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メデゥーサの血

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「ええ、その通りです。ただ、どの組織によるものかということは私でなくとも、マスコミや警察関係者であれば、分かるのではないかと思います。そのため、この場で発表はしますが、記事にするのはちょっと待ってください」
 この中継は、ラジオでは行っておらず、あくまでも記者相手の会見だったので、ここで発表しても、記事にならない限りは、一般国民に知られることはない。
 そういう意味で今日のこの会見が厳重だったというのは、組織に狙われているというのも問題ではあるが、それと同時に、一般国民に聞かせてはいけない部分があったという二つの理由が存在したのだ。
「ところでその団体というのは?」
「それは皆さんもウスウス感じいると思いますが、赤魔術十字軍です」
 と博士が言い切った瞬間、
「おお」
 と感嘆の声が聞こえたが、それは一部であり、他の連中はそれを固唾を飲んで聞いていた。
――やはり――
 という思いがあったのだろう。
「彼らの組織についても、私はある程度まで把握しているつもりです。彼らの組織は二部構成になっていて、一つはいわゆる反社会的な勢力であり、闇市から発展したものが強大になっていったのだと思います。これは皆さんのご想像の通りです。そしてもう一つは宗教団体としての顔も持っています。こちらは、まるで自転車操業ですが、反社会的勢力と裏で宗教団体が暗躍するという構造は、組織を大きくするには相乗効果があるのではないでしょうか。だから、彼らにとっては、この宗教団体と赤魔術十字軍とが結び付いているということを知られたくはないと思っています」
「具体的にはどんな団体なんですか?」
「皆さんも名前くらいは聞いた子tがあると思います。女性の教祖で、降天女帝というのをご存じでしょう?」
 というと、今度こそ会場から満場一致で、
「おお」
 という大きな声が響いた。
 これに関しては誰も予想する者はいなかったようで、ほぼ全員から感嘆の声が上がったのだ。
「聞いたことがあります。結構当たると言われていて、有名ですよね。実際に信者もかなり増えていると聞いています。そうですか、あの女が……」
 と言って、あたりを見渡すと、皆さも同意しているかのように、腕組みし、考え込んでいた。
 そして、次第にそれを理解すると、その不満の矛先は警察に向かった。質問は博士に対してではなく、同席していた警察幹部に向けられた。
「警察は何を捜査していたんですか。こんな重要なことを、警察からではなく、学術博士から聞かれるというのはどういうことなんでしょう?」
 と言われた。
 これを言われれば警察も何も言えなくなってしまう。それを庇うように博士が続けた。
「いや、これに関しては警察に問題があったというわけではありません。警察というのは捜査権限はありますが、おのずとその限界があります。警察捜査だけでは、どれだけの時間があったとしても、なかなか真相に近づくことは難しいでしょう」
 という博士の言葉に、警察幹部は額の汗を拭きながら、完全に恐縮していた。
 博士は話を続ける。
「組織について分かってきたところで、我々が次に考えたのは、共通性でした。何かの犯罪が同じ人間、あるいは団体によって行われる場合、そこには本人たちが気付いているかどうか分かりませんが、必ず共通性なるものが存在しています。ただ今度の場合は、確実に彼らは意識していたでしょう。それは、彼らが犯罪の形式を変える時に問題があったのです。殺人から誘拐、そして放火に移行する時、彼らは我々に挑戦状ともいうべき犯行声明を送ってきた。これが私にとって、彼らの共通性だと思ったのです」
 と博士がここまでいうと、
「それで、その共通性は分かったのですか?」
「ええ、分かったつもりでいます。これはひょっとすると、誰かの意志が働いているのかも知れませんが、働いているとすれば、降天女帝と呼ばれる教祖によるものでしょう。宗教団体としての彼らは、組織全体から少し隔絶されたところにいるような気がするんです。そこには結界のようなものがあって、結界を超えることは、教祖にとって許されることではない。だから組織としても、彼女に一任した以上は、彼女のやりたいようにさせていたんでしょうね。でも、犯行声明は彼女の意志ではなく、組織が出したものでしょう。なぜなら犯行声明のおかげで私はその共通性を見つけることができたのですからね」
 と、言って博士は自慢するでもなく落ち着き払っていた。
「一体その共通性とは何ですか?」
 逸る気持ちを抑えることができず、一人の記者が質問した。
 そもそも、ここまで結構話を引っ張ってはきたので、それを逸ると言っていいのかどうか分からなかった。
「それは、月の満ち欠けなんですよ」
 と博士は平然として言った。
 ここまで引っ張られていたからなのか、今度はそのことについて誰もすぐに言及する人も、感嘆の声を上がらなかった。
 しかし、意味が分かっていないと思われる新聞記者の一人が、
「それは、満月とか新月とか、三日月とかいうあれですか?」
 とまるで教授の言葉を補足するような形で言った。
「そうです。それこそが、彼らの共通点というか、彼らを指し示す指標のようなものだったのです」
 と語った。
 すると、一人の新聞記者が、
「そういえば、あの宗教団体のトレードマークは三日月のような形をしていたような気がするな」
 と思い出したように言った。
「ええ、その通りです。彼らの組織は常に月の満ち欠けを基準に行われています。一週間おきに犯罪が変わったのも、そのせいでしょう。彼らには天体への意識がかなりあるようです。私が元々生物学専門だったのが、天文学にも移行することで、それまで疑問だったことがことごとく解けていったのを記憶していますが、彼らも同じだったのです。私の場合は悪に染まることなく普通に研究しましたが、彼らは悪の組織として結成した後に月の仕組みを発見しました。恐ろしいことです。私が彼らを恐れるのは皆さんと違った意味で恐れるのであって、月の満ち欠けがどのようなものか、すぐには皆さんには理解できないと思いますが、月の満ち欠けを理解することができるようになった彼らは、ある意味無敵集団になってしまった。そのことだけは確かなことだと思っています」
 と博士がいうと、
「月の満ち欠けにはそんな大きな秘密があるんですね」
 とある新聞記者は聞いてきた。
「ええ、そうです。皆さんはオオカミ男の話をご存じでしょう? あれも満月を見ると普通の人間がオオカミ男に変身するというものですよね、もっともこれは都市伝説の類ですが、逆に都市伝説が生まれるというほど、満月というものが恐ろしいものの象徴であるともいえるのではないでしょうか?」
「なるほど、そういう見方もできますね」
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次