小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

魔法のエッセンス

INDEX|4ページ/52ページ|

次のページ前のページ
 

 相性など、考える余裕もない。どうすれば、寂しさから逃れられるかだけを考えているところに、優しくなんかされると、コロッと相手に参ってしまうことだろう。
 交際期間もそこそこに、結婚に踏み切ってしまうことも考えられる。
 ただ、結婚してからというのは、以前と同じだ。結婚生活に、さほど最初に結婚した相手と変わりはない。あの頃は結婚に対しての理想とのギャップにすぐ、離婚に踏み切ってしまったが、今度はさすがに考えなければいけない。
「二度の失敗は、許されない」
 プライドが許さないという気持ちもあるだろう。
 彼女のような女性は、プライドの強さも人一倍だと思う。一人でいて、孤独を感じながら、寂しくないと思ってきたこと自体、それがプライドというものだろう。
 松田には、彼女の気持ちが、なぜか手に取るように分かった。だからといって、彼女と今さら腹を割って話をしようとは思わない。
――おそらく、彼女の方で、俺を相手にしないかも知れないな――
 それは、学生時代の感覚と似ているのかも知れない。
 一言で言えば、人見知りと言えるのだろうが、今度は、波乱万丈の人生を歩んできて、そんな中、自分の気持ちの整理がいまだについていないことで、人間不信に陥っているのかも知れない。人間不信の対象は、相手が男性というだけではない。女性であっても同じかも知れない。逆に女性に対しての方が強いのではないかと思う。それは自分が女性であって、女性の気持ちは、女性にしか分からないからだ。
――私なら、今の自分のような女性を相手にすることはないだろうな。むしろ、毛嫌いするかも知れないわ――
 と思うのだった。
――それにしても、俺もどうして人のことはこんなにも分かるんだろう?
 と、自分のことを棚に上げて思うのだった。
 松田は、他の同窓会メンバーを見渡した。
 一番仲がよかった友達が、この中では目立っている。いろいろな人から話しかけられて、丁寧に答えている。その様子を見る限り、彼の一番いいところは、
「陰日向のないところ」
 ではないだろうか。
 松田も、本当は自分がそうあるべきだと思っているが、自覚はしていても、なかなかそうもいかない。仕事でも部長職をしていると、陰日向なく、一直線な性格ではたちまち、立ち行かなくなってしまう。それが分かっているから、どうしても、人を贔屓して見ることができなくなってしまう。
――離婚の原因はそこにあるのかも知れないな――
 松田は、それほど器用な性格ではない。
 会社と家での自分をうまく使い分けることが苦手で、どうしても家でも会社と同じ感覚で見てしまうのだ。
 家に仕事を持ち込まないという信念は持っていた。持っていたのだが、それが却って、妻に不信を抱かせたのかも知れない。態度は会社にいる時と変わらないのに、会話がないわけだから、
「この人は何を考えているのかしら?」
 と、思われても仕方がないことなのかも知れない。
 会社にいる時と、会社を離れてからの自分は、本当は使い分けなければいけないのに、陰日向なく接しなければいけないという思いが強いことで、家での態度がギクシャクしてしまったのだろう。
 松田は、妻に対して、すまないと思うのはそこであった。
 だが、どうしても謝ることはできなかった。それはプライドが邪魔しているというよりも、自分には、どうしても妻を許せないところがあるからだった。
 確かに女性の性だと言えば、それまでなのだが、
「どうして、限界に達するまでに話をしてくれなかったんだ?」
 と思うからで、もう少し前に話をしてくれていたら、最悪の結果を招くこともなかったかも知れないと思うのだった。
 最悪の結果、それは離婚である。
 少なくとも新婚当初は、
「こんなに幸せでいいのかな?」
 と思うほど、有頂天だった時期が、まるで昨日のことのようだ。
 離婚を経験したことが、新婚当初の有頂天だった時期よりも、さらに昔に思えてくるから不思議だった。
――嫌いなことは、思い出したくない――
 という感覚とは、若干違うものだった。
 時系列の崩れは、感情に大きく作用されると思っている。幸せだったことを思い出したくないと思うことも多く、幸せだったことを思い出そうとすると、どうしても時系列として、離婚の苦しみを避けて通ることができないからだ。それでも、楽しかった頃を思い出せるのは、時系列に逆らった感覚が自分の中にあるからだろう。そう思うから、楽しかったことを思い出す時は、まるで昨日のことのように鮮明な意識になるのだった。
 同窓会メンバーを見ていると、まるで人生の縮図を見ることができる。なぜなら、皆と一緒に過ごした時期が、確かに自分にはあったからだ。懐かしさだけではないものが、頭の中に渦巻いて、
「皆、どんな人生を歩んできたのだろう?」
 と思うことで、時系列に歪みができたり、入れ替わったりすることで、学生時代が、まるで昨日のことのように思い出される。この感覚は松田だけではないだろう。
「皆と一緒だった頃が、まるで昨日のことのようだよ」
 と、いう声があちらこちらで聞こえてくる気がするが、それはきっと本心なのだろう。大なり小なり、皆同じことを考えているに違いない。
 卒業してから、三十年近くも経つのに、皆貫禄が付き、年相応に老けているのに、見ただけで、誰だったか、すぐに分かってしまう。目立たなかった人でも同じで、中には、学生時代には目立たなかった人が、今では、化粧の乗りもよく、十分に綺麗になっていて、見分けがつきにくいはずなのに、それでも、すぐに分かってしまう。イメージは変わっても、根本は変わっていないという当然のことを今さらながらに思い知った気持ちだった。
 同窓会に出席しながら、結婚から離婚までを、一気に駆け抜けて思い出していたが、すぐに、忘れられそうな気がした。
――きっと、心の奥に封印されるのだろう――
 と思った。
 封印されることで、
――忘れたわけではなく、思い出さないだけだ――
 と思うようになり、忘れてしまったことを正当化するころができる。
 普段は、思い出す必要はなく、いつか思い出さなければいけない時に思い出せばいいだけなら、それで構わないだろう。
 同窓会メンバーの中で、いまだ一度も結婚経験もなく、独身でいる男がいた。学生時代はそれほど目立たないわけでもなく、何事も平均的にこなす男だった。
「何でもそつなくこなす」
 これが彼の特徴で、
「可もなく不可もなく」
 これが、彼に抱いたイメージだった。
 何でもそつなくこなすということは、いいことも悪いことも、突出したものがないことを示していた。
 そんな彼には友達はいても、親友はいなかった。実はそんな彼を、松田は気にしていたのだ。
 それは、彼の将来を気にしていたわけではなく、自分がいずれ、彼のように親友が誰もいなくなるのではないかという懸念であった。実は、半分的中しているのではないかと思っている。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次