点と点を結ぶ線
「ここまでは、考えられる説を、僕なりに話してみたんだけど、よく考えてみると、ここでの話は、『脚本を書いて、それを映像作品にする』ということでしょう? いろいろな説は一通りの発想でできたと思うんだけど、それを実際に映像作品のヒントにすることを考えると、僕は伝染病という発想が生まれたんだ。カプグラ症候群も、ドッペルゲンガーも、それぞれ超常現象であったり、精神疾患であったりするものから生まれた発想であるわけでしょう? だったら、これらを病気として捉えればどうなるかって思ってね。でもうまくやらないと、結構危険な作品になってしまう気がするんだ。そこで僕が提案するのは、君の身近な人間をよく見ることで、その人それぞれの性格から、ドッペルゲンガーやカプグラ症候群を考えてみる。そうすれば、何か今まで見えてこなかったものであったり、見えていたかも知れないけど、今なら見えるものがあるかも知れない。それをハッキリさせることで、新たな作品の礎になればいいのではないかと僕は感じたんだけど、どうだろうか?」
高田の話は、今の里穂の気持ちを代弁しているかのようなものだった。
「ええ、確かにそうね。私も気づいていなかったことを、あなたとの話で気付かされた気がするわ。いや、本当は気付いていたかも知れないこと、あるいは気付いていたはずのことかも知れないけど、自分の中でタブーとして封印してきたことが、今は日の目を見たのではないかと思えるわ」
と里穂がいうと、
「それは佐川君に関することなんだろうね。僕も以前、彼とこのような話をしたことがあったんだけど、彼とも気持ちが通じ合えた気がしたんだ。そしてその時彼を見ていると、彼は僕と話をしながら、僕の後ろに誰か違う人を意識していたのを感じたんだよ。それが君だったのだということを、今日、こうやって君と話をしていて、やっと分かった気がするんだ」
と高田は言った。
「佐川さんが?」
「ああ、そうだよ」
そこに恋愛感情が含まれているのかどうか、定かではなかったが、
――含まれていれば嬉しいな――
という程度で聞いていた。
佐川に対しての感情は、それ以上でもそれ以下でもなかったが、高田との話の中で、それ以外に別の感情が生まれてきたことに気付いた。
それは佐川に対して恋愛感情を持っていれば感じることはなかったもののように思えてならないが、その同じ感覚は高田にも感じていた。
しかも、この二人に感じた感覚はまったく正反対のもので、一口に言えば、佐川に対して感じたものが、「M」であり、高田に感じたものが、「S」だったのだ。
ただ、今日高田と話をする前に感じていた思いは、その正反対であった。高田が「M」で、佐川が「S」だったのだ。
この感覚は、
――里穂の見る目が変わったから――
というわけではなかった。
どちらかというと、見る目が変わったわけではなく、
――今まで見えていなかったものだと思っていたことが白日の下に晒された結果ではないか――
というものであった。
そしてもう一つのヒントになったのは、最後に高田が語った、
「伝染病」
という発想が、里穂にその思いを抱かせた。
この会話が最後になったと思ったのは、本当にその時だったのだろうか?
里穂は高田のこの言葉を何とか意識の最後に聞いた気がしたが、糸を引くように、いや、伝染病と言う言葉がこだまするかのように、耳の奥に残っていた。
――そういえば、真っ暗いのっぺらぼう、あれは佐川だったのか? それとも、高田だったのだろうか?
この思いは何かの伝染というものなのであろうか……。
( 完 )
94
い