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意識の封印

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 とりえに言われたgは、竜馬としては少し違う考えを持っていた。
「確かに成就しなかったことを、その先の想像で生かそうと思っているのも事実だけど、もう一つあるのは、目標に対して出た結果に対して、自分で納得がいくことあのか行かないことなのか、あるいは、それが正しかったのか、ということについて、正直ハッキリ分からない。その時代のことをもう一度自分の中で検証してみようというのも、一つの考えなのかも知れないな」
 というと、
「なるほどですね。私はきっと竜馬さんのいうところの真っ只中にいるということだから、経験からの想像というのは難しいかも知れないわ」
 とりえがいう。
「じゃあ、もっと以前の、中学高校生の頃を思い出してみれば? その頃のことを思い出して、今の僕のように発想すればいいんじゃないかな?」
 というと、
「そうなんでしょうけどね。私にはその経験も乏しいかも知れないわ」
「でも、何かあるでしょう?」
 というと、
「しいて言えば、小学生の頃のことなんだけど、あったような気がするわ」
「そんなことだい?」
「あれは、三年生の頃くらいかしら? その頃私、一時期だけ思春期があったのではないかと思った時期があったんです」
「というのは?」
「あの頃に私のことを気にしている男子がいて、どうもその人の視線を感じながら、怖いと思う自分がいるだけではなく、もっと見てほしいと思う自分がいたんです」
 一瞬、直子のことを思い出したが、りえはどうだったのだろう?」
「その子からは、声を掛けられなかったのかい?」
「ええ、どうもそこまでの度胸はなかったようで、私が意識して彼を見たことで、向こうが委縮したんじゃないかな」
 といっていたが、竜馬は少し違った考えを持っていた。
――そんなことはない。声を掛けてやれば、きっとその男はりえのいいところを引き出してくれたんじゃないだろうか?
 と感じた。
 今りえが言ったように、ひょっとすると彼女は本当にその時だけ、思春期を迎えていたのかも知れない。それは異性の目によって目覚めたもので、本来ではない時期の思春期だっただけに、相手が話しかけてくれなければ、思春期の効力は失われるのではないかと思ったのだ。
 相手の男の子も、急に彼女が大人びてしまったことで声を掛けることを躊躇したに違いない。
 彼がりえを気にしたのは、竜馬が直子を気にしたのと同じような気持ちだったからではないだろうか。もしりえが直子のような感じであれば、きっと声を掛けていたに違いない。それを思うと、りえは決して彼に対して声を掛けてくれなかったことで、いくじなしだとは思っていないだろう。彼女の中で声を掛けられなかったのは、自分に原因があるからだということが分かっているようだった。
 彼女がハッキリとそう言ったわけではないが、見ていれば分かった。
 今のりえのその様子は、高校生の頃に再会した直子の雰囲気のようだった。
――そうか、あの時直子に声を掛けられなかったのは、直子が思春期を過ぎた女性であったのに対し。思春期を通りすぎていたはずの自分が、高校生の直子の後ろに小学生の頃の直子を見てしまったことで、声を掛けることが怖かったんだ――
 と思った。
 高校生になった直子の後ろに、小学生時代の直子を見たわけではないはずだ。高校生の頃の竜馬が見たのは、
「小学生の頃とまったく変わっていない高校生になった直子」
 だったのだ。
 竜馬は小学生の頃のりえを想像していた。
――全然思い浮かばない――
 というのが本音であった。
 竜馬は、大人になった女性の幼かったことだったり、中学高校生時代の姿を想像することが苦手だった。他の人にはできるかも知れないが、自分にはできないことだと思っていたのだ。
 その理由として、直子の存在が大きい。それは高校生になって直子と再会してしまったことが原因だと思っている。つまりは、高校生になってまったく小学生の頃と変わっていない直子を見て、それ以降の自分が過去の直子を思い出す時、小学生時代の直子なのか、高校生になってからの直子なのか、どのどちらを思い出しているのかが分からなかったからだ。
 だが、今では何となくだが分かってきたような気がしている。
――今思い出すのは、きっと小学生時代の直子と、高校時代の直子の両方を思い出すからだ――
 と言えるからだった。
 どちらも一緒に思い出してしまうことで、どちらをも否定してしまっているような感覚に陥ったからで、そもそも、両方を一瞬にして思い出すことなど不可能だという考えが頭の中にあるからだった。
 竜馬がそのことに気付いたのは、りえとかおりを見たからだった。
 二人は一見どこも似ていないような気がしていたが、共通点は結構あるような気がした。その証拠として、二人と一緒にいない時、どちらかを思い浮かべようとした時、かならず他方を思い出してしまうことで、記憶が錯綜してしまうからだった。まるでどちらかがどちらかの影武者であるかのように思うのだ。そして、どちらかが本物で、どちららかが影であることも最初から決まっているように思えた。
 それを竜馬は知っていて、それを認めたくないという意識があるから、自分で考えを否定しようと考えるのだろうか。その考えはあったとしても、それは無意識のことであって、本当の意識というわけではない気がしている。
「ところで、りえちゃんは、かおりちゃんと仲がいいの?」
 と聞くと、
「ええ、結構仲がいいわよ。このお店では、双子って言っている人もいたことがあるって聞いたことがあるのよ」
「そんなに似ているわけではないと思うんだけどね」
 というと、
「ええ、私もそう思うんだけど、その人だけは、ソックリだっていうのよ。おかしいと思っていろいろ聞いていたら、これがビックリでね。実は私の小学校時代の同級生だったというのよ」
 といった。
 それを聞いて竜馬はハッとした。無謀な発想かも知れないが、双子発言をした人は、りえのことを見ていたその少年ではないだろうか。そう思うと、何か話の辻褄が合ってくるような気がしてきたが、それは気のせいであろうか。
 もちろんここからは、竜馬が勝手に彼が小学生時代りえを意識していた少年だと仮定しての話になるのだが、彼が目の前にいるりえが、小学校時代自分が気にしていた相手だということをきっと知らないのだろう。どれだけ小学生時代のりえと変わっているのかは分からないが、その彼にはりえが小学生時代のりえにしか見えていないのだろう。もしそうだとして、
「りえと、かおりが双子のようだ」
 といっているのであれば、それはかおりがりえの小学生時代の面影をそのまま持っているということなのかも知れない。
 それでも、どうしてりえを小学生時代に気にしていた相手だと気付いていないのか?
――いや、気付いてはいるが、あまりにも変わっていないというイメージに、自分から自分の目を否定してしまったのかも知れない――
 とも感じた。
 りえは、どんな服を着ても雰囲気が変わることがない。それはひょっとすると、子供の頃から、その雰囲気が変わっていないということの裏付けのようなものではないかと思えた。
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次