小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

メデゥーサの血

INDEX|10ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「我々のところに告白文章を追うってきたり、マスコミに公表してほしい内容を送ってくるのは、意外と芸能人に多いらしいんですよ。社会部というよりも芸能部というんでしょうか? でもおかしいですよね、我々記者は、芸能人に対しては結構ズケズケを入り込んで相手緒気分を害することがあるのに、そんなマスコミに話を持ってくるんですからね」
 と言った。
「どういう心理なんでしょうね?」
 と聞くと、
「やっぱり、彼ら彼女たちは、根っからの役者なんじゃないでしょうか? 彼らは舞台や映画のスクリーンを自分を最大限に表現するものとして利用している。実際にはそんなに広いものではない、どう考えても限界があるんです。それを駆使しようとしている努力に対して頭も下がるし、経緯も表します。だから、僕は彼らとは共存共栄できればと思っているんですよ。お互いに欲望や願望を相手に求める、それを相手が叶えてくれるというような感じですよね、世間では我々が行き過ぎた報道なんて言ってますが、彼らだって我々を最大限に利用しようとしている。だって、我々が宣伝しているようなものですからね」
 といった。
「なるほど、あなたは対等なイメージを持っているんですね? 芸能人と」
「でも、今回の犯行声明はまったく違う、これは完全に相手からの圧力ですよね。送りつけておいて、あたかも、これを記事にするんだと言わんばかりですよ。本来なら嫌だと突っぱねるんですが、会社が公表を方針としているのであればしょうがない。僕も自分のプライドもありますから、なるべく相手の書いてあった通りに書いて、あとはそれ以上何も書かなかったというわけです」
 と言った。
「なるほど、僕は下手なことを書いて相手を怒らせて、さらに世間を騒がせるような事件を起こさないような配慮があったのかと思いましたが、今のお話を聞いて、記者さんの気概やプライドのようなものが分かった気がします。そうやってお聞きすれば、自分の中でくすぶっていたものも、何か解消したような気がしますね」
 と、刑事も素直に答えた。
「我々も、警察に対して時々無責任なことを書いています。自分でもその自覚はあるんですが、やはり警察というのは、縄張り意識が強いというか、上から目線というところがあるので、僕はそれが嫌なんです。もちろん、警察も捜査の段階で我々が勝手に騒いでいるのを見て。何を勝手なことを言っているんだって思っていることは感じていました。だから警察を批判することはなるべくしないようにして、事実関係だけを書くように心がけてはいるんですよ」
 と、刑事を前にして、少し照れ臭そうに話した。
 さらに彼は続けた。
「この事件なんかは、本当に恐ろしい組織が暗躍していると思っています。雑誌社に犯行声明を送り付けてくるんですからね。しかも不思議なことには、この声明はうちにだけ送られたものなんです。今までのマスコミを宣伝に使用しようとする犯人は、一社だけでなく数社に犯行声明を送り付けています。それはきっと、それぞれの意見を聞いてみたいという思いと、世間を混乱させる意味合いがあったのではないかと思うんです、それなのにうちだけに送り付けてきたということは、僕はそこが気になるんです」
「どういうことですか?」
「これは警察の方でも分かっていることではないかと思うのですが、犯行はまだまだ続くということでしょうね。まずはうちに送り付けてきた。そして次に彼らが送りつけてくるところは別の出版社になるんでしょう。彼らがうちに最初に送り付けてきたのは、偶然なのかどうかは分かりませんが、もし、何か事件が起こって、犯行声明が他の雑誌社に送り付けられてきたら、この犯罪はまだまだ続くということです。そして、二社目に送り付けてきた声明文こそ、本当の彼らの挑戦状で、見方によれば、脅迫状の様相を呈してくるかも知れないということです」
 さすがに雑誌社の記者らしい発想だった。
 刑事もこの犯罪がこれで終わるなどと万が一にも思ってはいなかったが、一社だけに送られてきた犯行声明の意味をそうやって解釈するということは、想像もしていなかった。それだけ自分が警察という組織にドップリと浸かっていて、他の見方ができないようになっていたのだということを思い知らされた。
 雑誌社の人は的を捉えていた、今度はその一週間後、別の出版社に同じような犯行声明が送られてきた。今度はいきなり雑誌に掲載するなどはせず、出版社から警察に連絡があった。そのため、すぐに掲載されることはなかったが、それがよかったのか悪かったのか、物議をかもすことになった。
 仰々しくも大げさな封筒で、まるで小包かと思うような分厚い封筒の中に、A4サイズの用紙が二つ折りで入っていた。用紙は三枚くらいで一枚は声明文であるという宣言だった。
 封を見ると、あて名は書かれているが、差出人はない。消印も記されているが、そんなものはどこの郵便局から出したかということだけなので、対してあてになるものではない。編集長宛てだったので、編集長が風を開けて中を見ると、いきなりの犯行声明。
「今度はうちだ」
 と思わず叫んだ編集長を、編集部の人間は一瞬にして見つめる。
 サッと事務所内に緊張が走り、編集部員が次々に編集長のところに駆けつける。皆以前の声明文を雑誌で見ているので大体のことは分かっていたが、まさか今度は他の編集者に送ってくるというのは、どういう神経をしているというのだろう。
「うーん、さっぱり分からない」
 と編集長は頭を傾げながら、とりあえず取り出した。
「諸君、無能な警察しか信じられない可哀そうな市民諸君、きっと皆さんは我々の行動に怯え切って、出勤や通学ができない人もいるのではないか? 実に気の毒なことで、哀悼の意を表しよう。さて、今回我々は、誘拐に目を向けることにした。いろいろな女を誘拐して、さてどうしようかな? 我々の慰めモノになってもらおうか? それとも、どっかに売り飛ばそうか? どれがいいと思う? 好きなものを選ばせてあげよう。もっとも君たちには彼女たちに慰めてもらうことは絶対にできないがね。安心したまえ、我々だってオニではない。取って食おうなんてしまい。むしろかわいがってあげようというのだ。男女が愛し合う。これは人間としては当たり前のことなんだ。そして、女性は子供を授かって、子孫を増やしていく。これこそ、自然の摂理というものではないだろうか? 諸君の陳腐なモラルとやらは、そんな営みを低俗のように考え、性行為を恥ずかしいものとして考えているが、果たしてそうだろうか? 生の営みこそ人間の人間たるゆえんではないだろうか。女は男に奉仕する。今の時代を象徴しているではないか。この間まで我々の宿敵だった。アメリカにかぶれて、男女同権などと言っているが、結局は男が女を養うのだ。君たちにその理屈が分かるかな? 本能によってのみ、人間らしくいられるんだ。目覚めろ男子諸君。我々は世の男の見方なのだ」
 と書かれていた。
 そこには殺人に関しては何も書かれていなかったので、殺害予告ではないようだ。
作品名:メデゥーサの血 作家名:森本晃次