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意識の封印

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 結局、アイテムを使ったとしても、その人の存在を消すことはできないので、最後にはアイテムごしに相手を見ることが可能になり、その存在を明らかにすることで終わる結末だったように思う。
 しかし、それは最後まで気付かれなかったということは、そんな人間の存在を肯定することになり、子供相手に理屈を調節した話をしても分からないという思いに至るかも知れない。それは道徳上においても教育上においてもよろしくないということで、きっと映像化されることなどないに違いない。
 もちろん、こんな高度な発想を小学生の竜馬ができるはずもないのだが、あの時からそんな考えだったと後から思っても感じられて、実に不思議に思うのだった。
 直子は確かにクラスでは目立たない子だった。石ころのようにそばにいても誰からおm意識されない女の子であったが、ひとたび彼女に見つめられると、金縛りに遭ったかのような衝撃を受けるということを、その頃の竜馬は感じていた。
 その頃、星に興味を持っていた竜馬は、図書館で神話の話を読んだりするちょっと変な男の子だった。
 神話の話の中に出てきたメデューサの話が印象的だった。
 メデューサというのは、髪の毛が無数のヘビになっている女性で、彼女の魔力は、
「彼女に見つめられると石になってしまう」
 というものだった。
 挿絵が乗っていたが、劇画的に書かれたその絵は、メデゥーサの目が恐ろしく、劇画なのに、自分が身動きができなくなってしまうような錯覚に陥るほどリアルなものだった。
――こんなにすごいなんて――
 ビックリするとともに、実際にそんな力を持った目が、同じ人間にも存在するのではないかと咄嗟に感じた。
 その思いがリアルな絵とともに頭の中に残っていて、石にされてしまうということを考えていた。
 その時、石というものが、誰からも意識されないものの代名詞のように感じるということを意識していたのではないかと今は思っている。
 だから、石にされてしまうと、絶対に戻ることができないと思うのだ。なぜなら戻してもらおうと思っても、誰も石になった自分に気付いてくれないのであれば、どうしようもない。
 もし、その石が自分と同じ顔をしていたとしても、きっと誰も気づいてくれない。それだけメデューサの掛けた魔法は強いものなのだ。
 そしてもう一つ、メデューサの魔法のすごいところは、
「この魔力は、首を切り落とされて死んでしまったとしても、その効力は残っている」
 ということだった。
 つまりは、死んでからもなお、この力を永遠に存続することができる。それは彼女にこの魔力を掛けた神の一種の呪いのようなものかも知れないと感じた。
 ただ、こんな恐ろしい発想になるのは、図書館で神話の本を読んでいる間だけで、本を閉じてしまうと、そんな恐ろしいことを考えたということすら忘れてしまって、
「きっと本を読んでいて感じた忘れてしまったことを思い出すことなどないだろう」
 と思うのだった。
 もちろん、直子がいくら不気味だからと言って、メデゥーサと直接結びつく感覚になることなどなかった。
 ただ、直子には不思議な目力のようなものがあり、見つめると、見つめられた相手が彼女を石だと思うという意識は、メデューサの発想から来たものだった。
 もちろん、石というものが、誰からも意識されないという前提があったから感じることであって、そこからいくつかの論法を用いることで行き着いた発想だということに結び付かないことは、やはりまだ自分が子供だったからだと思う竜馬だった。
 ただ、
「末は博士か大臣か」
 などと言われ、神童と謳われた子供であったとしても、
「二十歳過ぎればただの人」
 と言われることも多い。
 小学生の頃の発想に舌を巻いていたとして、中学以降会うことのなかった人と二十歳過ぎて再会したとして、本当にあの時の少年だったと思えるかと言うと信じられない状況に陥るのではないだろうか。
 結局人間は行きつくところの範囲は決まっていて、どんなに遠回りしても、成人してからの行動範囲は狭まってきくだろう。それが世間の環境と言われるもので、
「人って結局、限られた範囲でしか生きられない」
 と誰もが無意識に感じる、
「暗黙の了解」
 のようになっているのではないだろうか。
 それを思うと直子という女の子があれからどうなっているか、想像するのも怖い。あくまでも自分の中だけで成長させていきたい女性であった。
 直子という少女は、そのほとんどがポーカーフェイスだった。いつも似たような服装をしていたような気がするし、もし別の雰囲気の洋服を着たとしても、イメージは変わらなかっただろう。
 それが竜馬を直子という女の子に夢中にさせた一つの理由かも知れない。夢中になったと言っても、心が騒ぐわけではなく、どちらかというと静かな気持ちだった。ただ穏やかだったというわけでもなく、なぜか忘れられない女の子だったのだ。
 そんな直子に対し、ある日から急に冷めた気分になった。それはその日に直子が髪を切ってきたからだ。
 おかっぱなイメージは変わらなかったが、前まで肩近くまであった後ろ髪をバッサリと切り、ショートカットにしてきたのだ。
 それを見た時竜馬は、
「裏切られた」
 という気持ちになった。
 いちいち髪を切るのに竜馬の許可がいるわけでもあるまいし、勝手に髪を切ることくらい誰だって自由だ。それくらいのことは当然分かっているはずなのに、どうしてそんな気持ちになったのか、本当に不思議だった。
 ショートカットが嫌いなわけではない。むしろショートカットの女の子は好きな方なのだと成長するにつれて感じるようになったくらいだ。それなのに、どうしてそんな風に感じたのか、それはきっと直子が自分の想像とイメージが重ならなくなったからなのかも知れない。
 想像というよりも妄想に近いものだ。直子という女の子に対して自分が持っていたものは、あくまでもおしとやかで落ち着いた雰囲気、そして従順で、何も言わなくとも自分の言うことを聞いてくれる、そんな雰囲気を醸し出していることだったのだ。
 それなのに、勝手に髪を切ってきたということ自体にまずは許せない気分になり、さらにおしとやかなイメージは、長い髪にこそ宿っているという勝手な思い込みを壊してくれたことに対しても裏切りを感じたのだ。
「可愛さ余って憎さ百倍」
 という言葉があるが、まさにその通りなのかも知れない。
 しかも、女の子の髪型には一種の勝手なイメージがあった。他の人にも似たような感情があるのだろうが、少なくともショートカットの女の子には、活発なイメージが付きまとう。それまでのおとなしそうな感じが一気に活発に変化する。この一気にというところが気に食わなかったのだ。
「人の気も知らないで」
 と言いたかった。
 しかし、そんな気を知る必要は彼女にあるはずもなく、そんな気を知る義理だってあるわけはない。それを思うと、どんなに自分勝手なのか分かるが、それまでの直子の態度がそこまでの気分にさせるほど従順だったともいえるだろう。
――そうならば、原因は直子にもある?
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次