいたかを考えれば自ずと分かってくることであろう。
 日本もそんな戦後の混乱期に秘密結社のようなものがいくつもできていたとして、それを疑うだけの信憑性があるだろうか。
 当時の日本は完全に占領軍の言いなりになっていて、占領軍も自分たちのためになるのであれば、非合法でも容認するのではないかと思える。
 極東軍事裁判と言われる「東京裁判」においても、本来なら戦犯として容疑を掛けられなければいけない人たちも、アメリカの国家的な利益のため、その情報を売ることで戦犯を免れるということもあったようだ。軍の最高機密となっていたある種の兵器開発部隊、名目上は防疫給水部という細菌開発部隊の主要構成員は、その科学的実験の成果と彼らの命を引き換えに取引されたともあったという。
 それほど混乱した世の中に存在したであろうと言われているのが、
「新興宗教によるテロリスト軍団」
 であった、
 この軍団は、単純な団体であったり、集団とは言えないものがあった。なぜなら、彼らにはその注目される目的とは別に、確固たる実害が社会的に反映されたからであった。
 その軍団は、
「赤魔術十字軍」
 と名乗る一軍であり、赤というのが、共産主義を表しているのかまでは言及されていなかったが、
「赤というのは、反政府的勢力であることを表している」
 と言われていた。
 魔術というのは、教祖なる人物を称して言ってることであり、十字軍はあくまでも中世ヨーロッパに存在した十字軍の意味で、
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次