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意識の封印

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 二年生の頃まではあれだけ思春期を気にしながら、実際に思春期に突入すると、その突入したという意識が肝心の自分にはなかったのだ。気が付けば思春期の中にいて、どうして思春期の突入に気付かなかったのかということに疑問を感じながら、三年生の間は、毎日がなかなか過ぎてくれなかった。
 そんな三年生であったが、終わってみれば、一年、二年の頃と同じで、あっという間に過ぎて行ったという意識しかなかったのだ。
 そんな中学時代だったが、三年生の頃に感じた思春期により、異性への興味も増えて行った。
「彼女がほしい」
 という意識は、前述のように、クラスメイトが女の子と楽しそうにしているのを見て羨ましく感じたことが始まりだったが、これは竜馬の性格からすれば、矛盾している。
 他の人と同じでは嫌だと思っているくせに、人を羨むという感覚は、ちょっと考えれば矛盾していた。その矛盾に思春期であっても、竜馬は気付かぬわけはなかった。
 好きになった人がいるわけではないのに、ただ羨ましいと思うのはおかしなことだ。まずは好きになれる女性を探すことが先決なのだが、それも何かが違う気がした。
 竜馬は、自分が好きになったから好かれたいというよりも、好かれたから好かれたいと思うようになるタイプの男の子だった。だから、自分が好きになれる相手を探すのではなく、自分を好きになってくれる人を探すという感覚だった。それは自分が好きな女性を探すよりも難しいことである。何しろまずは相手が自分を好きになることが前提だからだ。
 つまりは自分の努力というよりも他力本願で、その思いが小学生時代に気になっていた直子に通じるものだということを、まだ中学時代には分からなかった。自分の性格は何となく分かっていたが、そこに相手が絡むと急に分からなくなるのだった。
 竜馬は高校二年生の頃、アルバイトをした。それまでアルバイトをしたことがなかったのは、学校からアルバイトは基本禁止という話だったのだが、特例で年末年始の年賀状配達だけは、なぜか許された。学校から何人か割り当てがあるようで、学校側から人員を募っているくらいだったからだ。
「学校がアルバイトを基本禁止にしているのは、コンビニのレジだったり、飲食店などの接客業を考えているからであって、郵便配達などは、別に禁止をしているわけではない。だから『基本』という言葉が前提にあるんだよ」
 と先生は言っていたが、どこまでが本当でどこまでが言い訳なのか分からなかった。
 高校二年生というと、まもなく受験を控えているということで、高校時代の最初で最後のアルバイトになることだろう。期間は冬休みが始まってから、正月期間くらいまでとなっていたので、二週間くらいであろうか。
 結構早めにアルバイトに入ったので、まだそれほどアルバイトの人間はおらず、年末独特の忙しさもなかった。配達も家を覚えるために数日要したが、思ったよりも苦労せずに家も覚えることができて、郵便物もそんなに多くないことから、配達自体は午前中で終わりだった。
 午後からは、すでに投函されている元旦配達予定の年賀状の振り分けを行っていた。年賀状と言っても、この市内から全国へ配達される年賀状もあれば、中には地方の郵便局から送り込まれたこの市内での配達分もある。まずは大きく分けて、少しずつ細かくしていく。つまりは死を限定し、町名を限定していくなどと言った作業だ。
 まずは先輩配達員が手本を見せてくれたが、その手際の良さに、
「ほぉ」
 とアルバイト皆舌を巻いたように感心していたが、配達員は平然として、
「君たちも慣れればすぐにできるさ」
 と言ってくれた。
 横の方では、すでにアルバイトに来ていた女の子たちが仕分け作業をテキパキとやっていた。彼女たちは配達員ではなく、あくまでも仕分け中心の仕事だったのだ。
 男の子の間では昼休みなどで話しかけたりして、それぞれ友達を作っていた。女の子も同じなのだろう。作業をしながら話をしている人もいた。だが、さすが女の子、男子のように話しながら手を休めたりすることはなかった。そこはさすがだと竜馬は思った。
――おばさんになれば、ルーズになるんだけどな――
 と、おばさんのルーズな態度に気を病むことの多かった竜馬は、そんなことを感じていた。
 女の子、二、三人が集団を作っている。数組あるだろうか。その中で後ろ姿がどこかで見たことがあるような気がする女の子がいた。横顔をなるべくさりげなくではあるが覗き込んでみると、思わずのけぞってしまう自分がいるのに竜馬は気付いた。
――直子――
 思わず、声に出てしまいそうになるのを必死で堪えた。
 明らかにそこにいるのは直子だった。しかも、小学生の頃と何ら変わったところのないあどけなさで、髪型も自分が好きだった時と同じ髪型だった。
 彼女にも思春期はあったはずなので、当然大人になっているはずだった。それなのにそれを感じさせないのは、自分も同じように大人になったからなのか、それとも、小学生の頃から子供を超越していたのかのどちらかだったように思えてならない。
 一瞬、
――もったいないことをした――
 と思うしかなかったが、後の祭りである。
 ただ、女の子たちは、皆制服を着ていた。学校から、
「アルバイトに行く時は、制服着用」
 とでも言われているのだろうか。
 男子の場合はそんなお達しはなかったのだが。
 直子は友達との会話にちゃんと参加していた。自分から話もするし、相手の話もちゃんと相手を見ながら聞いている。しかし、その表情には喜怒哀楽がなかった。ポーカーフェイスというか、要するに、
「何を考えているのか分からない」
 ということであった。
 そんな直子を見ながら、竜馬は戸惑っていた。その戸惑いの一番の理由は、
――彼女に僕だということを気付かれたくない――
 という思いだった。
 いまさら出会ってどうするというのだ。話しかけたとして、話は聞いてくれるかも知れないが、さっき見た彼女の喜怒哀楽のなさは、竜馬に恐怖すら与えた。
――直子が喜怒哀楽を示さないようになったのは、僕が原因ではないだろうか――
 という思いだった。
 元々喜怒哀楽は表に出ない方だったが。成長するにしたがって身についてくるものではないか、そう思うと、自分が直子から離れてしまったあの時から、直子の成長を止めてしまったとも言えなくはない。
 つまり、表情も雰囲気も昔のままの直子を見て。直感として、
「僕が彼女の成長を止めてしまったんだ」
 という思いが頭の中に根強く植わっているからではないかと感じるのだ。
 友達との会話を直子はあんなに楽しそうにしているのに、無表情だというアンバランスさにまわりの誰も気づいていないというのは明らかにおかしい。ひょっとして直子には何らかの力が備わっていて、まわりに対して自分の都合よく操る不思議な力が宿っているのではないか。しかも、それを直子本人には自覚がない。いや、いや自覚がないと思いたい自分がいることに気付いていた。
 だが、一緒にいる間には決してそのことを感じることはない。もし小学生時代の自分がそうだったのだとすれば、何ら自分に後ろめたさを感じる必要などないのである。
「直子ちゃん、久しぶりだね」
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次