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魔法のエッセンス

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 と言われるが、半分は似ていて当然である。陰湿で執念深そうな雰囲気を感じるが、それは、ひょっとすると、優子から見た目だからなのかも知れない。友達の輪の中に入ると、活発で、爽やかな青年なのかも知れないと思うと、優子の性格も、勝則から見たものと、他の人から見たものでは、まったく違っているかも知れない。
 勝則がストーカー行為に走ったのも、それを警察の前で怯えて見せたのも、本来の性格からなのかも知れない。だからこそ、優子は勝則が気になってしまい、観察を始めたのだった。
 優子には、優実の性格は最後まで分からなかった。二十歳過ぎまで生きたのだから、誰かに生まれ変わりを委ねるとは思えない。だが、優実の潔さは、心のどこかで、
「私は生まれ変われるんじゃないかしら?」
 という思いがあったから、死ぬことを恐れてはいても、絶望することはなかったのかも知れない。
――ひょっとすると、優実は、生まれ変わった自分を見ることができた?
 思い切り突飛な想像だが、生まれ変わりというのは、死んだ人のその瞬間から後でないといけないと思われがちだが、前もありえるのではないか。つまりは、本人が死ぬ前と、生まれ変わりの人とが同じ世界で共存できるという考えである。
 優実は偶然か必然か、生まれ変わりの自分を知ったのかも知れない。それで、死を恐れない感覚が生まれた。そうでもなければ、死を目の前にして、あれだけの余裕など、考えられるはずはないからである。
「まさか」
 それが、真美だったら……。という発想は、すでに妄想でしかない。発想の域を超えているのかも知れない。
 いろいろと発想を妄想に変えていくと、分かってきた気もするのだが、今度は、この世でもまわりの人たちとの関係がギクシャクしてきそうな気がした。
 松田との関係、真美との関係、他の人との関係もまるで紙に描いた平面上の関係に思えてきて仕方がないのだ。
 松田とは、結婚してから、一度もベッドを共にしていない。年齢的にも、身体を重ねないと、愛情を確かめられないという感覚ではないが、どうしても寂しさは拭いきれない。それが、身体からなのか、気持ちの問題なのか、ハッキリと分からないが、松田に最初に感じた包容力は、ベッドを共にしたとしても、再度感じることができるものではないと思っている。
「ひょっとすると、あの人は、私と結婚したことで、前の奥さんを思い出しているのかも知れないわ」
 悲しいのは、その気持ちである。奥さんを思い出すことで自分の若い頃を彷彿させたいと思っている。もちろん、最初からそのつもりではなかったとしても、優子を利用したということに変わりはない。言い知れぬ唇を噛み締めたくなるような苦み走った寂しさは、そのせいなのかも知れない。
 松田に対しての、優子の気持ちは、さほど変わっていない。優子はそれが悲しかった。優子も確かに松田に対してぎこちなくなり、冷たい態度を示しているのに、気持ちだけが変わらないというのは、表に出ている感覚と、実際の感覚の間で差があり、優子には不利な状況をまわりに醸し出しているのだ。
 引いていく気持ちに対し、追いかける気はないが、自分が冷めていないのは、どうにも中途半端な気がしてならない。松田と結婚して後悔をしているわけではないが、松田がなぜ冷めた気になったのか、優子には気がかりだった。
 ただ、松田という人は悪い人ではない。優子も、すでに「夢見る」などと言っている年齢ではないので、恋愛を純粋に楽しめればいいと思っていたのだが、そういう意味では、結婚は間違っていなかった。
 この年になって、少しでも心がときめいたのなら、結婚も悪いことではない。そう思って結婚したのだが、結婚自体が、どういうものなのかと、考えるようになった。
「今まで結婚しなかったのは、なぜだったんだろう?」
 いい人がいなかったから?
 いや、それだけではないはずだ。
 いい人がいたからと言って、すぐには結婚しない。一生を左右する問題だからだ。
 いい人という基準にも問題がある。性格的にいいだけでは、結婚生活は成り立たない。経済力や、家庭をまとめていく力、あるいは、生活力も考えなければいけない。要するに総合的な判断が求められる。
 知り合って、付き合って、プロポーズがあって、婚約。そして結婚となるわけだが、堅苦しいところは抜きにしても、外せないものもあるはずだ。相手を知るには時間もかかる。そして相手の家族関係まで考えると、その間に、紹介という「儀式」も入ってくるだろう。家族への紹介、そして、婚約という儀式は、堅苦しくても、外せないものの中に入ってくるに違いない。
 松田が悪い人ではないというだけで、結婚に踏み切ったわけではない。総合的に見て判断したのだ。この年になるまで結婚しなかったのだから、満を持していると言っても過言ではない。
「一度は結婚してみたかった」
 という気持ちがあったのも、正直言って、ウソではない。それだけに、相手は慎重に選んだつもりだ。付き合っている時に、
――話をしていて飽きが来ないほど楽しかった――
 これも、結婚に踏み切る大きな理由だ。だが、交際期間中と、結婚してからでは、かなり違ってくるものであるということは頭の中では分かっていたが、蓋をあけてみると、想像していたよりも、違っていたのだ。
「この人は悪い人ではない」
 ということも、結婚に踏み切った大きな理由の一つだった。
 結婚しようと思った理由は、挙げればきりがないほどあった。
 真美の存在は、気にならなかった。結婚前に紹介された時、雰囲気が誰かに似ていると思い、そして、それが優実だと分かった時、
――この娘とは、これから長いお付き合いになる因縁を感じるわ――
 と思えた。
 真美が優実の生まれ変わりだとは言わないまでも、どこかで意志を受け継いだのではないかと思えるところがある。真美に、
「初めて見た光景なのに、以前にも見たことがあるような感覚を味わったことってある?」
 と聞くと、
「ええ、ありますよ」
 と、至極当然のことのように、あっけらかんと答えてくれそうな気がする。
「私、女性が年を取らないとしたら、それは女性を好きになったからなんじゃないかなって思うんですよ」
 という話をしていた優実を思い出した。
 それは、自分のことを言っていたのかも知れない。優子に愛されて、至福の悦びを味わい。そして、優子は知らなかったが、死期を悟っていた優実には、自分は死んだら、永遠に年を取らないのだと、言っていたのかも知れない。
 最初は、照れ臭く感じられた優子だったが、優実がいなくなってみれば、その言葉の意味の重さに気付き、ずっと忘れられない言葉となったのだ。
――私も、まわりから、年齢の割に若く見えると言われているけど、それって、年を取っていないということに繋がるわね――
 と感じた。
 どこから年を取っていないのか分からないが、どこかで一旦年を取るのが止まってしまい、そこからリスタートする。それを何度か繰り返していれば、優子は年を取っていないという感覚が当然のごとくとなり、却って、意識することができなくなってしまっていたのかも知れない。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次