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メデゥーサの血

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 そういう意味で、天才集団と呼ばれている赤魔術十字軍から、自分に白羽の矢が立たなかったことを不満に思っていた。そういう経緯があったので、逆に彼らに対しての不満を晴らすという意味で、赤魔術十字軍を壊滅させることに手を貸すようになったのだ。
 そこでも天王寺博士に割き起こされて、工藤教授は、
「いいところまではいくのだが、どうしても私には目的を果たせるところまではいかないのだ」
 それが自分の性分と思うようになった。
 だが、今回、老人(あるいはその周りにいる何らかの組織)から、
「工藤教授を見込んで」
 と言われたのだから、教授としては、意気に感じたことだろう。
「ここまでの人生を一変させてやる」
 というくらいに思ったに違いない。
 さらに彼らに協力したのは、もう一つ理由があった。
 それは、この老人がまるでこちらの考えていることを分かっているかのような人物だったからである。
 今まで自分の考えていることをことごとく否定されてきたと思い込んでいる教授とすれば、
「この人なら信用できる」
 と思った相手だけに、教授の老人に対しての感情はかなりのものがあった。
 工藤教授は老人に対して、
「研究関係のことは私に任せてください」
 というと、教授の方も、
「それは頼もしい限りだ。よろしく頼みます」
 と言って、それだけで協力関係に対しての話が終わったほど、以心伝心の仲だと言えるだろう。
 このギャング風の男も実は研究員の一人であった。今日はこのような格好をしているが、普段は白衣を着て、マスクをして、教授と一緒に研究をしているのだが、今回のいで立ちがあまりにも普段と逆なので、最初にこの姿を見た教授は、椅子から転げ落ちるほど、可笑しかったということだ。この男は教授に対しても十分な信頼をおいているので、和やかな雰囲気も決して無理のないことだった。
 老人を中心にしたこの組織は、信頼の絆で結ばれているのは間違いないようだ。そういう意味では赤魔術十字軍が行っていたマインドコントロールなどはまったく入り込む余地のないものだった。
 ということは、彼らがこの女性ホルモンをほしがったのは、少なくとも自分たちの組織の中での使用ではないことは確かなようだった。自分たちのために使用するのではないとすると、老人の野望とはどこにあるというのだろう。
「女性ホルモンというのは、実はそのままでは使用できない。必ず何かを混ぜ合わせなければ効果はないんだ」
 という意見を持っていたのは老人だった。
 今回の教授の実験は、そのあたりを証明するためのものだったようだ。
「確かに老人の言う通り、何かを混ぜなければマインドコントロールには通用しない。一体あの天王寺という男は何を利用したのだろう?」
 盗み出した女性ホルモンというのも、ただ、女性から抽出しただけのものではなかった。そこには何かの混ぜ物が含まれていたが、それに関してはそれほど難しくはなかった。
 女性ホルモンをこのように液体化して抽出する場合、その保存期間は極端に短い。それを保存可能緒と言えるまでにするための工夫として混入物がありのだという理論に立って考えれば、混入物が何なのか、結構すぐに分かった。
 ただ、それだけでは、これがどのようにマインドコントロールを誘発するのか分からなかった。
 降天女帝のように、洗脳に長けていた人がやれば、これくらいの女性ホルモンでも効果はあるが、赤魔術十字軍が開発した女性ホルモンは、ほぼ誰がやっても効果があるようなクスリに仕上げていると聞いたことがあった。
 そのクスリというのが、どのようなものなのかを工藤教授が研究しようというのだったが、まだハッキリとした結論は出ていないという。しかし、きっかけは掴んだようで、そこは老人もギャングも理解していて、先が見えてきたことを素直に喜んでいるようだ。
 工藤教授が考えたのは、
「天王寺博士の性格」
 だった。
 彼なら、こういう時にどうするかというのは、まったく性格が違っているだけに客観的に見ることができ、彼が自分にとっての反面教師であることを自覚しているようだった。
 工藤教授は努力家で、天王寺博士は天才肌と言えばいいのか、科学者としては、ひらめき型で天才型の天王寺教授の方が成功はするのかも知れないが、
「科学者の責任」
 という意味では、天才型には向いていないのかも知れない。
 何かを開発すれば、必ずと言っていいほどの副作用であったり、そこから何か知らずの影響が及ぶものであるが、天才肌の人にはそのあたりの自覚がない。努力家の人はすべてを慎重に考え、副作用であったり、社会的営業を鑑みるのだろうが、天才肌は自分の研究に酔ってしまい、悪いことには目を瞑ってしまう傾向にあるのだろう。そういう意味では悪の組織が利用するには、絶対に天才肌でなければいけない。
「科学者としての責任」
 などをいちいち考える学者は、研究も送れるし、余計なことを考えて、罪悪感から正義に目覚められると厄介だ。
 しかし、そんな天王寺博士を利用したのは、国家だった。なぜ天王寺博士に赤魔術十字軍が目をつけなかったのか疑問ではあるが。あれだけの天才が集まった集団なので、天王寺博士一人くらい問題ではないと思っていたのかも知れない。
 工藤教授のような目立たないが、コツコツ研究を重ね、最終的には人類にとって大切な研究を成し遂げることであろう。そこでは副作用や人間に及ぼす災いもすべて考慮されており、安全性を確かめられたうえで発表されることになるだろう。工藤教授を慕っている学生はかなりの数いる。それに比べて天王寺博士のそばにはそんなにいない。人間性のし違いもあるが、学生も天王寺博士の気まぐれなところについていけないようだった。
 天王寺博士は、知る人ぞ知る、
「天邪鬼」
 だったのだ。
 天王寺博士は元々天邪鬼な性格だったが、政治の世界を見てしまったことで、その裏表や忖度の仕方のいびつさに最初は、さすがの天邪鬼も、
「ついていけない」
 と感じさせた。
 政治家のように世襲が多かったり、派閥でできあがっている世界では、元々の基盤もなければ、後ろ盾もない状態であれば、最初は、
「出る杭は打たれる」
 状態だったのだ。
 実際に最初は出る杭として、頭打ちになったことはあったが、それでもさすがにあれだけの世間を騒がせた赤魔術十字軍を壊滅に追い込んだ実績というのは、何にも負けない大いなる実績だった。鉄壁の実績を持って政界に進出した博士は、すぐに自分のまわりに結界を築くことを忘れなかった。
 身を守る方法は、科学者としての知恵があれば、それほど難しいことではない。天王寺博士の天邪鬼性は、身を守るうえでも大きく影響し、自分のまわりにいるであろう危険分子を見つけてきては、秘密裏に誰にも分からないように粛清していったのだ。
 博士は自分がヒトラーかスターリンにでもなったかのような気分だった。自分には彼らほどのカリスマも備わっているということを自覚していた。それは間違っておらす、粛清をするのに、一番ふさわしい人間という、普通であれば、一番ありがたくない称号を与えられたようなものだった。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次