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点と点を結ぶ線

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 確かに高田のように心理学を勉強した人の口からドッペルゲンガーという言葉が出てくるのはさほど無理もないことなのかも知れない。しかし、それがこの間彼とも因果関係にある佐川との話の中で出てきたことだと思うと、何か気持ちを見透かされているのか、自分のすべてを見られているのかという思いからも、ゾッとしたものがあるのだった。
 里穂は、落ち着いて答えた。
「知っているわ」
 落ち着いていたつもりでも、声が上ずってしまっているのを感じ、それを相手に悟られていることも分かっていた。
「ドッペルゲンガーというのは、一言でいえば、『もう一人の自分を見る』ということだよね。それに対してはいろいろな説があるようだけど、実は僕も見たことがあるんだ」
 この言葉は衝撃的だった。
「それはいつのことなの?」
 里穂がそれを最初に聞いたのは、
「ドッペルゲンガーというのは、見ると少しして死ぬ」
 と言われているからだった。
 彼がそれを見たのがかなりの昔だったら、それはドッペルゲンガーではなく、ただの「ソックリさん」というだけのことなのかも知れない。
「世の中には似た人が三人はいる」
 と言われている。
 似ている人に出会う可能性はゼロではないことから、ドッペルゲンガーよりも信憑性が高いに違いない。
 高田は落ち着いて答えた。
「かなり前だったと思う。きっと子供の頃だったと思う」
 と、彼の記憶はかなり曖昧だった。
「どうしてそんなに曖昧なの?」
 と聞くと、
「じゃあ、君は昨日のことをかなり昔のように思えたり、かなり昔のことを昨日のことのように感じることってなかったかい?」
 と逆に質問だれた。
「なかったわけではないけど、そもそもそう感じる時というのは、その両方を意識していて、何かの対象があるからそう思うんじゃないかって思うの」
 自分で言っていて、頭が整理できていないことに気付いた。
――高田君は、私の話を理解してくれたかしら?
 と少し不安であったが、
「僕には比較対象のようなものはなかった。でも、それ以上に曖昧な感じがしたので、それは夢だったんじゃないかとも思ったんだ」
「夢の中でドッペルゲンガーを見たというの?」
「うん、夢で見たということにして自分を納得させようと思ったんじゃないかって感じるんだ。だから、もしそれが本当に夢ではなかったとすれば、そんな発想をするとすれば子供の頃だったんじゃないかなって感じたんだ」
「子供のくせにそんな難しい発想ができるものなの?」
「子供だからってバカにしちゃいけない。子供の方が逆に考えがブレていないので、余計に素直に見ることができる。逆に言えば。歪んで見えるものを本当に歪んで見えると素直に理解できるんだよ」
「それは蜃気楼なんかのこと?」
「ああ、大人になると、変に自分に自信があるから、超常現象を何とか理屈で解決しようと試みる。だからいろいろな研究がなされるのだし、それによって得られる結論というのは、本当に貴重なものだって思う。でも、子供にはそんな理屈を考えるよりも、目の前に見えたものをそのまま信じるという素直な心があるんだ。だから鏡にしても、同じことで、特に鏡の場合は疑いようのない事実だとして大人になっても揺らぐことのない発想として確定される。だから、本当のことを写し出していない鏡の存在を、ありえないと思うんじゃないかな? 蜃気楼だってそうだ。あれは、見ること自体がまったくのレアなケースなので、余計にそう思うんじゃないかな?」
 というのが、高田の理論だった。
 ドッペル減少を見ると死ぬとよく言われているよね? 僕はそれを本当のことだと仮説して考えてみたんだ。そして、そこからカプグラ症候群を絡めて考えてみた」
「というと?」
「怒ぽえるゲンガー自体を妄想の世界のものだとすれば、見た人はその時点で死ぬことが確定しているということになる。でも、カプグラ症候群で入れ替わっていると言われる人は、その時点で死んでいるということになり、入れ替わる人がいないということになるんだ。ただ、この場合はカプグラ症候群の入れ替わる相手は、その人本人ではなく、そっくりな別の存在だと考えると、カプグラ症候群とドッペルゲンガーの発想はうまく説明ができるんだ。だから、ドッペルゲンガーの正体は、似た人ではなく、本当にもう一人の自分だということになるでしょう?」
「ええ」
 里穂は、高田が何を言いたいのかまだ分からなかった。
「つまりね。カプグラ症候群というのは、最近になって発見された学説だと言われていうよね? でもドッペルゲンガーは古代の昔から、その話は存在する。そして、現代に至るまで結構なことが分かってきていると言われているでしょう? それも、今の僕の説のようにカプグラ症候群というものを、途中で絡めると、うまく説明のつくものもある。ということは、最近になって発見されたかのようになっているカプグラ症候群は、本当は結構昔から言われていたことではないかって思うんだ」
「あっ」
 と、思わず声を発してしまった里穂だったが、この説には一理を感じた。
 いや、かなりの信憑性すら感じられる。それを思うと、
――この人の頭の構造ってどうなっているのかしら?
 と、里穂は考えた。
「こうやって考えると、思ってもいなかったことを思いつくことがある。実際には物事を線として考えなければいけないのが普通のように言われているけれど、点を絞って、そこに仮説を組み立てていくというのも一つの論法なんじゃないかって思うんだ。今回の都市伝説のように思われている『ドッペルゲンガーは見たら死ぬ』ということを逆転の発想で思い起こすと、別の考えが生まれてきて、そこで点と点が線で結ばれるんじゃないかって思うんだよ」
「高田さんは、その考えをいつの頃くらいから思っていたんですか?」
「だいぶ前からなんだけどね」
 里穂が高田にこの質問をしたのは、
――あれ? この話、どこかで聞いたことがあったような――
 と感じたからだった。
 それがいつ、どこで、誰からだったのか、まったく思い出せなかったが、間違いなく聞いたということだけは意識できた。
 一番曖昧なのは、
「いつ?」
 ということであろう。
 記憶の中で一番ハッキリしないものは、やはり時間であろう。誰から、どこで、というのはほとんど迷うことがないので、思い出していくうちにハッキリしてくる可能性は高いだろう。
 しかし、時間だけは、毎日規則的に通り過ぎるというもので、例えばごく最近のことでも、かなり前のことだったり、かなり前のことが、昨日のことのように思い出されたりと、時間に対しての記憶だけは本当に信憑性がなかった。
 里穂はそのことをしっかりと自覚している。それだけに、
――いつのことなのか、きっと思い出せない――
 と最初から諦めているようだった。
 だが、だからと言って、他のことが思い出されるというわけではない。どこでだったのかは別にして、誰からかは思い出せそうな気がした。しかし、次の瞬間には別の思いが頭をよぎった。
――きっと、どこでだったのかということを思い出せたら、相手がだれだったのかということも思い出せそうな気がする――
 と思うことで、最初に思い出すとすれば、それは、
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次