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点と点を結ぶ線

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「僕はまったく違った意味で無限という発想をしたんですが、結果としては同じ発想になったのは、偶然という言葉で言い表していいものあって思います」
「まったく違う発想から、似たような結論を導き出される可能性と、ほぼ同じような発想をしていて、まったく違った、あるいは、正反対の発想に至る可能性とではどれほど違うんでしょうね?」
 と里穂が聞くと、
「まったく違う発想から似た結論を導き出す方が圧倒的に多いんでしょうね。でも、似たような発想からまったく違う発想であったり、正反対の発想に至る場合の確率は、似たようなものではないかと思います。ある意味、似たような発想から同じ結論が生まれないのであれば、結果として正反対になる確率は結構高いということなのでhないかと僕は思うんです。もちろん、この考えに何の信憑性もないし、照明もできないんですが、感覚としてそう感じるんです」
 彼は信憑性はないと言ったが、里穂には説得力はかなりのものだと思った。
 もちろん、最初から理路整然とした話を続けてきて初めて感じる説得力ではあると思うのであるが……。
「鏡というのは、結構難しい発想を人間に与えますよね」
 と高田は言った。
「そうですね。左右対称には見えるんだけど、その理由もハッキリとはしないでしょう?」
「そうだね、でも僕は分かる気がする。要するに「視点」という発想なんだよ。自分が鏡を見ているという発想から生まれるものなんだけど、右手を挙げた時、鏡に写ったものを別のもの、つまりは平面に写った被写体だと思うと、左手なんだけど、それを自分だと思うと右手になる。だから左右対称でも、誰も不思議に感じない。いわゆる視覚の錯覚とでも言えばいいのかな?」
「そうですね。実際にその発想が定説のように言われているのかも知れませんね」
「それにですね。もう一つ踏み込んで考えれば、鏡は左右対称なのに、どうして上下は反転しないのかっていうのもおかしなものですよね」
 これも佐川との話で出てきたものだった。
「これは、さすがに僕にも分からない。かなり難しい発想ですよね。一般的に言われているのが、左右対称は主観的に見るもので、上下に関しては客観的に見るものだからというような発想があるようですね」
 高田の話は、まるで心理学の本を読んでいるかのようだった。実際に調べた結果も彼の話と同じだったからだ。
「鏡の向こうに何が見えるのか、鏡の世界が永遠に消えることのない世界のように感じるのは、思い込みからなんでしょうか?」
 と里穂は曖昧な言い方で聞いてみた。
「鏡というのは、目の前にあるものすべてを写し出すというのが基本になっているでしょう? 僕はそこに何か秘密があるんじゃないかって思うんですよ。本当はすべて正しいと思い込むこと自体が何か危険を孕んでいるんじゃないかって思うんです」
 これは新しい発想だった。
 大前提としての、
「すべてを忠実に写し出している」
 という発想が、根底から覆されると、想像もしていなかった想定外の発想が生まれてくるものだ。
 そう思うと、
「鏡は無限の世界を形成している」
 という理屈に迫れるかも知れないと感じていた。
「ただ、これもね、ちょっとした発想を巡らすだけで、誰もが考えたことのない世界を見ることができる気がするんです。いわゆる『結界』のようなものですね。もちろん、そのためには、その『結界』が見えるための発想を一度抱かなければいけない。抱くにも発想の転換が必要で、発想の転換から結界が見える世界に入ることができたとしても、必ずしも見えるとは言えない。その世界が果たしてすべてを表現しているのかというのも怪しいものですからね。いわゆる鏡の向こうの世界を創造した時、僕には発想の堂々巡りを繰り返しているような気がしたんですよ」
 高田の発想には、限りがない、いわゆる無限である。
――この無限という発想も堂々巡りなんだろうな――
 と、里穂は感じた。
 最初は彼の被害妄想の発想から、カプグラ症候群を想像した。そして、彼が自分の後ろに何かを見ていると感じた時、前後の鏡を想像した。そして、そこからマトリョーシカ人形を想像し、鏡の話をして、彼が、鏡の世界に対しての驚くべき発想をぶちまけた。
 それだけでは堂々巡りとは思わないだろう。それを堂々巡りだと感じたのは、彼の一歩踏み込んだ発想が、またしても、最初に感じた無限の発想に行き着いたからだ。
 一種のスパイラルと言ってもいいのだろうが、負の部分はないような気がした。
「僕はね、大学に入ってから一つの趣味ができたんだ」
 と高田が言った。
「どんな趣味なんですか?」
「絵を描く趣味なんだよ。僕がさっき鏡が本当に真実をすべて映し出していないんじゃないかって発想したのも、絵を描くようになってから感じたことだったんだ。絵を描き始めるまでは、まさかこんな発想ができるなど、思ってもみなかったんだ」
「ということは、絵を描き始めてから、もっと他にも変わった部分が出てきたんじゃないですか?」
 と里穂がいうと、
「確かにその通りですね。絵を描き始めてから、見えてきたものがたくさんありました。元々僕が絵を描き始めたのは、夢を見たからなんですよ」
「夢というと?」
「誰かが絵を描いているというような夢ではなく、ただ覚えているのは、キャンバスの上に描かれた花の油絵だったんです。それは印象に残ってしまって、自分でもできないかと模索し始めたのが、入学してから三か月ほどしてからのことですね」
「大学に入ってから、苛めのようなものは?」
「苛めは中学に入るとなくなりました。家族からの迫害も、父親が僕が中学の時に死んだので、それからはなくなりました。ただ、家族での会話はなくなりましたね。それでも僕を高校まで行かせてくれたのはよかったです。しかも、僕が高校の時に再婚し、義父のおかげで大学にも入れた。義父は地元の有力者なんですよ」
 という高田を見て、
――あまり家族関係に言及することはやめておこう――
 と里穂は感じたのだ。
「実は、俺……」
 と、それまでになく、少し神妙に見えたのは錯覚だったのだろうか、そこで言葉をとぎったことで、何か深刻な話だと思い込んでしまったのか、それとも彼がこれから話す内容を何となく予感できたからなのか分からないが、里穂もその声を聞いた時、緊張が走ったのを感じた。
「どうしたの?」
「君は、ドッペルゲンガーというのを知っているかい?」
 里穂は身構えた。
 これもこの間佐川と話をして、カプグラ症候群と組み合わせた話にできないかと感じた内容ではなかったか。
 それを今ここで高田の口から聞いたということは、彼が何かの能力を持っていて、この間話をしたことを知っていたのではないかと思えたからであった。
 だが、本当にそれだけであろうか?
 ドッペルゲンガーというのは、里穂にとっては、
「話のネタとすれば問題ないが、話題にもしていない人の口から出てきた場合、何かゾッとするものがある
 と感じたからだ。
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次