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メデゥーサの血

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 という文句が週刊誌の表紙を飾る。
 犯行声明を送られた週刊誌は皮肉なことに売れに売れた。そのせいもあってか、
「犯人は週刊誌の発行元ではないか?」
 などという根拠のないウワサもあったくらいだ。
 もちろん、そんなバカなことはなく、誰もそんなウワサを信じる者はいなかったが、誹謗中傷を受けた出版社としては溜まったものではない。その怒りの矛先は警察に向き、
「何とかしてくださいよ。犯行声明を送り付けられて迷惑しているうえに、誹謗中傷なんて、これじゃあ、溜まったものではないです」
 と、警察へのインタビューにも熱が籠っていた。
 世間は完全に怯え切っていた。まるで都会の上空に見たこともない色の暗雲が立ち込めているかのようだった、
 その色は濃い紫色をしていた。世界を黒く染めているのだが、真っ暗というわけではない。明かりはほんのりと灯っているのだが、この世の状態であれば、真っ暗な方がいいかも知れない。悪夢を見ないで済むからだった。
 悪夢というのはいうまでもなく、犯行声明を送り付けてきた連中。世間ではいろいろなウワサが立ち、
「再軍備を目指している連中がmテロを起こした」
 という者や、
「進駐軍による国民洗脳への第一段階」
 という者もいた。
 国家ぐるみでなければ、これだけ大胆にかつ大それたことができるはずもない。きっと信じられないような大きな組織が暗躍していると言われていた。
 だが、この組織に国家は関係ない。どちらかというと、国家転覆に近いかも知れないが、そこまで具体的に国家に対しての反旗はないようだ。
 この組織は、前述のような二大構成になっていることで、資金の調達がスムーズだった。やっていることは反社会的なことであって、非合法なのだが、彼らにそんなことは関係ない。何しろ、闇市が隆盛を極め、世間での公然の秘密になっているからだった。
 組織は、軍資金を得るためであれば、ありとあらゆることに手を出した。米軍との闇取引などはまだ公然と行っていたと言ってもいい。薬物にも手を出していて、いろいろな麻薬や劇薬を持っていた。化学班もあり、個別に薬物研究をしていた。そこには細菌やウイルスの研究もされていて、まるでかつての関東軍の某部隊のようである。
 ただ、これは組織の中でも、最重要機密になっていた。幹部の中でも一部にしか知られておらず、極秘で進められていたのだ。
 考えてみれば、敗戦の時、某部隊の存在を徹底的にこの世から抹殺した旧日本軍のやり方を踏襲していると言ってもいい。
 さて、そんな彼らの暗躍もそうは長くも続かなかった。
「悪が栄えた試しはない」
 と言われるが、本当にそうだと世間が感じたことだろう。
 彼らの犯罪が世の中を席巻したのは、それから半年ほどだった。それから彼らの勢いはまったく失っていくのだった……。

                 天王寺博士

 なぜ、あれだけ向かうところ敵なしだった無敵の軍団が衰退してしまったのか、それはある学者の説で分かったことだった。
 この学者は、科学、天文学、さらに心理学など、様々な研究に従事していた人で、彼曰く、
「それぞれに学問はあるけれど、その本質は一つである」
 と提唱していた。
 そんな彼だからこそ気が付いたのかも知れない。あれだけ警察が足で捜査し、世間の目が光っている中で、あそこまで大胆に行動できた組織だったのに、半年後からその活動を停止してしまった。
 博士の名前は天王寺博士という。天王寺博士は戦前から天才として学術界ではもてはやされていた。元々博士は生物学の権威で、次第に科学、天文学とその研究範囲を増やしていき、さらに心理学を研究し始めた。博士がいうには、
「私が進んだ研究順序は決してでたらめだったわけではない。進むべくして進んだ道だったのだ。それができたのは、最初に生物学を専攻していたからかも知れないな」
 と語っていた。
 凡人にはその言葉の意味はハッキリと分からない。だが、生物学者には、彼の言葉の意味が分かるらしく、彼のマネをして、科学や天文学に手を広げた学者もいたが、その途中で挫折してしまった。また生物学だけを専門に研究するように戻ったのだが、その時の発言として、
「本当に天王子博士は素晴らしい。我々にはとてもマネのできるものではない」
 と言わしめた。
 そんな学者でも、権威ある生物学の賞を取れたくらいなので、天王寺博士がどれほどすごい人なのか、想像を絶するものがあるに違いない。
 天王寺博士は、今世間を騒がせている悪の組織について会見を行うと言ったのは、最初の犯行声明が出てから、四か月後くらいのことだった。
「あの天王寺博士が、世間を騒がせている悪魔のような組織について会見するってよ」
 と、マスコミ界はハチの巣をつついたような騒ぎになった。記者会見は、相当の数のマスコミを巻き込んだため大きな会場で行われたが、警察の警備が最高に厳重だったことはいうまでもない。
 さっそく記者会見が行われ始めたが、
「まず、私が今日皆さんに集まってもらったのは、他でもない。例の反社会的集団についてのお話です。やつらは大胆にも犯行声明などを送り付け、まるで愉快犯のようですが、その実計算されたやり口で、警察の捜査を煙に巻いています。ご存じのように、殺人、誘拐、放火などと次々に犯行声明が出されましたが、警察でもどうすることもできませんでした。彼らは神出鬼没なのです。だが、彼らのやっていることに共通点を見つけようと考える人がどうしていなかったのか、私にはそれが疑問です。おそらく規則性を見つけたとしても、それが何を意味するか考えようとしないからではないでしょうか。それよりも旧態依然とした旧来のやり方で捜査する方が早いとでも思ったのでしょうか? 楽な道を選んだために、余計に事態は混乱し、却って彼らの術中に嵌ってしまったと言えるのではないかと思うのです」
 そこまでいうと、一杯水を飲んだ。
「彼らの目的はそこにあったのではありません。別の目的があり、いわばこの犯行声明は、こちらに目を向けさせるためのお芝居のようなものではなかったでしょうか。そうでなければ、ここまで小バカにしたような犯行声明を、これでもかと送り付ける必要などないと思うのです。犯行声明には二つの意味があります。しかし、最終目的は一緒です。犯行声明を出すことで、目をそちらに向けるといことと、警察を小バカにして、捜査陣の心理を掻きまわすことで、明後日の捜査をさせようという意思が働いていると思います。そしてその効果は甚大で、見えてくるものも、見えないようにされたのです。彼らによって張り巡らされた結界を果たして取り除くことができるのでしょうか?」
 まだ会見中で質問の時間ではなかったが、逸る新聞記者の一人が口を挟んだ。
「それじゃあ、博士はその謎が解けたというのでしょうか?」
「ええ、そのつもりでここにいます」
「それは、どの組織による犯行で、その目的、そして、犯行時における共通性を見抜いたと思っていいんですね?」
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次