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魔法のエッセンス

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「年齢よりも若く見える」
 というイメージが薄れてきた。横顔には憂いがあり、年相応に見えてくるから、不思議なのだ。
 ただ、その思いは、優子を誰よりも知る真美だけではないだろうか。そう思うと、さらに優子をいとおしく思う真美だった。

 しばらくすると、松田が長期出張から帰ってきた。真美は父親の帰りを待ちわびていた。ストーカー騒ぎのおかげで、さらに男性恐怖症になった真美だったが、父親に対しての恐怖症は、すでになくなっていた。
 それは、ストーカーへの恐怖心が、父親に対して元々あった恐怖心を凌駕したのかも知れない。そういう意味ではこちらも堂々巡り、真美は自分が父親の帰りを待ちわびていたことを、父親の顔を見て安心したことで初めて気づいたのだった。
 松田は、早く優子に会いたいと思った。優子から連絡が最初の頃は、毎日のように届いていたが、途中からなくなったからだ。実はそれがちょうど真美との関係ができてからで、松田に連絡をなかなかできなかったのは、優子の中で後ろめたさのようなものがあったからなのかも知れない。
 真美は、父親が帰ってきてから、しばらくは、優子に近づくのを控えていた、優子も真美を近づけないようにしないといけないと思っていたので、その思いはお互いに合致していたことで、精神的に皆の均衡も守られていた。
 三人が久しぶりに食事を共にした。本当は、優子の手料理が一番いいのだろうが、
「ごめんなさい。私、今手を怪我しているので、料理が作れないの」
「そうなんだね。それは気をつけないといけないよ。今日は皆で外食をしよう」
 ということで、松田が知っているというレストランに行くことにした。
 優子が怪我をしているなど、まったく聞いていなかったのが、真美には分かっていた。
「私に気を遣ってくれたんだわ」
 優子の食卓で何度か食事を共にしたが、その時、ずっと身体の関係が続いていたことを、優子の方で気遣ってくれた。お互いに誰にも侵されたくない領域だと思っていたのだろう。
 だが、松田が帰ってきたことを機会として、優子は真美を近づけないようにしようという決意を固めていた。
 もし、あの時、勝則というストーカーが現れなければ、考えなかったかも知れないが、優子は真美を蹂躙していて、自分の欲だけで独占しようとしていたのかも知れない。最初は、男性恐怖症の真美を治してあげようという気持ちがあったのが一番の理由で、自分の中の本能も手伝って、真美を愛したが、本当はもっと他に手段があったのではないかと後悔もしていた。それだけ、真美を自分に引き入れてしまったことは、これからの関係によいはずはないと思うようになったのだ。
 何と言っても、義理とは言え、娘である。どこかで一線を画しておかなければ、このまま修羅の道を突っ走ることになるのではないかと思うからだった。
 優子は、自分の中にある、
――すぐに精神的に乱れてしまう悪いくせ――
 を思い出していた。自分も気付いていない間に、背中合わせになっているもう一人の自分が顔を出す。その顔は阿修羅のごとく、睨みを利かせているのかも知れない。
――誰に睨みを利かせている?
 それは、表の顔の自分にであり、表の顔の自分が見つめる相手にでもあった。
 優子の裏にある阿修羅の顔は、優子の表に出ない悪い部分をすべて抱えているように思う。若く見えるのも、年相応の顔を、裏の阿修羅が担ってくれているからだと思えば、不思議のないことだった、ただ、そんなことを誰が信じるというのだろう? 優子自身も最近まで、まったく意識しいなかったことだったのだ。
 優子は、最近誰も寄せ付けないようになった。真美は、それを自分のためだと思っているようだが、それだけではない。優子自身が、自分の殻に閉じ籠っているところがあるのだ。
 勝則が起こしたストーカー事件に端を発しているのは分かっているのだが、優子自身にもなぜ自分が殻に閉じ籠らなければいけないか分からなかったのだ。
――私は、一体どうしちゃったんだろう?
 優子は、一番いとおしいと思っていた真美に対しても、遠ざけようとしている。元々真美をいとおしいと思った最大の理由がなんだったか、思い出そうとしていたが、なぜか思い出せない。どこか気になるところがあったのは間違いない。そうでなければ、妖艶な部分の自分が表に出てくるはずはないのだから。
 優子はしばらくして、ストーカーの青年が気になり始めた。自分に対してストーカー行為をしたということで、優子の中で許せない気持ちが爆発し、警察に通報して、ノイローゼを演じてみたが、考えてみれば、相手のことを一切考えていなかったことに、今さらながら、驚愕したのだ。
 ストーカー相手に、被害者が気持ちを考えるというのもおかしな話だが、優子はそこまで切羽詰っていなかったはずである。追いつめるようにしたのは、許せないという気持ちが一番強く、どうしてそう思ったかというと、その男に自分の何かを否定された気がしたからだ。
 そこまでは意識している。ムキになってしまった一番の原因は、自分を否定したことだろう。
 だが、彼は優子の何も知らないはずだ。知っているとしてもごく最近のことで、人生を否定するだけのものを知っているはずなどない。そう思うと、ただの偶然なのか、それとも、優子の思い過ごしかのどちらかであろう。
 優子は勝則が真美の彼氏で、自分が真美を彼から奪ったことでのストーカー行為などと知る由もない。ただの赤の他人だと思っている。
 もし、そのことを知っていたら、優子はどうしただろう? やはり警察に通報しただろうか? そして、真美に対して、彼の本性を明かして、別れるように諭したかも知れない。それが一番行動としては正解なのかも知れない。
 優子は真美に対して、いつまで自分の元に置いておくつもりでいたのだろう?
 考えてみれば、優子が真美と関係を持ったのは、真美の男性恐怖症を見つけ、自分が何とかしてあげようと思ったことからだったはずだ。それは義母としての責務も半分頭の中にあったからだろう。
 ただ、真美としてはどうであろうか。今までに感じたこともない感覚の連続に、マヒしてしまった部分も多い。快楽がすべてだと思った時間を、至福の刻として、身体全体が覚えてしまっていれば、優子から離れるなど、できっこないと思うに違いない。
 優子には、言い知れぬ魅力がある。一番の魅力は、やはり一番最初に誰もが感じる「若く見える」ということであろう。それだけでも十分の魅力なのだが、男性から見た場合と女性から見た場合では、かなり感覚的な違いがあるに違いない。さらに、同じ男から見た場合でも、年齢の差で、見え方も違ってくるであろう。
 真美から見た優子、松田から見た優子、そして勝則から見た優子、それぞれにまったく違った優子が瞼に写っているに違いない。
 ひょっとすると、同じ人を見ていながら、まったく違う面が写っているのかも知れない。それは優子が表に出す性格に幾種類かあるからかも知れないが、優子自身が無意識に醸し出す裏の顔が見えていることもあるかも知れない。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次