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意識の封印

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 後者の方が強いのではないかと思うくらいだが、この思いは、次第に無意識なジレンマとして蓄積されていった。
 だが、この思いがあるからこそ、執筆が惰性にならない証拠でもあった。もし、その日の目標が簡単に達成できるのであれば、きっと惰性のようになっていたかも知れないとも思う。
 惰性が悪いというわけではなく、せっかく会社の時間との差別化に成功し、自分の時間を大切にできると思っていることを惰性にはしたくないという思いの強さから感じたことだった。
 最初の頃は、チェーン店のようなカフェを利用していたが、その理由としては、
「電源を借りることができる」
 ということだ。
 場所によっては、同じチェーン店であっても、電源使用不可のところもあるが、基本的にはスマホを充電しながら使用できるようになtっていりところも多い。本当は電源から供給される電気は固定資産なので、無断使用は窃盗になる。しかし、最初から、
「電源使用可」
 という店が多くなったのも事実で、それらの席でパソコンを使用することに何の問題もないのだった。
 しかも表を歩いている人や、店内の人の流れや会話などが聞こえてきて、それを題材にすることもあり、観察するにはちょうどよかった。ただ自分の世界に入り込むと、それら一切を遮断してしまうことで、せっかくの当初の目的を失ってしまうことにもなったが、それも致し方のないことだと思えた。題材などはこの店で一時間ほどいただけで、そう簡単に転がっているわけでもないので、それよりも、最初から自分が題材を求めているという気持ちの時の方が、歩いている時や通勤中などでも感じることは大いにあったであろう。
 いろいろな店を回ってきた。
 その中で馴染みになる店もあり、時間帯を考えて来店すれば、一人ゆっくり執筆を楽しめる時間があることに気が付いていた。
 店の体質にもよるのだが、最初からモーニングをやっておらず、開店が九時から十時くらいのところであれば、昼のランチタイムの前の時間は、ほぼ客はいない。粘っていてもランチタイムで混んでくるまではゆっくりとしてることができる。スタッフの人と話をすることも可能で、もちろん、ランチタイムの用意に支障をきたさない程度であれば、話をすることもできる。世間話でもいいし、執筆についての話でもいい。それがまた次の作品のヒントに繋がることもあり、やはり馴染みの店を持っているということは、執筆においての財産だと思えるようになっていた。
 常連さんとの話も次作のネタにはありがたい。小説を書いていると、ついつい人の会話に聞き耳をたててしまい、集中できない時もあったが、最初の頃は苛立ちを覚えてもいたが、途中からは気にならなくなった。
 BGMも最初は気になっていたが、途中から気にならないようになり、却ってリズムに乗れるようで、その頃になると、自分が完全に店に馴染んでいることに気付いた。
「ここは僕にとって、隠れ家のようなところだから」
 とよく言ったが、まさにその通りである。
 だが、時代の流れには逆らえないというべきなのか、近くの商店街が次第に衰退していった。郊外にたくさんできた大型アミューズメントというべきショッピングセンターの出現で、車利用の人は、どんどんそっちに流れて行った。駅に近いという利便性で、地域住民のための商店街が、その役目を終えようとしている瞬間であった。
 そのあおりは周辺の店にも影を落とす。馴染みの喫茶店も常連客が減っていき、マスターも閉店を真剣に考えるようになった。
 客の減り方はシビアであった。さすがに店の継続を断念したマスターはそれから数か月で店じまいをしてしまい、また竜馬は新たな「隠れ家」を探さなければいけなくなった。
 竜馬が目をつけたのは、その頃また流行り出した、
「コンセプトカフェ」
 だった。
 ヲタクが多く、テレビドラマなどで見るメイド喫茶に対しては、何となく違和感を抱いていたが、興味本位で覗いてみるくらうはいいかと思い、数軒点在するメイド喫茶のうちに一軒に行ってみることにした。
 そのエリアは、都心部から少し離れてはいたが、昔から、
「サブカルチャーの街」
 として、知る人ぞ知るエリアとなっていた。
 元々サブカルチャーという言葉がどういうものか知っていたわけではなく、ただの興味本位だけだったのだが、行ってみると、結構馴染めそうだったので、少し通ってみることにした。
 ドラマなどで見た
「萌え萌え系」
 というわけではなく、店内にはコスプレメイドがいて、それ以外は普通のカフェという雰囲気だった。
 壁も普通で、しいて言えば、椅子が少しピンク色っぽいくらいであった。
 その店の売りは食事で、唐揚げやカレーライスなどは、結構人気があるということで、最初に唐揚げを食べてみたが、しばらく病みつきになったほどだった。
 味は少し濃かったが、それが癖になり、病みつきになる人も多いという。
 ただ客層はさすがにヲタクと思える人が多く、近くにある同人誌の店で買ってきたマンガなどを見ながら店内で過ごしている人も多かったりする。
 店にはスケッチブックが置いていて、雑記帳のようになっているが、皆絵を描いたりしていて、それが結構上手なのには驚かされた。
――なるほど、これがサブカルチャーというものか――
 と感心させられた。
 最初のこの店だけではなく、別の日には他のメイド喫茶にも寄ってみたが、やはり最初の店が一番印象に残ったのか、常連となるべき隠れ家を見つけた気がした。
 その店のメイドスタッフは、皆気さくで、小説執筆の合間でも声を掛けてくれた。メイド喫茶は女の子が声を掛けてくれて会話をするところだということはその頃にはすでに知っていたが、女の子もタイミングを見計らって話をしてくれて、その気の遣い方が微妙なので、それが嬉しかった。
 他のメイド喫茶でも同じだったが、平日は定番のメイド服があるようだが、土日祝日というのは、その日のイベントでテーマに沿ったコスプレをするようだ。そういう意味で、コスプレに興味を持っていた竜馬にはありがたいと思えた。
 竜馬の休日は不定期で、土日の時もあれば、平日の時もある。土曜日出勤が多いので、その分、平日のどこかで一日休みがあると言った方がいいだろう。
 何人か気になる女の子はいたが、一番気になったのは、りえちゃんであった。りえは大人しい雰囲気であどけなさが引き立つ女の子だった。最初に会ったのは平日で、定番のメイド服であったが、次に会ったのが日曜日で、その日はイベントとして「制服デー」が営まれていた。
 平日よりも比較的土日の方が訪問回数が多いので、いつも違った衣装を拝めるのも嬉しかった。メイド喫茶と言いながら、自分の中ではコスプレ喫茶の様相を呈していると思っている。
「りえちゃんからは癒しがもらえる」
 と思っていた。
 スリムでしかも小柄なので、抱きしめたりしたら、そのまま身体の骨が折れてしまうのではないかと思うほどの女の子で、イメージとしてはいつも無表情だった。
――無表情?
 無表情といって思い出すのは直子だった。
 今では直子の雰囲気だけしか覚えていない。顔が思い浮かばなくなっていた。これは、
「物忘れが激しい」
 あるいは、
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次