小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「催眠」と「夢遊病」

INDEX|19ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 新垣は別にこの占い師に、今後の自分の行動まで判断してほしいと思っているわけではない。もちろん、占い師の方も、そこまで相手に責任を持つ必要などないし、それこそよく言われるように、
「当たるも八卦、当たらぬも八卦」
 ということである。
 要するに、
「当たっても外れても、しょせんは占いだ」
 ということだと、少し乱暴ではあるが、新垣はそう思っていた。
 新垣は占い師の判断に疑問を持ったが、実は占ってもらう前から、もう気持ちは決まっていた。実際に研究はほとんど終わっていて、後は誰かを実験材料にしてそれを実践するだけだった。
 新垣は昔からそういう性格だった。それは、
「誰かに相談したり、気持ちを明らかにした時には、すでに自分の腹は決まっている時である」
 ということだった。
 新垣は知り合った女性であるつかさを自分の催眠術の実験材料にしようと思った。相手は男性女性のどちらがいいかと考えた時、女性を最初に思い浮かべたのは、女性というものの性格を思い出したからだ。
「女性というのは、何かを表に出す時には、すでに腹が決まっていることが多い時だ」
 という話を聞いたことがあった。
 新垣にも同じようなところがあるが、それを占い師に的中されたことで、対象を女性にしたのは、催眠術の本質が女性に合うという個人的な感覚によるものだった。
 もちろん、根拠があるわけではないが、
「男性と女性のどちらを?」
 と考えた時、思い立ったのが女性だったということであったのだ。
 占い師と話をしていて、まず言われたのが、
「あなたには女性らしいところがあるのが分かりました」
 と言われたところがきっかけだった。
 それまでの話と急に変わった話になったので、最初は占い師が急に気付いたことだったのかと思ったが、よく聞いてみると、最初から分かっていたことだが、いきなり話を持っていくと、せっかくの話が中途半端で終わってしまうと思ったからに相違なかった。
「女性らしいというと?」
「それは、あなたが何かを思いついた時、すぐにそれを公表するわけではなく、確信が得られるまで誰にも言わずにいることです」
「それは、僕に限らず、皆そうなんじゃないですか?」
「基本的にはそうなのかも知れませんが、あなたの場合は重要なことであればあるほど、その傾向にあります。他の人はそこまでハッキリと見えるわけではないんですが、それはなるべく隠そうという思いがあるからなのかも知れませんね。だからまわりにそんな思いを抱いているとは思わせない。だから、せっかくそんな気持ちがあるのに打ち消してしまって、つまり黙っていることに我慢ができないという思いが先に立ってしまって、ついつい口にしてしまう。その思いはあなたも感じていると思いますが、他の人は矛盾を感じながら、隠そうとする方に動いて、結局我慢できずに話してしまうということを自分で無意識に認めているんですよ。でもあなたは素直なんでしょうね。隠そうとはせずに正面を見る。だから我慢しているという意識もなく、自分の本心を隠し通して、最後には確固たる信念を持つことができる」
 占い師の話は分かるようで分かりにくい。
 ただ考えてみれば、当たり前のことを言っているようにも思えるので、納得できないわけではない。それを占い師は、
「素直だ」
 と言ってくれているのだとすれば、それはそれで嬉しいことだった。
「でも、それが女性っぽいというのは分かりにくいんですが、それだけ女性が素直だということでしょうか?」
「そうですね。ある意味で素直です。それは自分に対して素直だということであって、まずは自分なんです。ここが女性らしいと言えるのではないかと思うのですが、男性からは理解しにくいところかも知れません」
「理解しにくいとは?」
「男性の中には、男性と女性を比べると、男性の方が潔くて、女性の方が執念深いと思っている人も結構いると思うんですよ。あなたはどうですか?」
「確かにそういう印象はありますね」
「でも、それって、私としての意見なんですが、テレビドラマや小説の中の世界であって、実際にはいろいろな人がいるわけです。私が女性っぽいと言ったのも、女性すべてを刺して言っているわけではなく、一般論に逆らう形での話だと思ってくださいね」
 と、占い師は急に自己弁護のような言い方になった。
 占い師と言っても万能ではない。余計な先入観を与えてしまっては、話が偏ってしまうとでも思ったのだろうか。
「ええ、分かりました」
 新垣は、このくだりの話は、世間話のような気分で聞くことにした。
 意外とここまでの話も、占い師からすれば、世間話に近い気持ちだったのかも知れない。新垣も素直に聞いてはいたが、すべてを真剣に受け取っていたわけではない。
 だが自分の表情から、すべてを真剣に受け取っていると相手が思っていれば、こんな言い訳の一つも言いたくなってしかるべきであろう。
「あなたは今までにおつきあいした女性がいましたか?」
「はい」
「その人とは深い仲には?」
「自分でもよく分かりません」
「では、今おつきあいしている人は?」
「いると言えばいるんですが、まだこれからだと思っています」
「新垣さん。あなたは好きになったから相手と付き合ったわけではなく、好きになられたからおつきあいをしたという経験をお持ちですね?」
「どうしてそれを?」
「私には、そういう人は分かるんです」
 と、断言されてしまっては質問ができないような回答をされて、困ってしまった新垣だった。
 それでも新垣は、
「どうして分かるんですか?」
 相手の出方を見たいという思いもあって、敢えて聞いてみた。
「実は私にも同じようなところがあるんです。あなたを見ていると、分かってくることが多いんですよ」
 と言われて、それは喜んでいいことなのか分からずに、複雑な気持ちになる新垣であった。
 心理学を勉強している新垣は、バーナム効果という言葉を思い出した。それは選択肢のある質問を、当たり前の回答に導くようなもので、ただ、それを相手が自分で選んだという発想にさせることで、自分の話に信憑性を持たせるという一種のテクニックである。この占い師は、それとは少し違った言い回しだが、結局は回答を誘導しているように思えた。
――こんな手に引っかかるものか――
 とも思ったが、話しているうちに、自分の中で何かウロコが落ちたような気になってしまい、爽快に思えてくる自分を感じているので、バーナム効果を狙ったものであるとしても、その気分に入り込むのは悪いことではないかのように思えた。
「でも、好きになったから付き合ってほしいと思うことと、好かれたから好きになって、付き合うようになるのと、どのように違うんでしょうね? 結局好きになったら、好きになってもらいたいと思うわけだし、心理的な面で違うというのは分かるんですが、そんなに大きな問題なのかどうか、僕には分かりません」
 と新垣がいうと、
「確かにそうですよね。私も実はそう思っています。そして私の考えなんですが、好きだから好かれたいという思いと、好かれたから好きになるという思いでは、違いなんかないような気がするんですよ」
作品名:「催眠」と「夢遊病」 作家名:森本晃次