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点と点を結ぶ線

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「五本の大きな塔が立っているところがあって、俺はそこに記念にサインをしてきたんだ」
 と自慢げにいうと、お釈迦様は自嘲したかのように笑いを堪えようとすると、
「何がおかしいんだ」
 という孫悟空を制して、
「お前がサインをしたというのは、これのことか?」
 と言って、自分の指を孫悟空の前に差し出した。
 すると、何とそこには彼のサインがしてあったではないか。
 さすがに孫悟空も自分のやったことがどういうことだったのかということに気付き、浅はかさに打ちのめされたようだった。
「上には上がいる」
 ということと、
「万能なお釈迦様がいうのだから、逆らうことはできない」
 という思い、他にもいろいろ頭を巡っただろうが、最終的には素直になるしかないと悟ったに違いない。
 この話をもちろん里穂も川上も知っていた。佐川が知っているのはもちろんのことだが、知ってはいるが、何かに引っかかった時、思い出せるかどうかというのもその人のステータスではないだろうか。
 里穂は、別にそんな宗教的な話を自分の作品に組み込もうとは思わなかったし、組み込むことは自分の実力では無理だろうとも思っていた。
 ただ、一つの教えとして頭の中で整理すると、これから作る作品にもその発想が植え付けられて、きっと無意識にまわりを気遣うような作品が書けるに違いないだろう。
 実際に、今回書いた脚本は、川上からもしっかり評価され、演者の人たちからも、
「これならやりやすいわ」
 と、評判もよかったようだ。
 実際に完成した作品を川上に持っていくと、
「ありがとう。こういうのがほしかったんだ」
 と言って、手放しに喜んでいた。
 里穂としてもここまで絶賛されると喜ばないはずもない。
「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです。途中、自信を無くしかけたこともありましたけど、やり切れてよかったです」
 というと、
「どうしてどうして、自信を無くすことなんかないんだよ。君のいいところは、自信を持ってことに当たるわけではなく、やっていくうちに自信をどんどん深めていくことができることだって思っているんだ。それが元からあった素直な性格の表れであり、僕はそんな君だからこの脚本を頼んだんだ」
 と言ってくれた。
「そうだったんですか。最初に打ち合わせをしていた時、このままなら全否定されかねないとまで思ってしまったこともあったんですが、でもそう思い込む前に川上さんがいろいろ助言してくれたことで助かったと思っていました」
 というと、
「僕も実は君が少し自信を失いかけているように思ったんだけど、その時に、失いかけていた自信というのが、本当は失ってしまった方がいい自信だったんじゃないかとも思ったんだよ。だから君は必ず、自信を自分で掴んでくれると思った。実際にそう思って正解だったよ」
 この言葉を聞いて、
――これって、褒め言葉なんだろうか?
 と感じた。
 褒められるということにあまり慣れていなかったが、褒められるとすぐに有頂天になるという性格は分かっていた。
 それを悪い性格だとはどうしても思えず、今回も素直に有頂天になったのだが、それを肯定的に見てくれている川上を見て、
――やっぱり、私って川上さんが言うように、素直なのかしら?
 と思うようになっていた。
 昔から、
「素直が一番」
 とは思っていたが、素直すぎると、それを利用する人もいるのではないかと思うこともあって、素直というのが、本当にいいことなのかどうか、ずっと疑問だった。
 だが、川上に面と向かって言われると、くすぐったい気持ちもあるが、喜ばしいと思えた。
――そう思うこと自体が素直だってことなんだろうけどね――
 と感じた里穂は、ゆっくりと深呼吸をした。
 それを見た川上も深呼吸をしたが、お互いに偶然同じタイミングでの深呼吸だったのだろう。ニッコリと笑っているのだった。
 実際に撮影が進んでいくと、里穂は自分の作品がどのように描かれていくのか、その過程が見たくて、お願いして撮影現場に同行することが結構あった。もちろん、撮影には文句をつけるつもりもないし、見ているだけで満足できると思っているので、気楽な気持ちで立ち会わせてもらった。
 それよりも、
――私がその脚本を書いたんだ――
 という気持ちが強く、少し上から目線になっていることも分かっているので、なるべく自分の気配を消していこうとも思っていた。
 ほとんどの俳優さんは、里穂のことを気にすることはなかったが、中には気になってしまう人もいるようで、里穂を意識しているという態度を、里穂も分かっていた。
 本当なら、そんな人がいるのなら、見学などしない方がいいのだろうが、一度、
「見学させてください」
 と言った手前、それを急転直下でやめてしまうと、今度は他の人に余計な気を遣わせてしまう気がした。
 せっかく言い出して見せてもらえることになったのだから、このまま見ることにしたのだが、それも正解だったと思うようになった。
 作品は、里穂が思っていたような展開で進んでいった。そのほとんどに文句などあるわけもなかったが、それもやはり監督としての川上の力だろうと思うと、佐川にだけ向けていた尊敬の念を、川上にも向けてしまおうと思っている自分がいることに気が付いた。
「尊敬と愛情は違う」
 と言われるがまさにその通り、確かに佐川への愛情は、今ひしひしと感じている。
 佐川が自分のことを好きでいてくれていることも分かっている。ただ、そのきっかけは、尊敬の念からだったというのは否定できない事実だと里穂は思っていた。
――否定できないのではなく、否定してはいけない――
 とも思うようになった。
 子供の頃から、自分は惚れっぽいと思っていた。小学生の頃などは、すぐに男子に目が行って、一番は誰かと思うようになり、まだ思春期前で恋愛感情の何たるかなど分かるはずもない一人の少女が描く淡い恋心は、今から思えば、計算によるものが大きかったように思う。
 好きな男の子への基準を自分なりに決めていて、それに似合うだけの計算を頭の中で組み立てていた。好みのタイプがその中に含まれていたのだろうが、計算から弾き出された結果は、
――あれ? こんな男の子が一位?
 というものもあったりした。
 疑問に感じながらも計算で導かれた自分にとっての一番の男の子に対して、里穂はすぐに近づいていった。
 男の子の方も、まだ思春期ではないので、女の子から近づかれると、嬉しく思う子もいれば、他の男の子の手前、逆に近づいてくる女の子に冷遇な態度を取ってしまうこともあっただろう。
 それを男の子の方で、悪いと思っていないことが多く、女の子としても、どうしてそんなに邪険にされなければいけないのかと、
――悪いのは自分なんだ――
 と思うようになり、男の子のそばに寄ること自体、トラウマになってしまうこともあっただろう。
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次