小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

メデゥーサの血

INDEX|26ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 工藤教授はあまり人の意見に耳を貸さないことで有名だった。堅物というわけではないのだが、どこか人を完全に信用できないところがあって、それが今の教授を支えているのかも知れない。
 教授が言うことを聞くという相手、それは言うまでもなく、ここの老人であった。
 彼は教授には、
「ご老人」 
 と呼ばせている。
 この老人は、自分を呼ぶ時の呼び名を皆微妙に変えている。それも老人の意志が働いていることだった。
 教授が家庭菜園を趣味にするようになったのは、他ならぬこの老人が進言したからだ。それまでは植物に興味はなく、どちらかというと棒物に興味があった。しかし、植物から摂れるいろいろな薬品が、教授をその虜にしたのだった。
「家庭菜園なんて、何が面白いんですか?」
 と、たまに老人にいうことがあったが、老人は黙って、
「わしのいうことを聞いておけばいいんだ。わしのいうことを聞いていて、間違っていたと思ったことがあったかね?」
 と言われると、教授は素直に頭を下げ、
「その通りですね。私が今ここにいられるのも、ご老人のおかげだと思っております」
 というと、老人も納得したかのようにニッコリと笑って、教授がさっき言った言葉が皮肉ではないことを示しているかのようだった。
「本当にご老人がいなければ、私はどうなっていたでしょうね? ひょっとすると、赤魔術十字軍に勧誘されて、悪の組織の一員として君臨し、今頃は絞首台の上だったかも知れません」
 と続けた。
「お前は最初から、赤魔術十字軍を毛嫌いしていたからな。しかしやつらが食指を伸ばしてきた時、お前さんはどうしていいのか分からないでいたところを、わしのアドバイスで入団しなくてもよくなったんだよな」
「ええ、感謝しています。なるほど、ああいう軍団に対しては、冷静沈着でいればそれでいいんですね」
「やつらだってバカじゃない。お芝居をしていればすぐにバレるというものさ。お前が本当に冷静沈着だったから、入団を逃れられたんだ。それは自分でも肝に銘じておけばいいと思うぞ」
 と、老人は言った。
「でも、天王寺博士がどうして彼らの組織に入らなかったのかということは不思議なんですよ。私のように冷静沈着というよりも、あの人は天才肌なので、ああいう組織は欲しがると思うんですけどね」
 と工藤教授がいうと、
「そうだね、表だけを見ていればそうかも知れない。だがね、天王寺という男は恐ろしい男なんだ、信用すると簡単に裏切ったりする。分かりやすく言えば、自分のことを最優先に考えてしまうので、まわりを裏切ることには何も感じないようなやつなんだ。特にあれだけの天才肌だ。味方にするとこれほど頼りになるやつはいないが、敵に回すとどうなるか。特に裏切られたとでも思い込めば、あいつは執念深いので、どのようにして復讐を企てるか、考えただけでも恐ろしい。
 と老人はいった。
「じゃあ、組織もそれを恐れて博士に近づかなかったということでしょうか?」
「そうだね、やつらの組織はああ見えて、決断力はすごいんだ。天才肌が揃っているので、わがままな変人が多いように思うだろうが、彼らhsそれをうまく統治した。きっと宗教団体の方のマインドコントロールによるものだったんだろうな。だからマインドコントロールというのは、教団が信者に使うものというよりも、むしろ、内部統制に使っていた方が実は強いんだ。教団という組織はそれを隠すための隠れ蓑にもなったし、マインドコントロールを受けやすくするためにも役立った。しかも資金源にもなるということで、一石二鳥どころか、三鳥でもあったのさ」
「なるほど、そういうことだったんですね。僕はあの組織のことはあまり詳しくは知らなかったのですが、そうやってご老人に説明していただくと、よく分かります」
「ああ、あの教団は一種のナチスのようなもので、彼らは、自分たちの目的に沿った組織を作り上げようとしていたんだ。だから邪魔なものはすべて排除しようという考えを持っていた。まるでナチスのホロコーストのようではないか」
「ええ、その通りですね。下手に中に入ってしまうと、彼らが少しでも自分たちと違うと感じると、いつの間にか消されていたということになりかねないというわけですね」
「その通りだ」
 工藤教授は、いまさらのように自分の立場がその時どうなったのかを思い返すと、背筋に冷たいものを感じた。
 工藤教授は知らなかったが、老人は天王寺博士に並々ならぬ恨みを抱いていた。ただ何となく、天王寺博士のことをよくは思っていないと思っていたが、それがどれほどのものであったのか、そのうちに知ることになるのだ……。

                秘密血社

 赤魔術十字軍がなくなってから、もう十年以上が経った。首謀者は皆処刑され、無期懲役の人も少し恩赦でシャバに出てきていて、懲役刑のうちのそのほとんどもシャバに出てきている状態だった。
 世間は、あの時代とはまったく別世界になっていて、高度成長時代と呼ばれ、世の中には建物やインフラの建設ラッシュ、東京オリンピックや、新幹線開通など、戦争から二十年も経てば、
「これが焦土と化した土地だったのか?」
 と思うほどで、もう復興という言葉で言い表すことなどできないほどだった。
 赤魔術十字軍の犯罪は、
「昭和の凶悪犯罪」
 として、過去の犯罪の一つとして、本には載っているが、実際にそれを語る人も少なくなった。
 それだけ時代の流れは、容赦をしないということだろう。
「いい時代になったものだな」
 と、タバコを吸いながら大学の構内にある建物の屋上で佇んでいるのは、白衣を着た中年男子だった。
 いや、初老と言ってもいいかも知れない。頭の髪の毛はまだフサフサしていたが、ところどころに白髪が混じっていた。年の頃はすでに五十歳を超えているだろう。
 その初老の男性の横に、もう一人同じように白衣を着た男性がやはり束kを燻らせながら、屋上から大学のキャンバスを覗いていた。
 それは、夏も終わりかけの夕方くらいの時間だったが、もう一人の男性もある程度の年齢に達しているように思えた。
 二人は、同じ研究チームの仲間だろうか。教授と言ってもいい二人だった。
「天王寺さん」
 若くて背の高い方の男性が、初老に見える男性に声を掛けた、
――天王寺? よもや博士と言われていた、あの天王寺氏のことであろうか――
「何だい。工藤君。君がここに僕を呼んでどうしようというんだ?」
 もう一人の男は、工藤と呼ばれた。
 では、この男は、老人からいろいろ研究を頼まれていたあの工藤教授なのだろうか?
 とするとここは工藤教授の大学があるキャンパスだということか、それとも?
「天王寺さんは、以前、僕に自分の研究を手伝ってほしいと言ってきましたが、その研究は僕としては成功したつもりでいるんですが、その最終的な目的や、どうして僕を共同研究者に選んだのかということを伺っていませんでした。それはどうなっているんでしょうか?」
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次