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点と点を結ぶ線

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「確かにこっちの方が説としては難しいかも知れないね。実際にこっちの方も昔からいろいろ言われているけど、定説はないんだ。たとえば、左右に関しては主観的な見方にあるけど、上下に対しては客観的な見方になるからだって説もあるようだけど、これって結局、結果論にしかならないような気がするんだ。結果があって、それを帰納法で読み取っていく。他の場合では成り立つことかも知れないけど、ここまで話が難しくなると、そのすべての説は結果論にしか見えなくなって、正しい説が出てきても、それを正しいとする目が養われていないため、やり過ごされてしまうのではないかって思うんだ」
 と佐川は言った。
「結局、ハッキリとした結論が出ていないわけよね。これからも研究されていくんだろうけど、そういうまだ解き明かされていない謎というのも、世の中には結構あるのかも知れないわね」
「うん、それがすべて都市伝説や、心霊現象などという言葉で言いあら合わせないとは思うんだけど、都市伝説や心霊現象の中には、実際の科学では証明できないことも、結構あるんだろうな」
「高田さんなら、そういう研究しているかもですよ?」
 と里穂がいうと、佐川は笑いながら、
「そうだったら、面白いのにな。俺も彼にはそれなりに興味があるんだ。一体何を普段から考えているのか、聞いてみたいものだ」
 と佐川は言った。
 それにしても、佐川は結構心理学的なことを研究しているようだ。ここまでの話は、里穂がほとんど聞いたことのないものであったが、自分の中で考えていたことも少なくはなかった。
――やっぱり佐川さんは私と同じ感性を持っているのかも知れないわ――
 と感じたのだった。
 佐川と高田は、里穂が思っていたよりも、意外と似ているところがあるのかも知れない。一緒にいるとよく分からないのだが、どちらかの友達と話をしてみると、
「あの二人、どこか似たところがあるんだよな」
 という返事が返ってくる。
 佐川をよく知る人は、里穂と同じように佐川という人間を、人間性を垣間見ることで、自己の判断としている。それに比べて高田と親しいと思われる人は、どうやら高田という人間の、
「人間臭い」
 ところに興味があるようで、自己との比較というよりも、その性質に興味を持っている。
 自己との比較という意味では、判明教師的なところを持っていて、お世辞にも、彼の性格を尊敬などしている人は誰もいないようだった。
 まわりに対しての対応や接し方など、どう見ても浅はかにしか見えない。いわゆる、
「KY」
 つまり、空気の読めない状況に、ほとほと閉口していると言ってもいいだろう。
 自分一人が先に進んでいて、まわりを先導しているくせに置いてけぼりにしてしまうその態度は、尊敬はおろか、軽蔑しかない。
 それでも、いつも決まって朝の挨拶だけはキチンとしている。もっとも、それがなければ、彼のいいところなどどこにもないと言わんばかりの連中ばかりなので、そういう意味では彼の態度に反面教師を見る人が多いのも納得できる。
 そんな高田が、いやしくも里穂の尊敬に値すると思っている佐川と、
「似たところがある」
 などとよく言えたものだと、里穂は感じていた。
 贔屓目に見ても、二人に似たところなどありえないと思っている里穂は、それでもそう言っている人にその理由を聞いてみた。
「佐川というやつは、とにかく自分の理論を整然とさせないと気が済まない気がするんだ。ある意味では潔癖症とでもいうべきかな? 逆に潔癖症とは無縁に見える高田なんだけど、やつの中にある人間臭さが、神経質な部分を隠そうとしているように思えて、結局あお二人は、神経質という意味で、同類なんじゃないかって思うんだよ」
 これは、佐川と仲のいい知り合いに聞いた話だった。
「そんな見方もあるのね。確かに私も佐川さんには神経質なところも感じるけど、でも、それが高田君と似ているとはどうしても思えないんだけどな」
 と里穂がいうと、
「それは本当に贔屓目なのかも知れないね。それは佐川に対してだと思うんだけど、きっと里穂ちゃんは、佐川のいい部分しか見ようとしていないんじゃないかな? いい悪いの問題ではないような気がするんだけど、里穂ちゃんがそれでいいと思っているのであれば、それが正解なんだって思うしね」
 と、彼は曖昧な話をしてくれた。
 ただ、これを曖昧と捉えるのは、それだけ里穂が佐川に対して贔屓目に見ているからであって、理想を追い求めすぎているという感覚なのかも知れないと思った。
 里穂は、自分のことをそれほど理想を追い求める方ではないと思っていた。少なくとも高校時代までの自分は理想などに向ける目を持っていなかったと思っている。
――理想を追いかけるということは、自分に自信がある人だけができることであって、どうせ自信のない人にとっては。理想なんて絵に描いた餅のようなものだわ――
 と思っていた。
 理想を掲げれば、それに似合うような行動を取らなければいけない。それが理想に近づくことになるのであって、その大前提として、自分に自信を持つことが大切であるという考えだったのだ。
 大学に入って、映像クリエイトの道を歩もうと思った時から、初めて自分が変わったという意識を持てた。それまでは、自分に自信すら持てない自分は、まわりに流されるだけで、自分の意志を持たない生き方しかできないと思い込んでいた。
 だが、何かを作ること、それも何もないところから何かを作るということが喜びに繋がるということを知り得たことで、自分の未来が変わった気がした。
 高校時代まで、まわりが皆敵であり、しかも、何を目標に皆を敵にしなければいけないのかという基本的な理由も分からないまま、本当に流されていたように思えた。
 大学に入って、いろいろな人がまわりにいることに気付くと、自分が変わった気がしてきた。
――まわりが自分を変えてくれたのだ――
 と思っていたが、それも他力本願であるという意識がまだなかった時のことだった。
 普通に考えれば今であれば簡単に分かることなのに、その時にはまったく気づくこともなかった。そのことが里穂には恨めしかったのだった。
「ところで高田君は、何か悩みのようなものってあるの?」
「唐突だな」
 と、高田は笑いながら言った。
 しかし、その表情は笑顔とは程遠いもので、見るからに顔が引きつっているかのように見えた。だが、それでも精いっぱいの虚勢を張っているようで、その様子が滑稽にも見えたのは、不謹慎であろうか?
「いえ、いつもまわりに挨拶をしている高田君を見ると、すごいなと思う反面、そうしないといけない使命感のようなものを感じるんだけど、これって思い過ごしなのかな?」
 と聞くと、
「そんなことはないよ。でも挨拶は無意識にしているつもりなんだよ。ただ、それは今まで育ってきた環境の中で、仕方なくという部分もあるのも事実で、そういう教育を受けていたということかな?」
「親から厳しく育てられた?」
「一般的に言えばそういう言い方になるだろうね。人とのコミュニケーションは挨拶から始まるという基本的なことなんだけど、挨拶を忘れたりすると、よく叱られていたのを覚えているよ」
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次