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点と点を結ぶ線

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 里穂の考えでいけば、デジャブいドッペルゲンガーは関係ないのではないかとも思えたが、これも考えてみると、少し違う気がした。
 ドッペルゲンガーというのは、昔から言われているもので、その発想には諸説ある。そのどれもがもっともらしい話で、里穂が聞いた時も、話のほとんどに信憑性が同じくらいにあるので、どれが本当なのか分からなかった。
 そもそも、その中に真実があるという保証もない。下手をすると、
――一つの定説が他で理屈を形成し、一つの流れを作っていたにも関わらず、そこに諸説が生まれたことで、それぞれの発想が独立し、諸説が結び付かなくなってしまったのではないだろうか――
 というものであった、
 つまり、起承転結に最初と最後だけ決まっていて、そんな途中をいくつかのストーリーが生まれたとして、それを起は起で、転は転で単独でそれぞれの説に分解した形で言い伝えられ、点と点がキチンとした線になっていないことで、理屈を厄介にしているのではないかという考えである。
 この考えは突飛すぎるかも知れないが、冷静に考えると、理路整然としているような気がする。里穂はその考えの元で考えられるようになった自分を見て、
――佐川のおかげかも知れないわ――
 と思うようになった。
 そして、先ほどの高田の話も、話を聞いているうちに、
――彼が次に何を言い出すか、分かった気がするくらいだわ――
 と思った。
 しかし、それはすべて後になってから思ったもので、話を聞く最初や、聞いている途中で感じたものではなかった。もし、最初から分かっていたり、途中で分かったりしていれば、デジャブを引き起こし、佐川の話を思い出すまでの展開はなかったと思うからだ。
「高田さんの話を聞いていると、佐川さんと話をしたのを思い出したわ」
 どうしたことだろう? 里穂は言わなくてもいいことを口にしてしまった。
 むしろ、話してはいけない部類の問題だった。
「佐川君も、僕と似たところがあるからね。考え方もそうなんだけど、彼と話をしていると、まるで自分と彼が入れ替わったんじゃないかって思うこともあるくらいんなんだ」
 と高田は言った。
「高田さんは、佐川さんと話をすることなんかあったの?」
「ああ、そんなに頻繁ではないんだけどね」
 里穂は、高田と佐川が自分の前で、
――同じ次元――
 で話をしているという発想がまったく思い浮かばなかった。
 話というだけではない、存在自体が同じ次元ではありえないという思いに至っていたのだ。
「私には、何だか不思議な感覚だわ」
 というと、
「実は僕も、君と佐川が一緒にいるという感覚が実はないんだ。まるで別の次元で存在しているんじゃないかって思うような気がするくらいにね」
 と高田は言った。
「それは、ドッペルゲンガーや、カプグラ症候群という発想とは違って、ある意味ではもっと怖い話になっていきそうな気がするくらいだわ」
 と里穂がいうと、
「きっとそうだと思うよ。人は今の僕たちのような発想を常に持っていて。それを口にしようとはしない。それはきっと、頭の中で、『そんなバカな』という発想を持っているからなのか、決して触れてはいけないタブーのような話ということを頭がデフォルトで理解しているからなのかのどちらかではないかと思うんだ」
 高田の発想は、また里穂の想像を超えたものだった。
 だが、里穂は敢えて反対意見を言った。
「それだけなのかしら? もっと他に発想があるような気がするんだけど、それは私の思い過ごしなのかしら?」
 というと、少し高田は考え込んでいたようだったが、
「まさか、里穂さんの方から反対意見が出るとは思わなかった。話をしていて、もし反対意見をいうのであれば、それは僕の方だって思ったからね」
 と言った高田に対して里穂は少し不満であった。
 里穂とすれば、
――反対意見をいうとすれば、それは自分が相手よりも優れているという思いを、意識的であっても無意識にであっても、持っているからなんじゃないかしら――
 と感じていたからだ。
 高田が言ったこの言葉は、あたかも、
「僕の方が君よりも優れた考えを持っている」
 と言わんばかりだったからだ。
――今までの高田さんとは違っているようだわ――
 こんなに自分に自信を持っている人だったとは、思ってもみなかった。
 佐川に対しては、謙遜している雰囲気をいつも抱いていた。しかし、その謙遜は里穂にとって、心地よいものだった。
――そこまでへりくだらなくてもいいのに――
 と思ったことも何度かあったが、それは実は一瞬のことだったということを、里穂は理解していなかった。
 佐川に感じた謙遜の雰囲気はまるで夢のようであった。佐川が人に対して謙遜するなどということは誰に対してもありえなかった。絶えず人の先にいて、自分より前をあるいている人を見たことなどなかったに違いない。それだけに、前に誰もいないということが不安でもあったのだろう。それを人に知られることも怖く、自分が絶えず前にいなければいけないと思っていた。その思いを今まで誰にも悟られることはなかったはずなのに、高田と話をしているうちに、里穂は気付いてしまったのだ。
――高田さんが気付かせてくれた?
 と思うと、そんな佐川のことを、高田は分かっていたのではないかとも思えてきた。
 二人は決して似ていると言える性格ではなかった。それだけに似た人という感覚はなく、逆に他の次元では、同じ人間だったのではないかという妄想すら与えられた。
 高田との話の中で得た感覚は、決して知識ではない。あくまでも妄想なので、妄想が定説のわけはないのだ。学者が厳密に分析すれば、かなり粗のある説だったのではないかと思えるほどで、里穂には理解できたとしても、万人や専門家に受け入れられるものではないと思える。
 高田と話をしていて、そろそろ話の最後に差し掛かってきたような気がした。時間的なものというわけではなく、漠然とした感覚というだけのことではないような気もした。そこで、高田は一つの面白い発想をした。
「カプグラ症候群の話なんだけど、これが病気のように伝染するものにすればどうだろう?」
 という意見だった。
「えっ?」
 と里穂がいうと、
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次