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 何を考えているか分からないまでも、口に出して何かを話し始めた時の佐川には、必ずこちらが納得できるだけの答えを持っているはずである。それをいちいち途中で話の腰を折るように質問をぶつけてしまっては話が進まないことは分かっていた。
 それを分かっているのか、最初の一言を言ってから少し間を置いた佐川だったが、里穂が質問してくることはないと理解していたからなのか、表情を変えることはなかった。
 佐川はさらに話しを続ける。
「高田という男を見ていて、普段はまわりに気を遣っているようで、誰にでも挨拶をする。それは悪いことではないんだけど、その挨拶をした後に、どこか警戒心のようなものが見え隠れしているのを僕は感じたんだ」
「私には、そんな感覚なかったけど?」
「そうだろうね、君のように素直にまっすぐ相手を見る人には見えないようにできているものさ。しかも、挨拶をされた人には分からないはずさ。だから、彼が他の人に挨拶をしている姿を見ても、そんな警戒心を感じることはない。君の先入観が、そういう思いを抱かせないからさ」
「そんなものなのかしらね」
 これは話の腰を折るわけではなく、リアクションの一種であり、リアクションを示してあげる方が、話し手に対して親切だという思いを持っていた。
「ところで、里穂さんはドッペルゲンガーという言葉や、カプグラ症候群という言葉を聞いたことがあるかな?」
 と言われて、
「ドッペルゲンガーという言葉は聞いたことがあるような気がしますけど、カプグラ症候群という言葉は初耳です」
「そうだろうね。たぶん、ほとんどの人がそういうと思うんだ。これはどちらも心理学的な精神疾患を伴うような病気の言葉であり、一種の都市伝説的な話でもあるんだよ」
 言葉が難しいだけに、話の内容に言及することは里穂にはできないと思った。
 まずは佐川の話を聞いて、自分に意見があれば、それを質問するだけだった。
「まず、ドッペルゲンガーという言葉なんだけど、これは結構昔から言われている言葉であるんだが、この言葉は別名『二重歩行』とも言われていて、つまりまったく同じ人間が同じ時に別の場所で目撃されるということなんだよ。要するに『もう一人の自分』がいるという考え方なんだ」
 と佐川がいうと、
「その話、聞いたことがあります。小説なんかにもよくそれをテーマにしたものがあると聞いた気がします。そうなんですね。その現象のことを、ドッペルゲンガーというんですね」
「ああ、そうなんだ。この話は確かにたくさんの人がテーマにして作品にも描かれているんだけど、それにはいくつかの逸話や説があるからなんだ」
「世の中には似た人間が三人はいると言われているけど、それとは違うのかしら?」
「うん、それとは違う。ドッペルゲンガーというのは、『似た人』という意味ではなく、あくまでも『もう一人の自分』なんだよ」
「そんなことってありえるのかしら?」
「普通ではありえない。だから、いろいろな説があったり、逸話もあったりする。だけどSFの世界やホラー、オカルトの世界では、発想としては十分にありえることではないのかな?」
「そうですね。言えると思います。では、この話はまず小説の発想から生まれたものを、実際に見たということから出発しているのか、それとも、誰かが最初に見て、その発想が小説などのネタとして考えられるようになったのが最初なのか、どっちなのかしら?」
 と里穂がいうと、
「そうだね。そこまで詳しいことは分かっていないけど、実際に今までドッペルゲンガーを見たという話はたくさん残っている。特に歴史上の人物などで有名人が残した話が逸話になって、そこからいろいろな説だったり、ドッペルゲンガーの正体を想像させるようなものも出てきたりしているんだよ」
「というと?」
「例えば、ドッペルゲンガーにはいくつかの謂れがある。まず一番有名な話としては、『ドッペルゲンガーを見れば、その人は死んでしまう』という説なんだ」
「その話、何かで聞いたことがあるような気がします。ドッペルゲンガーという言葉は覚えていなかったんですが、何かを見ると死んでしまうという伝説のようなものを聞いたことがあったので、今何となくその時の話の辻褄が合ったかのように思えてきました」
「そうだろう。そして、ここからはドッペルゲンガーというものに対しての特徴なんどけどね。まずドッペルゲンガーは、人と会話することはないということ、そして、ドッペルゲンガーはその元になった人の行動範囲から逸脱した場所には現れない。これがドッペルゲンガーの共通点になるんだよ。そして、ドッペルゲンガーというのは、自分が自分を見るだけではないんだ。他の誰かが、出現するはずのないところで、もう一人のその人を目撃するということもある。それも一つの特徴と言えるんだ」
「なんか怖い話ですね。でも、だからこそホラーやオカルトになるんでしょうね。でも、SFとしてもいけそうな気がするわ」
「いろいろなイメージや想像を植え付けるのが、このドッペルゲンガーというものの正体なんだ」
「でも一番怖いのは、それを見ると死んでしまうという伝説があるんでしょう? それが一番怖い気がするわ」
 と里穂がいうと、
「それに対しては、いくつかの説があるんだ。一つは、ドッペルゲンガーというものが、幽体離脱のようなもので、肉体と魂の分離という考え方なんだ。その分離が行われるから、他の場所で目撃されたり、自分でも見たりする。でも、相手は抜け殻なんだから、決して会話をしないという理由はそこで証明されるんじゃないかな?」
「なるほど、それは確かにそうね」
 佐川は続ける。
「まるで夢遊病のような感じなんだけど、普段は肉体と魂が見えない糸、いわゆる『シルバーコード』と言われているものらしいんだけど、何度も幽体離脱を繰り返していると、そのうちにこの『シルバーコード』が切れてしまって、二度と自分の身体に戻ることができない。つまりは死んでしまうということになるという考え方。これがドッペルゲンガーを見ると死ぬという説への一つの答えになっているんだよ」
「分かる気がするわ」
 佐川の話し方がうまいのか、その発想は十分に理解できるものだった。
 佐川はさらに続ける。
「ドッペルゲンガーを見ると死ぬという説に対しての考え方はまだまだあるんだ。次に言われているのは、一種の『パラドックス』というSFの世界などによくある考え方なんだ」
「『パラドックス』というのは分かる気がするわ。タイムマシンなんかで言われている矛盾なんかのことでしょう?」
 という里穂に対して、
作品名:点と点を結ぶ線 作家名:森本晃次