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魔法のエッセンス

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 今の松田は、確かに会社では部長職ということで、社会的地位は悪いものではない、そのために、若い頃には、親友だと思っている人との仲よりも、仕事を優先してしまったこともあった。それはそれで無理のないことなのだろうが、後悔の念にあと後から襲われるのだった。
 後悔してしまうと、自分から、親友との仲をギクシャクさせてしまう。仕事での人間関係はそれほど悪くなくとも、プライベートな人間関係がギクシャクしてしまったことが今までに何度もあったからだ。
 結婚生活が、その最たる例であったに違いない。
 松田は、彼を見ていると、かつての自分を思い出すようだった。
――やはり俺は、不器用なんだな――
 と感じてしまった。
 だが、そんな彼の方から松田に話しかけてきた。ひょっとすると、離婚したことを誰かから聞いて、話をしてみたいと思ったのかも知れない。
「松田、久しぶりだな」
「ああ、元気だったか?」
「うん、何とかそれなりにだな」
 いかにも平均的な人間の表現らしい。だが、彼を見ていると、それほど寂しそうにない。それを思い切って訪ねてみると、
「ああ、結構俺は楽しんでる方じゃないのかな? 元々、想像や妄想することが多かったので、今でもそのくせが残っているせいか、嫌なことがあっても、すぐに忘れられる。それが結構いい方向に言っているのかも知れない」
「そうなんだ」
「お前は、俺がずっと独身なのを気にしているかも知れないが、確かに途中で、寂しくてたまらない時期があったが、それでも今は、さほど気にならない。なぜなら、適当に遊ぶこともできるし、いくらでも想像力を膨らませられる。現実から目を逸らしているのは事実だけど、現実だけを見つめていたって、楽しいことはないさ」
 と言って笑っていた。
 彼は多趣味な男でもあった。趣味も性格と同じで、広く浅く、深く入り込むことはなく、すべてが嗜む程度で、極めようとはしない。それを訊ねてみると、
「極めてどうするのさ。確かに目標にすることは悪くはないと思うけど、目標を達成してしまったら、その先どうするんだってね」
「それはそうだが」
「俺は、考え方を変えたんだ。目標は達成するためにあるんじゃなくって、持ち続けることに意義があるんじゃないかってね」
「確かにそうだ。生きがいは持ち続けるという継続が一番だもんな」
「その通り、俺は今、結婚相談所にも登録しているんだが、それも、目標を持つという気持ちを明確にしたいがためなんだ。まあ、大きな声ではいけないけどな」
 と言って、笑い声だけは豪快だった。
 豪快な笑い声は、まわりの声にかき消されたが、松田の耳にだけは、余韻を与えながら、残ったのである。
「結婚相談所か」
「お前も登録してみればいいんだよ。別に難しいことではないし、社会的なものも、プライバシーは絶対だから、心配はない」
「そんなものか?」
「目標を継続させることを考えれば、おのずと答えは出てくるものさ」
「なるほど」
 彼の話を噛み締めながら聞いていると、最初はそこまで感じていなかったことも、時間が経つにつれて、次第に考えが深くなってくるのを感じたのだ。
 さっそく、結婚相談所の門を叩いてみた。いろいろ調べてみると、結構たくさんあるものだった。
 本当に結婚を考えているシビアなところから、普通に出会いを求める人間のサポートまであり、それほど堅苦しく考えることもないように思えた。
 実際に登録してみると、登録者の中から、相性の合いそうな、近所の人を紹介してくれるシステムになっている。実際に会うまでには少し時間が掛かるが、それもプライバシーの問題が絡んでいるので、それは仕方がないことだった。
 松田は、紹介された人と、今までに何人か会った。だが、相性が合った人と会うと言っても、あくまでも統計的なもの。どこまで信憑性があるか分からない。あまりにも信じ込みすぎると、相性があまり合わなかった時の相手は、お互いにがっかりするものだった。
 だが、落胆するわけではない。相手も同じようにコンピュータの相性を全面的に信じていないようだ。それが救いなのか、付き合う前から、お互いに次はないということが多い。
 ただ、話を聞くと、中にはもう少し話をしてみれば、相性が合うのではないかと粘ってみる人もいるという。女性の方が引いてしまうのだが、相手が真剣だと、無下に冷たくもできない。そう思うと、苛立ちを自分だけが背負うのは不公平に感じるようだ。そういう意味では、松田のような性格だと助かるという女性もいたりした。
 付き合い始めた人もいたが、最終的には、どうもうまくいかない。ひょっとすると、相手が自分に好意を持ってくれたことで、相性が合っていると松田の方でも勘違いをしてしまったのではないかと思う。やはり異性と付き合うというのは難しく、しかも途中に仲介が入っていると、余計に気を遣ってしまう。それでも結婚相談所の利用wやめようとしないのは、
「目標は達成することにあるんじゃなくて、持続するためにあるんだ」
 という言葉が頭の中にあるからだろう。
 そんな時に出会ったのが、優子であった。
 優子の清楚な雰囲気は、花屋さんというシチュエーションも手伝って、松田の中で久々にヒットした出会いだという印象を強く与えた。
 偶然を偶然ではないと思う時、気持ちが有頂天になり、すべてが自分のために動いていて、時間さえも、自由にできるのではないかという錯覚まで感じることがある。躁状態に近いものなのだろうが、躁鬱症というわけではない。今までに鬱状態に陥ったことはなかったが、陥ってしまえばどうなるのだろう? 気になるところではあった。
 優子と知り合って、話すようになると、今度は娘の真美のことが気になり始めた。真美は、二十二歳になり、すっかり大人になっているので、本来なら、再婚に当たっては、気にすることなどないのだろうが、真美の性格を見ていると、どこか裏表がありそうで、父親から見ていて、時々怖くなってくる。
 裏表と言っても、悪意のあるものではない。本人もあまり意識していないもので、逆に親の目から見ると、心配になってくるのだ。ただ、それが親子関係という贔屓目で見るから裏表に見えるのかも知れない。それなら、まだいいのだが、誰に対しても裏表があるようでは、気が気ではない。そのうちに、
「お父さん、私、この人と結婚する」
 と言って、いきなり男を連れてきたらどうしよう。可能性は高く、覚悟が必要なことであった。
 もし、真美が結婚してしまうと、自分は一人ぼっちだ。その覚悟はしておかなければいけない。その時の孤独感は、間違いなく寂しさを伴うだろう。しかもそれは今までに感じた寂しさとはまったく違うもののはずである。
 結婚相談所に登録する気持ちになった一端は、娘の真美に対しての気持ちもあった。結婚していなくなって一人になった時に感じる寂しさ。それを考えたことも事実だ。
 そうなったらそうなったで、今度は自分の寂しさを満たされればそれでいいという考えもある。反対方向から見てみるというのも、一つの手段である。どちらの方向から見ても寂しさを満たすには、結婚相談所への登録で、自分に対しての損はなかったのだ。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次