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メデゥーサの血

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 しかし、裏の組織もちゃんと存在した。彼らは社長付けという身分になっていて、社長秘書同等の権利が与えられ、会社の経費を総務を通さずに、社長決裁で賄えたりするものだった。
 さすがに総務部員は、そんな社長付の社員を胡散臭いと思っていたようだが、下手なことを言ったり、下手に探ろうとすると、社長の権力によって左遷させられるのである。下手をすれば、解雇されることもあった。この解雇にしても、正当な理由をつけての解雇なので、どこにも訴え出ることはできず、泣き寝入りするしかない。そこまでして会社の実情を探ろうとする社員など存在するはずもなかった。
 今でいう「ブラック企業」というよりも、「グレー企業」であろうか。明らかにヤバい雰囲気は醸し出しているのだが、そこは厚いベールに包まれていて、決して覗くことはできない。完全な結界と言ってもいいだろう。
 ただ、表向きには完全な優良企業、社員もすべてしっかりしているように見せている。届け出に一切の不備はないのだ。
 表は分からないが、裏の組織は完全に頭脳集団だった。影になり決して表に出ることはないのだが、暗躍しているというイメージで、彼らはそれを楽しんでいた。そんな連中が裏にいるのだから、表に何か不備があっても、いつの間にか解決されているというおかしな現象も起こっていた。
 特にどこかからクレームなどの苦情が上がった時、普通なら、総務や影響が菓子箱を持って平謝りして何とかするのだが、それでも収まらない時、どうすればいいかと言って、会議をするのだが、そんな時に限って、クレーマーから和解についての話が出てくる。
 どこでどうなったのか分からない。まるでキツネにつままれたような話に、キョトンとしるしかない表の社員たちだが、それでもそれ以上は詮索しない。要するに彼らも自分に降りかかる火の粉がなくなればそれでいいのだ。
 そんな会社だから、大きくなるのも当然であったが、ある程度まで大きくなると、今度はそれ以上大きくならないように、どこかからブレーキがかかるのだ。もちろんそれは裏の仕事からなのだが、下手に大きくなりすぎると今度は目立ってしまって、暗躍が難しくなるという腹積もりであった。
 彼らが一体何の暗躍をしているというのか。会社を大きくするという目的があるとするならば、なぜその道半ばで抑えようとするのだろう。
「ひょっとすると、この暗躍こそが目的なのではないだろうか」
 とも思えてくる。
 暗躍というのは、
「人に知られないようひそかに策動し活躍すること」
 を言うらしい、
 つまり、裏で行うことが彼らの活躍であり、それが目的だとすれば、彼らの行動の後に何か大きなさらなる目的があるということになる。
 彼らはあくまでも目的達成のための橋渡しであって、暗躍によって何をするのか、それが表にどのように出てくるのかが興味のあるところだった。
 だが、今まで暗躍していた連中が、ある時期から表に出てくるようになった。
――ということは、暗躍が終わったのか、それとも、他の暗躍者にバトンタッチしたのかのどちらかではないか?
 と思えたが、実際には、もう裏で暗躍することはないようだった。
――一体彼らの目的は何だったのだろう?
 もっとも、それが分かるくらいの暗躍であれば、暗躍とは言えないだろう。
 ただ、時間が経てばその成果は確実に表に現れてくる。後になって、
「ああ、これがあの時の暗躍の成果だったんだ」
 と思うことだろう。
 その答えが分かるのはそれからそれほど時間が経っていなかった。これは事実として世間をあっと言わせるものであったが、それが暗躍によって実を結んだものであり、しかも、その暗躍のさらに上前を撥ねる大きな思惑が潜んでいようとは、その時誰も考えていなかっただろう。たった一人、主人公を除けばである……。

                  博士の思惑

 財閥とも言えるほどの企業にのし上がったグループに、
「大神グループ」
 というのがある。
 ここは、元々は大神製薬という製薬会社から始まったもので、その実態は麻薬取引からだった。もちろん戦後の混乱期だったので、摘発さえ何とか逃れればうまくいけた。そういう意味で警察内部に侵入し、公安を買収するというやり方を行っていたので、摘発を受けるようなヘマはしたことがなかった。
 そうやって生き残った大神製薬は、それまで不治の病と言われていた病気の特効薬を開発し、すぐに特許申請を行ったことで、一気に薬問屋にちょっと毛が生えたほどだった会社を一気にトップ企業にのし上げた。
 その功績に天王寺博士の力があったことは、周知のとおりだった。
 天王寺博士というと、赤魔術十字軍を壊滅させることに成功した博士である。国家的な反逆集団を壊滅させることに大いなる功績のあった天王寺博士なので、大神製薬での功績はさらに博士の株を上げるに十分だった。
 その当時の時の人となった天王寺博士は、その後、政治にも参画していた。衆議院に立候補し、さすがにその知名度から、他の追随を許すことなくトップ当選であった。
 着々と政治の世界でもその立場を確立していき、本来の研究だけではなく、マスコミへの露出度も高くなっていった。
 週刊誌の表紙を飾ったり、民間にも普及し始めたテレビ出演など、引っ張りだこであった。
 これも博士の計算にあったことで、必要以上に思えるマスコミへの露出度も、いろいろな産業への進出も、博士の思い通りだった。
 博士に参謀がいたようには思えない。普通であれば、秘書のような人や、スポークスマンがいるのだろうが、博士はすべて一人でこなした。それも博士の計算で、本当なら限界がありそうなことも、うまくまわりを欺きながらこなしていた。博士であっても、神様ではないのだから人間としての限界はある。それも一般人と変わりはない。それを可能にするために、マスコミへの露出を大きくし、相手に自分のペースを覚えこませることに専念した。それ以降の行動パターンをやりやすくするために、同じ方法を使うという、いわゆる高等テクニックというやつだった。
 博士はそれだけのことができる人物で、そういう意味では役者だったと言ってもいいだろう。
 天王寺博士は、しばらく内閣の相談役のようなことをしていた。参議院議員というのは仮の姿で、裏で政府を動かしていた。実際にその時代にはそんな政治家は存在したようで、天王寺博士はそのパイオニアではないかと目されている。
 ただ、これも大っぴらに知られていたわけではない。一種の国家機密で、その裏にいたのは占領軍とも言われている。占領軍は日本国の民主化を進めていたが、これまでの軍国主義から民主主義への移行はそんなに簡単なものではない。右翼の存在や反政府勢力の存在が見え隠れしている中での民主化は難しかった。
 天王寺博士が政治を掌握してくる頃になると、徐々に主権は占領軍から日本国へと移行してくる。独立国家としての道を歩み始めたのだ。戦後復興もだいぶ進んでいて、
「もはや戦後ではない」
 などという言葉が巷に溢れた。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次