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意識の封印

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 かといって、このまま連絡債も知らないと、この場で別れれば、もう知り合う機会はないだろうと思った。もし数日後に出会って声を掛けたとしても、そこからその時の話題をネタにしてしまうと、それこそ新設の押し売りになってしまうだろう。
 そんなことは分かっていたはずなのに、思い切って、
「これが僕の連絡先です」
 と言って。メールのアドレスを教えた。
 交換と言わなかっただけでも、よかったのだろう。
 これが言えたのも、やはり高校時代直子に話しかけることのできなかった自分への戒めがあったからなのかも知れない。
 ただ、彼女から連絡がもらえたのは、自分が思っていたよりも早く、三日後だった。
 最初は、
――なかなか連絡がないな――
 と思っていたが、三日目で連絡をくれたということはきっと迷った末でのことなので、一応は考えてくれたんだと思うと、却って安心だった。
 そう思うと三日というのは、想像していたよりも早いということでもあり、三日間があっという間だったという理屈を証明してくれているかのようだった。
 彼女も今まで彼氏がいたことがなく、声を掛けてくれた竜馬に興味を持ったというのだ。一緒にどこかに遊びにいく約束を積極的にしていたのも彼女の方であり、竜馬はその勢いに、少しビックリしたくらいだった。
 彼女が押してくれていることで、こっちが今度は押したいと思うようになった。お互いに気持ちをぶつけ合っていると思っていたが、後から考えれば気持ちをぶつけていたのは竜馬の方だったようだ。
 相手が少しくらい押してくれたからと言って、いい気になってしまったようだ。実際には彼女の方は様子見だったようだ。彼女には恋愛経験の豊富な友達がいて、彼女がいろいろ指示をだしていたという。ずっとそんなことを知らないまま竜馬は、自分だけでいい気になっていたようだ。
 遊びに行く計画を彼女は立てていたが、そのほとんどはまるで中学生のデートのような感じで、遊園地だったり、映画だったりと、大学生にしては少し健全すぎるところばかりであった。
 竜馬とすれば、それでもよかった。自分が中学高校時代にしてみたかったことを今になってできるというのも新鮮な気がしたからだった。
 だが、逆な思いもひそかに持っていた。
――中学時代にできていればなあ――
 という思いである。
 この思いは決して相手に悟られてはいけないものだった。
 この思いを抱くことは相手に対して失礼なことであり、いくら相手が架空であるとはいえ、中学時代のデートを思い浮かべてしまっていては、相手に、
「この人、何上の空なのかしら?」
 と思わせ、さらにその顔が恍惚の状態になっていれば、どれほど相手を気持ち悪くさせてしまうか、竜馬にそんなことが分かるはずもない。
 きっと何度目かのデートで相手はしらけてしまっていたことだろう。逐一友達に相談していたというその友達からも、
「何、その人。自分のことしか考えていないって感じね」
 と彼女が思っていることと同じことを言われていたに違いない。
 実は、彼女としては、友達が自分の感じていることとまったく同じことさえ言わなければ、こんなに簡単に別れてしまうという思いにまでは至らなかっただろう。
「もう少し様子を見てみようかしら?」
 と思ったかも知れない。
 だが、友達がまったく想像していたそのままのことを言ったので、彼女も決心がついた。
「さて、どのように別れよう」
 ということを考えた時、彼女たちは、そこで間違ってしまった。
「無視しましょう。彼から連絡があっても、返さない」
 という友達の意見で結論がついたが、竜馬という男は、自分で納得できないことであれば、少々のことは突っ走るというややこしい男性であることを知らなかった。
 要するに、舐めていたのである。
 昔と違い、ストーカー規制法があるので、変な行動は警察に言われてしまうが、少々そばから見ている分には警察も手が出せない。竜馬は彼女の大学で待ち伏せをしていたが、決して自分から彼女に話しかけることはしなかった。竜馬がストーカー規制法を知っていて、その対策を施したというわけではなく、自分から話しかけるだけの勇気がなかったのだ。
 それは直子の時と同じで、待ち伏せしながらもそれを感じていたので、迂闊に話しかけられなかっただけだった。
「警察は、何か起こらないと動いてくれない」
 というのが分かっているので、警察はこれくらいでは動いてくれない。
 二人は困惑してしまったが、もうこの場を何とかやり過ごすしかない。竜馬が諦めるまで待つしかないと考えるより他になかった。
 竜馬は、ある日を境に彼女への接近を完全に断ってしまった。何が原因だったのか、竜馬本人にもよく分からなかったが、彼女の待ち伏せは完全にやめてしまった。
 その感情がどこからきたものなのか分からない。ストーカーをしていたという意識はなかったのだが、彼女の表情を見て、最初の頃のような自分を慕ってくれている表情がなくなったからだ。
――そういえば、この感覚、いつか味わった気がする――
 その記憶が結構遠いと思ったのだが、遠いと思うと、まるで昨日のことのように思えるほどだった。
 この感覚が直子に対してのものだったことにすぐに気付いたのだが、そんなに昔だったという意識はすでになくなっていた。
 彼女を見ることで、小学生の頃の自分が直子に対して抱いた感覚が分かってきたような気がする。
 小学生時代の直子に対して覚えているのは、彼女が自分に対して従順で、いつも救いを求めるような表情をしていたということだった。慕ってくれているという表現がピッタリであろう。
 いつも無表情だったことで、彼女の雰囲気が変わったわけではないはずなのに、あまりにも無表情が続くと、相手に対して猜疑的になってしまうのではないかと思うのだった。ただ、その思いが長くは続かない。長く続いた方が、却ってハッキリと分かったのではないかと思うほどで、無表情がこれほど怖いものだということに、その時は分からなかった。それを教えてくれたのが、大学に入って仲良くなったその子で、ひょっとすると自分と離れるようになってしまったのは、自分が彼女の後ろに直子を見ていたのかも知れない。
 そう思うと、自分も彼女に対して冷めてくるのを感じた。
――やっぱり、僕は直子じゃないとダメだということなのか?
 そう思うと、直子からの呪縛を逃れることはできないのではないかと思った。
「竜馬にとっての直子がどういう存在だったのか、それを思い起こすことができただけでも、彼女と知り合ったのは無駄ではなかった」
 というのは、言い訳ではないが、その思いをずっと抱いていくことになった。
 大学時代では、一年生のその時と、就活の時に知り合った女の子とも付き合ったことがあったが、結局mすぐに別れてしまった。きっと竜馬のあざとさに閉口したのかも知れない。
 その彼女からは、何も学ぶことはなかったので、ほぼ記憶から消えてしまって今では思い出すこともなくなっていた。
 気が付けば、三十代後半になって、まだ結婚はおろか、彼女もいない状態になっていた。コスプレ喫茶に嵌ってしまうなど、学生時代の竜馬から、果たして想像などできたであろうか。
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次