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メデゥーサの血

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 しかし、赤魔術十字軍という軍団は完全に崩壊したと言ってもいいだろう、幹部は処刑されるか、投獄されている。ただこれはあまり知られてはいないことだが、赤魔術十字軍の首領が誰だったのかということだ。幹部は逮捕され尋問を受けた時、そのことをしつこく聞かれたが、誰一人としてその名前を明かしていない。
 ただ一人、気になることを言っている幹部がいたのも事実で、
「首領の名前を私がここで明かすことは控えさせていただきますが、首領はもうこの世の人ではありません」
 と言い出した。
「それはどういうことだ?」
「首領は、ある男に暗殺されたのです、毒殺でした。我々は軍団統制のため、そのことをひた隠しに隠匿しました。絶対に最上級の幹部以外は知らないようにしなければいけない。だから、数名しか暗殺されたことを知りません、逆にいうと、首領の正体を知っているのも、自分たちだけなのです。これを明かしてしまうことはできません。ただ、この世にいないことだけを私は伝えたかった」
「よく分からないな」
「首領の名前が明かされるということは、せっかく民間人は我々の組織が壊滅したということで喜んでいるのでしょうが、首領が分かってしまうと、また混乱が起きてしまうということです。我々はすでに終わってしまった軍団が世間を騒がすことを望みません。絶対に嫌なのです。だから、他の幹部の誰も首領の名前を明かすことはないでしょうね」
 ということだった。
 この話を、告白者と同じ階級の幹部に話すと、首領が暗殺されたことはアッサリと認めた。
「ええ、毒殺だったんですよ。誰がやったかも分かっていますが、それこそ絶対に言えません。首領の名前よりもむしろこっちの名前の方がインパクトはあるでしょう。ひょっとすると天地がひっくり返るかも知れない。それよりも、国民皆が疑心暗鬼に陥って、誰も信用できなくなったらどうします? それくらいの問題なんですよ」
 彼らがひた隠しに隠していることを何とか聞き出そうとしてみたが、口を割るやつはいなかった。戦時中の特高警察のような拷問ができるわけでもないので、取り調べにも限界がある。それを思えば、仕方のないことだった。
 この時の尋問を受けた連中は、無期懲役という判決を受けた連中で、死刑になった最上級の幹部ではなかった。それでも首領の名前を知っていて、なおもそれを隠し続けるというのは、どんな意味があるというのか、それが誰にとって有利になることで誰に不利に働くことなのか想像もつかない。余計な詮索はこれ以上しない方がいいのかも知れない。
 彼ら無期懲役になっていた人たちも、そのうちに特赦になり、シャバび出られた人もいた。彼らの中には、元々赤魔術十字軍の開発部署であり、今は民間の会社となっているところの相談役や非常勤取締役などの役職についた者もいたが、結局どこにも行けず、地味な仕事をすることで世間に溶け込んでいる人もいた。
 さすがに、プライバシーの問題もあって、彼らがかつての赤魔術十字軍の幹部だったということに気付く人はいなかった。まるでルンペンのようなそのいで立ちから、幹部を誰が想像できよう。
 取り締まり宅に就任した人の多くは、刑務所での中のことは記憶の奥に封印し、まるで幹部だったことが昨日のことだったかのように感じることのできる能力を保持していた。これくらいの能力がなければ、赤魔術十字軍で幹部はできなかっただろう。今は完全に崩壊してしまった軍団であったが、所属していたメンバーの質は実に高いもので、本当にうまくいけば、国家転覆も夢ではなかったのではないかと思われるほどである。
 彼らは、最初こそ非常勤であったり、相談役などの、
「お飾り的役職」
 であったが、そのうちに次第に企業の中枢に参画するようになっていった。
 相談役や非常勤取締役というのは、身を隠す仮の姿。最初から、計画は決まっていたのだ。
 彼らが会社での立場を確固たるものにしてくると、それまで地味に活動してきた研究所や会社が、俄然活気に満ちてきた。
 それまで何も開発していなかったと思っていたところに、次々と新製品や、新薬を発表する。
「これはすごい、実に画期的な発明だ」
 と、専門家や大学教授に言わしめたほどの研究結果で、彼らは即座に特許申請を行い、独占で販売に乗り出した。
 そうなってくれば、会社の業績はうなぎ上り、誰が何と言おうとも、大企業に仲間入りするのだった。
 そんな会社がまさか、昔は、国家転覆を狙っていた組織の生き残りだという意識はなかった。それほどマスコミも発達した時代ではないし、それ以上に時代が新しいものを求めている。つまりは、古い時代のものは、置いて行かれるということになるのだ。
 そんな時代が幸いしたのか、彼らの過去を知る者は一部しかおらず、会社は順調に成長していく。一部上場もすれば全国に支店を広げ、その土地の地場企業を買収し、さらに巨大になっていく。まるで戦前の財閥のようではないか。
 まさに財閥だと思わせるのが、まず彼らが目につけたのは金融関係であった。銀行などを味方につけて、いろいろ融資をしてもらう。それを銀行がフィードバックしてもらい、銀行も儲かるという仕組みだ。
 中には、銀行の傘下に入ったところもあった。傘下といっても、下になるわけではない。グループ会社の前面に銀行を出すことで、まわりを安心させるのだ。そして、彼らの傘下に入りたいという会社を募り、合法的に吸収合併する。そうして次第に会社を大きくしていき、一大コンツェルンを築くというわけだ、
 資金についても銀行が前面に出ているので、いくらでも何とかなる。仕事の受注も民間からは当然のことながら、公共事業を請け負うこともどんどん増えてくる。公共事業に手を出すと、利益を生み出すことなど自在だと思っている幹部もいるくらいで、政界、財界にパイプを持つのは、元軍団の幹部たちであった。
 政界、財界というのも海千山千の連中ばかりで、利益最優先で露骨に話ができる。口では濁しながら、これほど話しやすい相手はいないとばかりに、話が出来上がる。
「俺たちが歴史を作るんだ」
 とばかりに、話をしているが、そんなことを考えているわけではなく、まずはお金が目当てだった。それだけに、話は早く、談合もさほど難しくはなかった。
 ただ、秘密を守るためにはかなり神経を遣っていた。バレてしまえば元も子もない。
「自分たちは決して手を汚してはいけない」
 という名目もあることから、影武者は常に用意している。
 つまり何かあった時に自首をする鉄砲玉のような連中だ。
 彼らにとっては、駒でしかない彼らだったが、何もない時は、彼らを存分に優遇する。優遇されれば意気に感じ、
「何かあれば、親分のために」
 とでも思うのだろう。
 そんなすぐに調子に乗りやすく、実は口が堅い連中を集めてくるのはうまいものだった。
 実際にそういう課もあった。もちろん、表立っての課ではないが、社長直属の部署がいくつかあり、彼らは一般的な部課とは違っていた。一般的な部課というのは、総務部であったり、営業部であったり、経理部であるところの、どこの会社にもある表向きの組織である。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次