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魔法のエッセンス

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「私の初めての親以外との旅行だったし、それも母親がいなくなってからすぐのことだったからね。意外とお父さんはああ見えても、小心者なんですよ」
 そう言って、ニッコリと笑った真美だったが、それを見て、優子も同じように笑った。優子には、そんな他愛もない笑顔を安心して見ることができる人生を、今やっと歩むことができるようになったのだということを、心底喜んでいるようだった。
 優子のそんな気持ちは、心からの笑顔を見せることができないことで表現していた。それを真美は分からない。やはり人生経験と、年齢の差が、歴然としていることが、影響しているのだろう。
 優子は、真美を見ていて、優実と知り合った頃の自分を思い出していた。
 優実を好きだった自分を思い出したのだが、そのことに、何か記憶を呼び起こそうとする自分の邪魔をするものが自分の中にあるのを感じていた。
――もう一人の自分かしら?
 優子は、自分の中に、もう一人の自分を感じている。夢の中などに、時々出てくる、もう一人の自分であるが、もう一人の自分が出てくる夢を見た時、決まって、その内容を覚えていることが多い。
 夢の内容などは、ほとんど覚えていないことが多い。それなのに、もう一人の自分が夢に出てくる時というのは、その内容を覚えていることが多いのだ。といっても、もう一人の自分が出てくる夢など、そんなに何度も見るものではない。ただ、内容を覚えている夢がほとんどなく、寝ていても夢を見ていたかどうかさえハッキリしないことも少なくないのだ。
 そう思うと、もう一人の自分が出てくる夢は、ほとんどが繋がっているのではないかと思えてくる。
「以前の続きを今回見ている」
 と思うと、夢を見る頻度も、最初から決まっていたのではないかとさえ思う。
 そして、もう一人の自分の存在が、
「本当に自分なのだろうか?」
 という疑問にぶち当たる、
 確かに、目の前にいる人が、自分の姿なのにビックリさせられる。ただ、よく考えてみると、その姿は今の自分ではない。もっと若い頃、そう、二十歳前後の自分だったのではないかと思うのだ。
 夢を見ている自分も、本当に今の年齢の自分なのかが疑問であった。そう思うと、夢を見ている自分自身が、もう一人の自分で、夢の中の自分は、違う人ではないかと思うと、一人の女性が思い出された。
 それが、優実だったのだ。
 優実は、優子の中で永遠に年を取らない。いつも二十歳前後の女の子であった。優実を見ている優子も、いつまでも年を取らない。
 そういう思いが優子の中にある以上、夢の中でしか、その気持ちを実現することはできない。
「夢とは、そういう時のために、あるんじゃないだろうか?」
 と思うようになっていた。
 自分の妄想や、祈願を成就するための機会として夢が存在するのであれば、優実の存在が、優子の夢の中を作っていると言っても過言ではない。
 だが、優子の夢で、目が覚めても覚えているものは、もう一人の自分だと思っていた優実の夢だけではなかった。
「弟の夢」
 そう、優子が気にしている弟の夢であった。
 弟が、本当にこの世に生まれてきたのかどうか、優子は気になって仕方がない。生まれてから一年ほどは、他の土地で育ったという話を聞いて、優子は、ずっと生まれてから、一年は生きていたと思っていたのだが、途中から、
「弟は、この世に生を受けていないのではないか?」
 という疑念を抱くようになった。
 その理由は、夢の中で弟が出てくると、その姿が、この間ストーカーとなった青年の、勝則をイメージするからであった。もし、普通にこの世に生を受けて、病気で死んだのであれば、そんなイメージは抱かないと思ったからだ。ずっと思い描いていた弟のイメージがあって、そのイメージは似ているかも知れないが、勝則とは違ったものであるはずだからである。
 勝則の姿を思い出してみた。
 優子は、勝則の一部分しか知らないことで、彼への誤解があるのではないかと思い、彼を観察してみた。だが、本当の理由は、彼の他の顔を見ることで、自分がイメージしている弟の顔を思い出したいという気持ちが強かった。
 もし、今イメージしている弟の顔と違う顔が、頭に浮かんできたとすれば、それはきっと、弟が、一度はこの世に生を受けたということになるのだと、自分で思えるからだった。だが、そのことが、さらなる疑念を生むことになるとは、その時、優子はまだ知らなかった。知らぬが仏という言葉があるが、まさしくその通りなのかも知れない。
 勝則とは違うイメージの少年が、夢の中では出てこない可能性が高いことを、優子はずっと信じていた。ただ、
「そうあってほしい」
 という思いが先行してしまって、無意識のうちに、勝則のイメージを頭の中に焼き付けておかなければ、という思いが強かったのかも知れない、
 だから、それが勝則を観察するという形になって現れ、実際に頭の中に焼き付けた。勝則が優子に対してストーカー行為を行っていたということに遡って、優子は、勝則の存在が自分の中で、切っても切り離せない存在になっていたことを感じていたのだった。
 勝則の存在を意識すると、優子は、いつまでも夢から抜け出せないような気がしていた。今、こうやって考えているのも、
「夢の続きなんじゃないのかしら?」
 と、思ってしまうくらいだ。
 夢から抜け出せないと思うことで、どこが切れ目か分からない夢と現実の狭間で、実際の時系列も曖昧になってきている気がした。
 そのことに気付いてくると、夢の中で、出てくる青年を観察するようになった。同じような顔をしているので、同じ人間だと思ってみていると、どうやら、性格が違っているようだ。
 片や、実直な性格で、優子のことをお姉ちゃんと呼んでくれそうな雰囲気であるのに対し、もう一人は陰湿で、優子をまるで他人のように思っている。しかし、優子には興味があるのか、目が離せないでいる。どちらが目に強さがあるかと言えば、後者の方だった。
 それでも、前者の青年の目は、優子を大切にしようとしている目で、まるで優子を包み込んでくれそうな目であった。実直な性格に見えるのは、包み込んでくれそうなイメージがあるからで、お姉ちゃんと呼びそうに思うのは、そんな弟が生きていたら、そんな性格のはずだと思うからであった。
 分かっているのは、優子の中で弟はイメージされているということだ。それが勝則なのか、それとも違う青年なのかで、大いに優子に対する影響が違っている。もし、違う青年であれば、弟は、少なくとも生まれ落ちてきたのではないかと思う。そして優子の家に帰ってくる前に死んでしまった。その理由も大きなものなのであろうが、もし、そうだとすれば、優子は、イメージしたもう一人の青年と、いつか出会うことができる気がしたのだ。
――まさか、自分の子供?
 今さら、この年齢で子供を産むことはできないので、それはありえない。そう思うと、弟のイメージに実際に会う機会を逸してしまったかのように思えて、口惜しい。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次