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意識の封印

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 などと勝手な正当性を考えて、自分の心のジレンマと矛盾を自分に納得させようとするのは、仕方のないことだろう。
 だが、それは自分だけの中でやっていればいいものを、彼女を巻き込もうとしてしまう自分に嫌気がさし、ここまで悩まなければいけない原因を彼女に求めてしまい、責任転嫁をしたくないという思いのジレンマからか、
――僕が彼女に近づかなければいいんだ――
 と思うようになった。
 近づくから腹も立つのだし、自分から離れれば、気にして見ることもないので、ジレンマが少しでも解消できると考えたのだ。
 その思いは彼女を放置してしまうことになる。
 直子は心の中で竜馬を慕っているのは分かっている。自分から近づいてくるのはそのためだ。
 それを竜馬はいとおしいと思っているが、それも彼女に対して何ら疑問を抱いていない時のことだった。
 髪の毛を切ってきたくらいで疑問も何もないものだが、竜馬にとっては、自分のイメージを壊されたことへの憤りがあった。そもそも、直子は竜馬に対して従順で、竜馬が何を言わなくとも竜馬の気持ちは分かっているはずだと思い込んでいたことが、間違いの元だったのだ。
「そんなのお前の勝手な思い込みで、もっと相手のことを考えろ」
 と言われればそれまでだが、その時の竜馬は、その言葉をそのまま直子にぶつけたいくらいだった。
 それが少年時代の竜馬の性癖だったと言ってもいいだろう。
 直子に対して淡い恋心を持っていたこと、そして、それが初恋だったこと、それらは間違いないだろう。実際にいとおしいという気持ちは持っていたし、その思いが自分の中で次第に強くなっていくのも分かっていた。
 それなのに、竜馬の中で直子に対して急に冷めた気持ちになってきたのはなぜだろう?
「裏切られた」
 という気持ちにさえなった。
 自分が好きな髪型を相手に望むのはいいが、それが叶わぬと言って、相手を嫌いになるのは、無理強いしているのと同じではないだろうか。
 しかも、相手に自分が髪型を気にして自分から離れていったなどということが分かるはずもなく、きっと彼女の性格から行くと、
「何か分からないけど、自分が彼を遠ざけてしまったんだ」
 と思うに違いない、
 外見だけで見ればその通りなのだが、実際は大きく違う。勝手な思い込みが無理強いになっていて、その思いを相手が察してくれないことへのジレンマが、わがままに繋がったのだ。
 竜馬は、そんな自分を悪いとも思っていない。直子も自分が悪いと自分を責めてはいるが、自分で納得できないことで自分を責めることは直子にとっても自分で容認できることではなかった。それがジレンマとなっていたが、そこからが竜馬とは違って、相手にその責任を転嫁するようなことはしなかった。
 竜馬は、直子のことをまるで自分のおもちゃのように思っていたのかも知れない。
 それは、自分の言うことには従順で、自分の想像通りの動きをしてくれる人、そういう意味ではおもちゃというよりも、ロボットのようなものだったのかも知れない。
 しかし、竜馬にとってロボットという発想は許されない。あくまでも直子は自分の意志で竜馬の考えに沿う態度を取っているという大前提でなければいけないからだ。
 そういう意味でロボットとは、
「人間のいうことに忠実」
 という大前提がある。
 しかし、竜馬は直子のことを決してロボットのようなものとは思わない。竜馬にとってのロボットというものに対しての意識の一番強いところは、
「血が通っていない」
 ということであった。
 血が通っていないから、脳の中に血液が流れていないから、ロボットは人間には決してなれない。そして人間の言うことは聞いても、人間の求める暖かさを与えることはできないものだという思いが強いのだ。
 だから、相手に従順を求めながらも、それは決してロボットではない。あだおもちゃと言った方がしっくりくる。
 変なこだわりを持っている竜馬だったが、自分が自分以外のまわりに感じている意識は、
――自分以外の人は、皆僕以上なんだ――
 という考えである。
 それが自分の中の考え方の根本である、
「人と同じでは嫌だ」
 という思いに結び付いているのではないだろうか。
 つまりは、自分は他の人に勝ることができないという劣等感が強いあまりに、
――どうせ勝ることができないのなら、せめて同じではないと思いたい――
 という感情である。
 これは直子から距離を持つようになった頃から感じるようになったことだった。
 直子という女の子は、自分から離れて行く竜馬を追いかけるようなことはしなかった。寂しそうな顔をしているようだったが、直子は普段から寂しそうな顔をしている。むしろそんな表情の彼女だから自分が惹かれたと思っている。彼女の寂しそうな顔は今に始まったことではなかった。
 かわいそうなその顔を見ながら、どこか後ろ髪を引かれていたが、それは彼女に対して悪いというよりも、後悔していないはずの自分が、どこか苦々しく思っているからであって、その思いが直子にまったく伝わっていないことが悔しかったのだ。
 自分の感じていることが、直子に反映していないことが、竜馬にとってさらに直子に対して感じた苛立ちにも繋がっていった。
――本当は自分に対しての苛立ちのくせに――
 そんなことは分かっていた。
 自分に対して苛立ちがあるからこそ、直子を遠ざけたのだし、そして、他人と同じでは嫌だというような考えに至ったのだろう。
 直子という女の子を失うことが自分にとってどんな影響をもたらすか、その時に分かるはずもなかった。
 直子のことはそれからずっと思い出すことはなかった。
 四年生になってからクラスが変わって、同じクラスになることは一度もなく、彼女の方は中学から私学の学校に変わったことで、竜馬とのつながりも消えていた。
 直子は竜馬と離れてから、また一人になったが、人になってから、勉強に嵌ったそうだ。
 人から、
「勉強しなさい」
 と言われたわけではなく、自分から勉強を好んでやったという。
 それだけ彼女は運がよかったのかも知れない。勉強を始めたことで、どうしていいか分からなかった自分の進むべき道が見えたのだとすれば、運がよかったという言葉がピッタリだと竜馬は思った。
 竜馬の方は、好きになることが見つからず、ほとんど何も考えることなく、小学校を卒業し、皆と一緒に公立中学に進んだ。
 二年生になっても、なかなか思春期というものを迎えない竜馬は、焦つころはしなかったが、
――僕に思春期って訪れるのだろうか?
 という一抹の不安はあった。
 それでいて、誰もが訪れている思春期を同じ時期に迎えていないことで、
「他の人と同じでは嫌だ」
 という思いを実行できているようで、嫌な気はしなかった。
 中学時代は気が付けばあっという間に過ぎていた。何も変哲のない毎日が二年生まで続いたが、三年生になって急に思春期を迎えた。
 身長は伸びていき、身体の変調も何となく分かってきた。気持ちも少しずつ変わっていたが、その理由が分からない、
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次