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意識の封印

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――何だったんだ?
 ヲタクの行動など想像もつかなかったが、初めて見た不思議な行動に戸惑いながらも、どこか新鮮な気がした。
 もしそれを見ていなければ、自分もこのままこの場所から立ち去っていたのだろうと思ったが、その様子を見たことで、メイドカフェに行ってみようなどと思ってしまったのだ。
 よく見ていると、サブカルチャーの店はいくつもあるようで、表の看板やネオンを見ているだけでは、店のコンセプトがどういう店なのか分からないように感じた。しょうがないので、さっきの男が出てきたと思えるビルの近くまで行くと、そのビルにもメイドカフェがあるようだが、あまり綺麗ではない一階踊り場の奥にあるエレベータに乗り込み、その店がある三階のボタンを押した。
 エレベーターは大人が四人乗ればいっぱいになってしまうほどの昔ながらのオンボロで、スピードも遅く、三階と言えどもなかなか到着しないことに苛立ちを覚えるほどだった。
 三階に降り立つと、小さな扉が一つあるだけで、この階には他に何もないようだった。奥に扉があり、その上には「非常口」と書かれているので、扉を開けると、そこは非常階段であることは火を見るよりも明らかだった。
 ということは、三階がそうなのだから、他の階も同じ構造になっているということである、一つの階に一つの事務所。それがこのビルの特徴であろう。
 想像していたようなメイド喫茶の入り口とはまったく違って、表から見ただけでは、
――何の店なんだろう?
 と思わせる。
 中に入ると少しは違うのではないかと思い中に入ったが、そこはパッと見、普通の喫茶店と変わらなかった。
 最初の想像では壁はピンク色に塗られていたり、萌え系のマンガなどが壁に書かれているようなイメージを持っていたが、まったくそんなことはなかった。入ってすぐにカウンターが見え、その奥に四つほどテーブル席がある。テーブル席の奥は窓になっていて、窓にはカーテンが掛けられていて、表からは見えないが、日差しだけは差し込んでいるようだった。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
 このセリフは、想像していた通りで、カウンターとの壁の間で死角になっていたので、見えなかったが、覗き込むように恐る恐る見てみると、そこにはメイド服の女の子が二人、こちらに向かって微笑みかけてくれていた。
 思わずこちらも微笑み返す。違和感はなかった。初めて来たはずなのに、そんな感じがしなかったのは、自分の想像していた雰囲気とさほど変わっているわけではなかったからであろうか。違和感がなかったのは女の子の笑顔に対してであって、店に対しては臆してしまっている自分を感じていた。
 とりあえずカウンターに腰かけた。
 店には他に客はおらず、その方が本当はよかったのだが、どんな客がいるのか見てみたい気もした。
 だが、自分が粘っていれば、そのうちに他の客も来るだろうと思う。せっかく来たのだから、女の子と話を始めたら、結構時間を忘れて話し込むのではないかと自分でも思っているのだ。
 普段から女性と話すことのない竜馬だったが、雰囲気や立ち場が変われば話もできるだろうと思っている。特にこちらは客であり相手はスタッフなのだ。接客を対象にしているお店ということなので、話題がなくとも相手から話をしてくれると思っている。その分初めて一人で入ったとしても気は楽だと最初から思っていたのだ。
「僕、初めてなんですけど」
 というと、女の子二人は顔を見合わせて、意味ありげに微笑んだ。
「そうなんですね。ここに来ようと思ったのは、どういうきっかけなんですか?」
 と、一人の女の子が聞いてくれた。
「元々興味はあったんだけど、なかなか来る機会がなくて、今日は近くに来たので寄ってみようと思った次第ですね」
 というと、
「ネットか何かでご覧になった?」
「ええ、最初はそうかな? でも、以前にドラマなんかでメイドカフェが出てくるのを見て、その時に気にはなっていましたね」
「それって、結構萌え萌え系ではなかったですか?」
 と聞かれ、
「ええ、そうなんですよ。ああいうのがメイド喫茶なんだって思っていたので、このような落ち着いた店だったので、安心した感じですね」
「皆さん、最初はそう思われるようですね。実際に来られて、今お客さんが言われたように安心される方の方が多いようですよ」
「でも、最初から一人で来る人っていますか?」
「結構いるんじゃないかな?」
 と言って、もう一人の女の子に話しかけた。
 もう一人の女の子は頷いて、
「そうですね。一人で最初に来られた方って結構いらっしゃると思います。案外そういう人がその後常連さんになってくれる人が多いと思うんですよ」
「それはどうしてなのかな?」
「半分は照れ臭いなんじゃないですか? 最初に皆で来て、その後単独で来た時、もし前に一緒に来た人とここで鉢合わせなんかしたら、気まずいと思う人もいるんじゃないかって思うんですよ。最初に団体で来る人というのは、興味本位の強い、一種の経験で来てみようと思う人が多いでしょうから、一人の客となると、皆で来た時とは違った雰囲気ですからね。そういう意味では会いたくはない人と会ったと思うんでしょうね」
 彼女の意見は結構冷静な分析に思えた。
 そういう意味で衣装とのアンバランスはあったが、それが新鮮な気がしたのは、他に客が誰もいなかったからなのかも知れない。
 二人の質問を聞いていると、
――これって、最初の客に聞くことになっているようなマニュアルでもあるんじゃないかな?
 と思った。
「ここって、普通の喫茶店とどう違うんですか?」
「サブカルチャーのお店はいろいろな種類があるんですが、システムもバラバラですね。メイド喫茶としては、基本的には時間制で、ワンオーダー性というのが普通です。ただ、その間にチャージ量が発生する店もあるので、それは店のシステムなので最初に確認しておいた方がいいかも知れませんよ」
「ここは?」
「うちは、最初の一時間でチャージ料が発生しますが、次からはワンオーダー制というだけでので、良心的なんじゃないかって思います」
 そう言われて、店を改めて見渡した。
 やはり落ち着いた雰囲気で最初に感じたイメージを損なうことはなかった。
「萌え萌え系ばかりを想像していたんですけどね」
 というと、
「意外とそういうお店は少ないですよ。店によっては、前にステージがあったりして、時間でショーをするところもあったりして、店それぞれですね」
「いわゆるコンセプトの違いという感じですかね?」
「それもありますし、中にはチェーン店なんかもあり、全国展開している店もあるので、そういうところは結構萌え萌え系とは多いかも知れないですね」
「僕は萌え萌え系だけしか想像していなかったので、入ってみて、気に入るか気に入らないかをその時の雰囲気で感じようと思ったんです。だから気に入れば、萌え萌え系であったとしても、きっと何度かは行ったかも知れませんね」
「そうなんですね。あまり人見知りしないんですか?」
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次